Subject: [CML 052242] 統合幕僚監部の秘密文書を厳しく批判する。
Date: Thu, 5 Apr 2018 15:15:08 +0900
社会批評社・小西誠です。
長文ですが、日本共産党が公開した(私あての情報公開文書は改竄)統幕文書についての批判です。この文書は、最初の自衛隊の南西シフト策定文書であり、沖縄本島への 水陸機動団の新配備、在沖米軍基地の全てを自衛隊が共同使用することを決定した文書です。
*統幕文書全文は、最後にリンクしています。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日米の「南西シフト態勢」を策定―改竄した、統幕の「日米の『動的防衛協力』について」を批判する!
●アメリカの対中抑止戦略下の南西シフト態勢の策定筆者の情報公開請求に対して、公文書改竄まで行った統合幕僚監部の「日米の『動的防衛協力』について」と題する文書――これは、まさしく2012年時点において、自衛隊の南西シフト=南西諸島への配備態勢を策定した、最初の防衛省・自衛隊の戦略文書であった。
この統合幕僚監部の南西シフトに係わる防衛政策(2012年7月)は、2010年のアメリカのQDRで提出されたエアシーバトル構想に基づき、アメリカの対中抑止戦略を日米共同態勢下で遂行する、初めての防衛政策=南西シフト態勢の策定である。
●「日米の『動的防衛協力』について」(以下「統幕文書」という)は、正面から対中戦略を掲げるさて、この統幕文書は、冒頭から中国の軍事戦略に対する「対中防衛の考え方」「今後強化すべき機能及び課題」を掲げる。その具体的内容は、対中防衛上の広域的・常続的情報収集・警戒監視に加えて、@機動展開能力、A基地の抗堪性及び使用可能な基地・施設、B島嶼防衛のための 水陸両用戦を含めた各種能力、であるとする。
そして、次に統幕文書が記すのが、中国のA2/AD能力に対処する米軍のエアシーバトルに基づく「日米のA2/AD戦略」だ(2頁)。示された図では、中国の軍事力に対する第1列島線・第2列島線への防衛態勢を示し、「中国に対抗する防衛力を備えることが大きな課題」と宣言される。
その中では、「対中防衛の考え方」(4頁)として、平時には抑止として「米軍との緊密な連携により、中国の影響力拡大及び武力行使を抑制」するために、「活動範囲は、中国の東シナ海の海洋権益拡大を阻止し、我が国の領域を主体的に保全する観点から、東シナ海が最優先地域。中国のA2/AD能力に対抗し、抑止力及び作戦能力向上のため、グアムを含めた西太平洋地域での日米の活動を活発化」と記されている。ー恐るべき率直な記述だ。「東シナ海での中国の海洋権益拡大阻止」と。まさしく、中国との「覇権争い」を率直に語っている。そして有事には、この対中防衛を「日本の主体的な行動及び米軍との共同作戦で阻止し、航空・海上優勢の確保」、「機動展開」により対処するとしている。
●2013年新防衛大綱・中期防衛力整備計画を先取りした対中軍事力このための軍事力整備方針が、次に列挙される(5頁)。第1に、「情報警戒」のための「移動レーダーの整備」「沿岸監視部隊の配置」(→与那国島)、新型哨戒機等の導入。第2に、「機動展開能力」として、「初動対処部隊の新編事業着手(先島諸島)」として先島諸島への部隊編成が具体的に策定されている。第3に、「航空・海上優勢のための作戦能力」としてF35Aの導入、那覇基地の2個飛行隊への増強、地域配備の潜水艦・護衛艦の増勢などが上げられている。第4に、「基地の抗堪性及び使用可能な基地・施設」として、「ミサイル攻撃に脆弱」「継戦能力」の確保が上げられている。そして第5に、「島嶼防衛のための水陸両用戦を含めた各種戦能力」として、「 水陸両用戦能力の強化」があげられている。
●沖縄本島における日米の共同基地化・共同演習場・共同訓練場化ー自衛隊による在沖米軍基地の全面使用!この統幕文書で決定的に重要な問題は、沖縄本島における自衛隊の 水陸機動団の1個連隊などの配備が策定されているだけでなく、在沖米軍基地での自衛隊による全ての使用が策定されているということだ。 沖縄本島への水陸機動団などの配置は、後述するが、まず沖縄米軍基地に対する、自衛隊の全面使用体制について記しておこう。
第1には、「南西地域における即応態勢の強化」などのために、「訓練場としての共同使用」基地・地域として、「艦対地・空対地射撃訓練場」として沖大東島射爆場をあげ、「艦対空射撃訓練」として米軍水域や鳥島射爆撃場をあげる。また、離発着訓練場として伊江島飛行場、米軍の対戦闘機戦闘訓練空域、空自の一時的使用として米軍嘉手納基地などがあげられている。さらに、米軍の中部訓練場では自衛隊の上陸訓練を、同北部訓練場では自衛隊の対ゲリラ戦訓練を、同伊江島飛行場では自衛隊の降下訓練を行うことが記されている。
ここに見るのは、伊江島を始めとして、在沖米軍のほとんどの基地を日米共用の名の下に、自衛隊が新たに使用するということだ。つまり、米軍基地の縮小どころか、今後は米軍に代わって自衛隊が使用するということだ。その対象は、米軍の基地はもとより訓練場・演習場・射爆場・弾薬庫など全てにわたる。そして、それはまた、沖縄本島の米軍基地への自衛隊配備して打ち出されたのだ。
●水陸機動団1個連隊の沖縄本島配備、嘉手納弾薬庫などの自衛隊使用さて、この統幕文書の、最大の問題の一つが、沖縄本島における 水陸機動団の配備問題だ。2018年3月末、佐世保で「日本型海兵隊」と称する水陸機動団が発足したが、この増設1個連隊などの配備が、この統幕文書では明確に決定されているのだ。これは、統幕文書の別紙第1の他、別紙第2の「沖縄本島における恒常的な共同使用に係わる新たな陸上部隊の配置」においても明記されている。
その内容は、キャンプ・ハンセンに普通科連隊、キャンプ・シュワブに普通科中隊を配備する。米軍嘉手納弾薬庫地区に、陸海空自衛隊の「沖縄弾薬支処」を新たに造るというものだ。また、キャンプ・ハンセンには、加えて陸自の「沖縄補給支処」を造るというものであり、この普通科連隊設置を含めて、31MEUとの連携を重視するとしている。
沖縄本島の米軍基地に、自衛隊の弾薬支処などの兵站施設を造るだけでも大問題だが、決定的なのは、日本型海兵隊の 水陸機動団の1個連隊以上が、沖縄本島に新たに配備され、駐留するということだ。しかも、この 水陸機動団は、米軍の海兵隊との共同態勢が謳われているのだ。
●統幕文書で策定された、自衛隊の南西シフト=南西諸島への配備態勢ところで、この統幕文書のもう一つの重要問題が、南西シフト態勢のもとに与那国島・宮古島・石垣島・奄美大島などに新配備される自衛隊部隊である。言うまでもなく、自衛隊の南西諸島配備が最初に確定したのは、この統幕文書である。ここには以下のように記されている。
「初動対処」として、石垣島・宮古島の南西諸島に1個連隊規模、沖縄本島に1個連隊規模を配置し、また「初動対処部隊として増援」する「最低1個連隊規模」の勢力が必要としている(沖縄本島には第15旅団約2200人がすでに配置されているから、ここでいう沖縄本島1個連隊配置とは、この旅団以外の部隊か)。さらに「 水陸両用戦力を含めた共同対処能力の向上」が謳われ、 水陸機動団編成に向けた南西シフト態勢の強化が強く打ち出されている(だが、この統幕文書では、石垣島・宮古島・奄美大島への対艦・対空ミサイル部隊の配備は記されていない。
ということは、石垣島などへの対艦・対空ミサイル部隊配備は、この後に決定されたということになる。また、奄美大島への警備部隊の配備もなし)。
特徴的なのは、ここでも南西諸島への配備、水陸機動団などの設置が、中国への「戦略的メッセージの効果が高い」として何度も強調されていることだ。「共同使用により期待される日米の連携」(別紙2・4頁)でも、沖縄本島ー南西諸島での日米共同態勢が「周辺諸国に対する戦略的メッセージの発出」と繰り返し明記されている(この箇所には、驚くことに「沖縄における戦略的共同上陸作戦(統合)の実施」が戦略的メッセージだと謳われている)。
●日米共同作戦態勢による南西シフト態勢見てきたように、自衛隊の南西諸島配備=南西シフト態勢とは、自衛隊と米軍の共同作戦態勢下の新配備である。そして、このために先島諸島のみならず、在沖米軍基地・施設をも自衛隊の新基地・訓練場・演習場などの新たな基地として造ろうとしている。つまり、先島諸島―沖縄本島における米軍と自衛隊の一体化、日米共同作戦態勢の強固な推進によって中国への戦略的メッセージを発するというわけだ。このために、沖縄では基地が減少するのではなく、新たな自衛隊配備などを含めて、自衛隊の本格的増強態勢が始まるのだ。
この事態は、日米の本格的対中抑止戦略=新冷戦態勢が始まりつつあるということであり、決して、「南西シフトは陸自のリストラ」などとして軽視する状況ではないということだ。そればかりか、今や、この危機的事態に先島諸島ー沖縄本島を含む、日本の民衆が、全力で対峙しなければならない段階に至っているのである。
しかしながら、この統幕文書に現れた現実は、一方で政府・自衛隊の根底での脆弱性を示している。つまり、防衛省・自衛隊は、こういう防衛政策に係わる公文書を隠蔽する(黒塗り)どころか、改竄・偽造までして、その南西シフト態勢の本当の目的をひた隠ししない限り、先島諸島ー沖縄本島はもとより、国民の支持も取り付けられないということだ。先島諸島などでの「南西諸島配備は災害派遣のため」などのペテンを弄してしか、「合意」を取り付けられないことがそれを示している。したがって、この始まった先島諸島などへの新基地建設を打ち砕くたたかいもまた、「本土」民衆を始め、人々が本当に自覚したとき本格的に始まるだろう。
*統幕文書「日米の『動的防衛協力』について」全文
https://lookaside.fbsbx.com/file/201207-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%8B%95%E7%9A%84%E9%98%B2%E8%A1%9B%E5%8D%94%E5
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http://www.maroon.dti.ne.jp/shakai/jsdf-tachiyomi.pdf
■(株)社会批評社 東京都中野区大和町1-12-10
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以上、転載
太田光征
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