要点
96条1項は、改憲原案の国会への発案権――INITIATIVE=(議会での)議案提出権――規定
GHQ草案:
Amendments to this Constitution shall be initiated by the Diet (or by ... ),
であって
The Diet can propose the Amendments to this Constitution.
ではない
INITIATE : 《政》INITIATIVEによって〈法案・議案を〉提出する
INITIATIVE : 《政》 (議会での)発議権、議案提出権
(リーダーズ英和辞典第二版による)
憲法第96条
@ この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
1946年公布憲法英訳
Promulgated on November 3, 1946
Came into effect on May 3, 1947
http://www.kantei.go.jp/foreign/
constitution_and_government_of_japan/constitution_e.html
Article 96. Amendments to this Constitution shall be initiated by the Diet, through a concurring vote of two-thirds or more of all the members of each House and shall thereupon be submitted to the people for ratification, which shall require the affirmative vote of a majority of all votes cast thereon, at a special referendum or at such election as the Diet shall specify.
Amendments when so ratified shall immediately be promulgated by the Emperor in the name of the people, as an integral part of this Constitution.
GHQ草案原本
12 February 1946
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/
03/076a_e/076a_etx.html
Article LXXXIX. Amendments to this Constitution shall be initiated by the Diet, through a concurring vote of two-thirds of all its members, and shall thereupon be submitted to the people for ratification, which shall require the affirmative vote of a majority of all votes cast thereon at such election as the Diet shall specify.
Amendments when so ratified shall immediately be proclaimed by the Emperor, in the name of the People, as an integral part of this Constitution.
(第1項訳)
憲法改正の正当な発案は、総議員の3分の2の賛成投票をもってする国会の発議によらなければならない。憲法改正案は、人民に正式に提出され、その承認を得なければならない。この承認には、国会が定める選挙において、投票総数の過半数の賛成を必要とする。
現在の「発議」に対応する、GHQ草案原本における単語は、initiateであり、proposeやsuggest(提案)などではないし、draft(起草)でも、decideやpass(議決)でもありません。現在の「提案」に対応する単語は、submitであり、proposeやsuggestなどではありません。1946年公布憲法の英訳も、「発議」や「提案」の解釈に関係する箇所は、GHQ草案原本と同一であるとみなせます。
辞書でinitiateとsubmitの意味を確認しながら、解釈してみます。比較のため、proposeやsuggestも調べてみます。
[1] initiate
(1) New College English-Japanese Dictionary, 6th edition (C) Kenkyusha Ltd. 1967,1994,1998
〈…を〉始める, 起こす, 創始する; 〈…の〉口火を切る
initiate a plan 案を新たに立てる.
initiate new methods 新方法を考え出す.
initiate a conversation 会話の口火を切る.
(2) ランダムハウス英語辞典(Windows版)Version 1.50
【1】 〈事業・計画・改革などを〉始める、開始する、起こす、創始する
【2】 〈人に〉(…の)初歩[原理]を教える,手ほどきを授ける{in, into…}:
【3】 〈人に〉(正式の儀式によって)(…の)奥義[秘訣(ひけつ), 秘法]を伝授する,秘伝を明かす;(正式の手続きを経て)(・・・に)入会[加入、入党]させる 《in,into...》
【4】 〈改正・条約などを〉提案[発議]する:
initiate a constitutional amendment 憲法改正を提案する
[begin等類義語との違いの説明]
新しい分野に積極的に創意をもって第一歩を踏み出す:
initiate a new procedure 新しいやり方を導入する
(3) リーダーズ英和辞典第二版
2 加入[入会]させる;〈人〉に秘伝[奥義]を伝える、伝授する;・・・に初歩を教える、手ほどきをする;《政》INITIATIVEによって〈法案・議案を〉提出する
initiative(リーダーズ英和辞典第二版):
3 [the 〜] 《政》 a (議会での)発議権、議案提出権: have the 〜 発議権がある
b 国民[州民、住民]発案、イニシアチブ(一定数の住民が立法に関する提案を行って選挙民や議会の投票に付する制度[ 権利];cf.REFERENDUM)
initiatorが誰かということは、よく人の関心を集めるところです。initiateは、言いだしっぺが誰なのか、という点に関心の集まる動詞といえます。改憲プロセスでいえば、原案発案者が誰かというのと、最終案議決者が誰かというのとでは、興味の度合いも、政治的意味合いも違うでしょう。
さて、上記のように、辞書によっては、initiateの意味として、「改正案などの提案」を独立項目にして説明しています。しかし、リーダーズ英和辞典によれば、initiateは政治用語であり、initiative、つまり正当な権限によって、議案などを提出することを意味し、単に提出を意味するだけでなく、その権限規定も兼ねていると考えられます。
だから、GHQ草案のinitiateが、この政治用語の意味で使用されているなら、改憲プロセスの最初の重要権限である改憲原案の発案権とその権利主体が誰なのか、逆に言えば、誰がその権利を持っていないのか、を意識して、96条が書かれていると解釈するのが自然です。Emperorに発案権を認めるか認めないかが重大論点であることを考えてみても、96条1項は、発案権規定であると解釈できます。
「国会が」というのですから、国会法改正案(国民投票法案)の衆院段階の審議でも論点になった「内閣発案権」は、ないものと解釈すべきです。憲法72条で、内閣の国会への議案提出権が規定されていますが、GHQ草案では、“introduces bills”となっています。46年公布憲法の英訳では“submits bills”です。bill(議案、法案)は、可決によってact(法令)になるもののことだから、改憲案を指すことはできないでしょう。
要するに、initiateは、「改憲原案の国会への発案」という意味であり、「3分の2以上の賛成」要件とは、国会によるこの「発案」要件のことであると解釈できます。この「発案」要件は、分析的にいえば、「発案署名」要件と、「発案議決」要件=「3分の2以上の賛成」とに分かれるでしょう。
「発案権」の国会への帰属と「発案議決」要件が規定されれば、「発案署名」要件も自動的に規定されます。96条1項は、「発案議決」要件に重点をおいた表現といえます。
では、initiateの意味が、上記政治用語以外の、「創始する」「(改憲原案を改憲プロセス)に入れる」などの場合はどうか?これは明白、まったく同様の解釈になります。
ちなみに、「台湾憲法」やアメリカ光生物学会規約の改定でも、initiateは「原案の発案」を意味しており、その後に、立法院による可決(pass)や学会員による承認(approve)(最終案の提案)、最後に国民投票またはメール投票での承認、というプロセスになっています。日本での改憲プロセス(解釈)とまったく同じです。
「台湾憲法」の改定
Additional Articles of the Constitution of the Republic of China (Taiwan)
http://www.president.gov.tw/en/prog/news_release/
document_content.php?id=1105496084&pre_id
=1105498701&g_category_number
=409&category_number_2=373&layer=&sub_category=
Article 12.
Amendment of the Constitution shall be initiated upon the proposal of one-fourth of the total members of the Legislative Yuan, passed by at least three-fourths of the members present at a meeting attended by at least three-fourths of the total members of the Legislative Yuan, and sanctioned by electors in the free area of the Republic of China at a referendum held upon expiration of a six-month period of public announcement of the proposal, wherein the number of valid votes in favor exceeds one-half of the total number of electors. The provisions of Article 174 of the Constitution shall not apply.
アメリカ光生物学会規約の改定
http://www.pol-us.net/ASP_Home/cnst_byl.html
ARTICLE VIII (AMENDMENTS)
Amendments may be initiated by individual Members of the Council or by a petition to the Council signed by ten Members of the Society. Amendments must be approved by a two-thirds majority of the Council, must then be discussed at a subsequent business meeting of the Society and must finally be ratified in a mail ballot by two-thirds of those Members of the Society voting.
[2] submit
(1) 同上リーダーズ英和辞典
2 a 〈正式に〉提出[提示]する;〈意見・検討などを求めて〉提起する、付託する、寄託する〈to〉
(2) 同上ランダムハウス英語辞典
【3】〈計画・書類などを〉(意見・考慮を求めて)(…に)提出[提起,提示,付託,投稿]する{to…}:
submit an application 申請書を提出する
submit a plan to the committee 委員会に計画を付託する.
【4】〈…ということを〉(恭しく)具申する,意見として申し上げる;提案する{that節}:
I submit that full proof should be required. 完全な証拠が求められるべきだと存じます.
[語源]
[1374.中期英語 submitten<ラテン語 submittere 低くする,屈服させる,譲る=sub- SUB-+mittere 送る]
[3] propose(同上リーダーズ英和辞典)
1 申し込む、申し出る;発議[建議、提案]する〈to〉、〈乾杯を〉提唱する
[4] suggest(同上ランダムハウス英語辞典)
【1】〈考え・計画などを〉(人に)持ち出す,提案する{to…};〈…しようと〉言い出す,勧める;〈…してはどうかと〉(人に)提唱する{doing, that (should)節,wh-節;to…}.
→propose が積極的な提案であるのに比べて,suggest は控えめな提案を意味する
リーダーズ英和辞典によれば、submitは「〈正式に〉提出[提示]する」という意味を持ちます。改憲最終案の最終議決をもって、あるいは、国民投票の投票所で、投票日にいきなり改憲案文書を提示・配布することをもって、「改憲案を提出[提示]する」といえば、無理があるでしょう。
「提出」というからには、改憲案文書を投票日前に送付して、内容をきちんと知ることができるようにするなど、より実務プロセスに近い意味を想定していると解釈すべきでしょう。
peopleという概念を強調したいために“be submitted to the people for ratification”と表現したのだとしても、なぜproposeなどではなく、submitなのかを、考えなければなりません。
「国民投票にかけるべき」という表現には、ほかに、"shall be submitted to a referendum"とより簡単なものもあります:
http://www.google.com/search?q=shall+be+submitted+to+a+referendum&hl
=ja&lr=&client=opera&rls=ja&start=0&sa=N
「発議(最終議決=最終提案?)」をもって改憲案の「国民への提案」になるのだ、との学説がありますが、そうであればなおさら、96条中の「国民に提案して」とはいったいなんなのか、という疑問が深まります。意味が重複してしまうからです。
国民主権の原理からは、そもそも、国会活動はすべて「国民への提案」です。その意味で、「発議」の詳しい解釈はどうであれ、これも「国民への提案」の意味を持ちますが、その軽重、文脈上の関係が問題になります。
国民投票法案で国会広報協議会の設置が規定されていますが、その96条上の根拠はなにか、という論点を考えれば、いみじくも、96条にいう「国会が」「国民に提案して」の意味、その軽重、文脈上の関係を真剣に検討せざるを得なくなるでしょう。特に与党は。
国会が莫大な税金を使って大々的に広報をしようというのです。内閣広報協議会ではない。単なる官報や、投票所での掲示だけで済まそうというのでもない。こうした実務があいまいな「国民に提案して」を根拠に可能なのか?GHQ草案のsubmit=「提出」に立ち返る必要がでてくるのではないかと思います。
これは別論点になりますが、ついでにいうと、元々の議員構成が、小選挙区制のもとで民意を反映していない、特に改憲世論を反映していないのだから、会派比率に応じて協議会を構成するというのは、国民をバカにしています。
上記[1]では、initiateを、「改憲原案の国会への発案」と解釈しました。ここで、仮に、initiateを、「改憲最終案の国民への提案」という意味に重点をおいて解釈した場合を考えます。すると、後に続くsubmitを「単なる提案」レベルの意味に解釈すれば、やはり、意味の重複が生じ、おかしくなります。
この矛盾を解消するには、submitに、「改憲案文書を送付する」など、「単なる提案」以上の積極的な意味合いを持たせるしかないでしょう。
現日本語憲法、その他の資料からも、以上と同じように解釈できます。詳しくはこちらを参照してください。
国会法改正案(国民投票法案)はさきどり改憲法案(憲法96条違反)
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/39365425.html
憲法96条は超議院・超党派発案要件を規定
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/39569802.html
太田光征
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