2009年06月15日

李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」

京畿市民社会フォーラム運営委員長などを務められている韓国の李大洙( イ・デス)氏の話を聞く機会がありました。

スピーカー:李大洙( イ・デス)氏(京畿市民社会フォーラム運営委員長)
日時:2009年5月27日
場所:千葉県議会第4委員会室
主催:川本幸立県議、吉川ひろし県議

李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 1/15
http://www.youtube.com/watch?v=B7BISfxJWyU


(下記に残りのパートがあります)

下からの民主主義で軍事独裁政権を倒し、戦闘的な労働組合運動などが知られる韓国でも、地方の民主化は遅れているといいます。この落差は意外でした。

韓国の落選運動は日本でもよく知られていますが、李大洙氏によれば、韓国の市民団体は道徳主義が強く、1つの政党にのみ肩入れせず、距離間を置こうとする。そういう意味で中立的だとのこと。李大洙氏は市民団体が候補者を擁立すべきとの考えですが、どうも韓国ではそれが主流ではないらしい。これも意外。

下からの民主主義と評される韓国でも、国政の現状はハンナラ党と民主党の保守二(大政)党制。これが地方自治体も支配している。大変元気な韓国の市民運動も、この構造を崩すまでの政治力はまだ持っていないわけです。

初めて知り驚きまししたが、韓国では一般住宅が投機の手段になっているために、市民が頻繁に引越しをするという。通訳の方から後で聞いた話では、家賃をまとめて大家に渡し、大家がそれで投資をするので、元手は後で帰ってくるという。この理解で本当に正しいのだろうか。ともかく頻繁な引越しで、地方議会選挙の候補者を知る時間もないし、愛郷心も湧かない。何より子供が可哀そうですが。

韓国の民主主義を制約する制度の1つが、この賃貸住宅制度といえます。もう1つ重大なのが、やはり選挙制度です。

韓国の国政選挙は、日本と同じ小選挙区比例代表並立制ですが、比例区枠は総定数の18%しかありません。これではほとんど小選挙区制。ちなみに日本の衆議院選挙の比例区枠は総定数の38%です。

[参考]

韓国の国政選挙
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%93%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%81%B8%E6%8C%99#.E5.9B.BD.E4.BC.9A.E8.AD.B0.E5.93.A1.E9.81.B8.E6.8C.99.E3.81.AE.E5.88.B6.E5.BA.A6

韓国では国政の選挙制度が地方議会の選挙制度にも反映されています。基礎自治体では中選挙区制と比例代表制の並立制ですが、比例区枠は総定数の10%しかなく、中選挙区もほとんどが定数2であるため、ハンナラ党と民主党という保守二(大政)党の指定席制度になっています。広域自治体はもっと悲惨です。小選挙区比例代表並立制で、比例区枠はやはり総定数の10%しかありません。

供託金も莫大で、市議会選挙の場合、2000万ウォン(約300万円)もかかります。

先月の時点で、京畿道議会(定数119人)ではハンナラ党が104人、民主党が12人、ソウル市議会(102人)ではハンナラ党96人、民主党5人となっています。

この現状をどう破っていくのか。私は、平和共同候補という運動に関わっているが、韓国でもそうした運動があるのか聞いた。ないという返事で、ハンナラ党の力が強すぎて、共同候補でも太刀打ちできないとのこと。通訳の方に聞いたところ、やはり民主労働党と民主党が同一選挙区で立候補している例があるといいます。

集会後、田口房雄さんが李大洙氏に、比例区枠を拡大する運動をするべきではないかと提案した。多くの運動課題を抱えているので、比例枠拡大の運動にまで手が回らないと李大洙氏は言います。

多くの運動課題を抱えているのは日本でもどこでも同じで、だからこそ選挙制度改正を重視すべきだと私や田口さんなどは考えるのですが、どうなのか。

韓国市民が下からの民主主義でハンギョレ新聞やオーマイニュースといったメディアを創立したことは輝かしい成果ですが、保守寡占体制とそれを支える小選挙区制を打ち破るまでの政治力を獲得していない。

日本でも市民メディアを立ち上げるのに政治的な制約があるわけではないし、日本の方がよほど政党という政治リソースに関しては恵まれていて、小選挙区制廃止の可能性はあるはずです。しかしどちらの運動課題も成果は不十分か、運動自体が盛り上がっていない。

日本では平和運動団体は多いが、民主主義運動の団体は少ない、とはある方から最近聞いた指摘です。下からというのか、ゼロからというのか、民主主義運動を意識した平和運動の必要性を痛感します。

以下は李大洙氏の発言要旨です。、一部、他の参加者の指摘(京畿道議会とソウル市議会の議員構成)も含みます。


地方の民主化は遅れている。政党中央が地方議員を選定する。政党支持率は合わせても50%。中央が地方自治体をコントロールしている。

下から民主主義を発展させてきた歴史がある。1945年、建国準備委員会という地方自治団体を結成するが、アメリカ軍事政権により潰された。朴正熙大統領によって30年近く地方自治体が廃止された。95年に全国的に自治体選挙が実施される。地方自治の歴史は浅い。

2000年に落選運動で国会議員を変えることができたが、まだ保守的な議員で占められている。京畿道で最近、教育長の選挙があり、進歩的な候補が当選した。市民運動の成果であり、韓国政治の可能性を示すもの。その後の(議会)選挙でも、ハンナラ党が(大量に)落選した。現大統領に対する審判だ。議会勢力が一方の政党(ハンナラ党)に著しく偏っている。

教育長の選挙には政党は干渉できず、だから市民団体が関与できた。韓国では政党が政治を握っており、政治団体というものが存在しない。全国的な政党だけ認められている。

市民団体はこれまで自ら候補者を出すことに積極的ではなかったが、これからは出すべきだ。各種団体に対する信頼度調査で市民団体の支持率は50%しかない。政党信頼度は10%だが。進歩的な市民団体に対して無能であるという評価があり、これが心配。

韓国ではローカルパーティーという水準までいっていない。

ハンナラ党と闘うためには、民主党と手を組んで制度を変える必要がある。教育長選挙では、ハンナラ党以外の野党と市民団体が力を合わせた。市民意識を変える力を市民団体は持っていない。市民に愛郷心がない。短期間に多くの市民が引越しするから。政府もニュータウンを盛んに作っている。世界一の土木と建築の国家ではないか。不動産が投機の手段になっている。

韓国では地方自治体のいいモデルがなく、議員はローカルパーティーを分かっていない。

京畿道議会(119人)ではハンナラ党が104人、民主党が12人、ソウル市議会(102人)ではハンナラ党96人、民主党5人。

韓国の市民団体は道徳主義が強く、1つの政党にのみ肩入れせず、距離間を置こうとする。そういう意味で中立的。

地方議員の選定権限は国会議員が握っている。国会議員を頂点とする支配構造ができているところがある。基礎自治体の選挙制度は中選挙区制で、保守的なハンナラ党と民主党が仲良く当選する。6対4とか、7対3で当選する。道議会は小選挙区制で、ハンナラ党が独占している。

99%は政党に所属して立候補する。最近、政党法と選挙法が改定され、政党公認を受けるように誘導されている。選挙公報や投票用紙に掲載する際の候補者の番号は、ハンナラ党、民主党、無所属の順となる。

市民は基礎自治体の選挙に関心がない。頻繁に引越しをするので、候補者を知ることができない。現制度の枠組みでは、政党から出る方が有利。政党には国庫補助が出て、それが地方にまで降りて来る。

投票率が低いのは、若年層と政党嫌いの層が投票に行かないから。50%台から40%台に落ちている。基礎自治体は中選挙区制で、定数は2から4人。2人区がほとんどで、ハンナラ党と民主党が当選する。

道議会には定数の10%の比例枠があり、基礎自治体の議会でも定数の10%(1、2名)が比例枠で、女性に優先的に割り当てられている(当選順位の1番が女性)。

ハンギョレ新聞は、市民が株主になって作られた新聞社で、社員株主による新聞社もある。地方の市民が出資して作った地方紙が結構ある。テレビ放送局と市民の関係は密接。

大手企業の労組ほど戦闘的。非正規雇用が50%を超えている。工場が閉鎖され、失業者が出ている。雇用のない成長から雇用も成長もない段階。自動車や鉄鋼などの企業の労組は政府と一緒にアルバイトや非正規?のパーセンテージを増やし、雇用をカットしたが、政府はこれに対応していない。

ハンナラ党以外の野党勢力は合わせても3分の1しかない。小選挙区で野党が選挙協力しても勝てないことは分かっているので、野党選挙共同の動きはないが、そうした運動で世論に波及させていく段階。

憲法裁判で違憲判決が出たので、比例枠10%の制度ができた。(人口20万人規模の)市議会議員選挙の供託金は2000万ウォン(300万円)。


李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 1/15
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李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 2/15
http://www.youtube.com/watch?v=xsvC1vkKpq4
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http://www.youtube.com/watch?v=3yGft4WIpwg
李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 4/15
http://www.youtube.com/watch?v=XL4i-wIJllI
李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 5/15
http://www.youtube.com/watch?v=19E6YNcO0aY
李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 6/15
http://www.youtube.com/watch?v=RSN48wshYcA
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http://www.youtube.com/watch?v=eVM5IvT3V-E
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http://www.youtube.com/watch?v=CKFiPeIZFr0
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李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 11/15
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李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 12/15
http://www.youtube.com/watch?v=lARwtdWSqak
李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 13/15
http://www.youtube.com/watch?v=Ljbh7UU8vuc
李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 14/15
http://www.youtube.com/watch?v=0BbIbNVEIMw
李大洙( イ・デス)氏「韓国の市民運動の政治参加の方法」 15/15
http://www.youtube.com/watch?v=yc4OUvW9DvY


太田光征
http://otasa.net/

posted by 風の人 at 16:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一般
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