文化性と精神性を破壊する残酷さで、イスラエルによるパレスチナの占領などと共通しています。
太田光征
http://otasa.net/
2009年 我孫子市民活動フェア− 出展パネル原稿
イラクの図書館は破壊され本も消えた
2003年3月、イラクは大量破壊兵器を持っているという事実無根の宣伝がアメリカにより世界中に流されたのを背景に、アメリカ軍のイラク侵攻が開始された。主要な都市への無差別爆撃に続く米・英地上軍の電撃的な進軍により、侵攻開始から僅か一ヶ月余で首都バグダッドは陥落した。フセイン政権の崩壊、イラク軍の壊滅のもと、アメリカ軍の占領支配によるイラク統治が始まった。
イラクは、数千年に及ぶ歴史的文化遺産と多様な文化財の豊かな国であるから、ユネスコはそれらの破壊状況と今後の対策立案のために、戦後直ちに二回の調査団をイラクに派遣した。報告書には多数の文化施設や図書館の罹災状況とともに、次の一節が有るのが目をひく。「占領当局は石油施設を厳重に守っていた反面、博物館や遺跡への略奪行為は野放しだった。」米兵とイラク民衆により、文化財や本が手当たり次第盗まれた。後にロンドンのオ−クションで、イラクの稀少本が100万ドル、約1億円で売買され、帰還米兵の出品であったことの記載が報告書にある。
だがこの報告は、アメリカのイラク侵攻の真の目的が何であったかを、問わず語りに示している。石油である。中東での最大の産油国の一つであるイラクを占領下に置き、石油資源の支配をアメリカの意のままにすることこそ真の戦争目的だった。文化財の保存に関心はなく、かくて治安の悪化とともに図書館の本も失われてゆく一方だった。
世界の文化史はこの損失を取り戻せない
ユネスコの報告書にある、主な図書館の損害状況を見てみよう。バグダッドで最も被害が大きかったのは、バグダッド大学中央図書館とモスル大学図書館で、両館あわせて250万冊のうち200万冊が失われたという。イラク国立図書館や国立公文書館も略奪放火により損壊状況はひどい。蔵書、重要資料の一部は、米軍侵攻前に職員により移動されていたのだが、報告書では50万冊が略奪や放火により失われたとされている。
南部バスラではバスラ中央図書館が、司書と市民の協力で蔵書を館外に移して、蔵書の大部分を救出したが、建物施設は戦災により全焼した。バスラ大学中央図書館は施設、蔵書ともに被災、焼失した。北部の都市モスルの図書館・文書館は、建物、設備がおおむね破壊され、略奪を受けるなど被害が大きい。
戦火が及び、治安の悪化したイラク各地の都市で図書館の受けた被害は、まだ数多くあろう。被害調査は、復旧対策とともに、ユネスコや関係国際団体、例えば国際図書館連盟等により続行中であり、全貌が明らかになるのには長い時間を要すると見られる。
そして書籍以外の問題なので、ここでは最小限の言及にとどめるが、歴史的文化財についての破壊、損壊、略奪は、事態がより深刻とも見られている。
バグダッドの国立博物館と考古博物館は、一部の貴重な展示物の避難、移動は行われたものの、破壊、略奪は広い範囲にわたり、1万数千点の貴重な文化財が失われたという。その最たる一つとして、古代遺跡の展示場所から紀元前18世紀のハムラビ法典が刻まれた石碑の一部が米軍兵士により持ち去られた、との記録が報告されていることを挙げておこう。
戦乱等による文化財の流出防止や、不当な販売阻止のために、国際的な会議を経て1954年ハ−グ協定が成立し、実施されている。アメリカのイラク侵攻が開始されてから直ちに、ユネスコはじめ関係国際機関の多くが、同協定による文化財保護と復旧、流出防止に多面的な活動を展開し、なお継続中である。
しかし本年2009年2月に、6年がかりの流出文化財の探索・回収の結果、ようやく再開にこぎつけた国立博物館においては、旧所蔵文化財の回収総数は約6千点。失われたものの三分の一に過ぎず、残り三分の二は行方知れずで終わるのではないか。
そして国立博物館が、メソポタミア文明をはじめとする古代史研究の大きな拠点としての昔日の役割を果たすことは、もはや不可能になったともしてよい。その他イラク全土の博物館や歴史遺跡からの文化財の流出は、今後のイラクでの歴史研究にとって大きな障壁となることに疑いの余地はない。
アメリカのイラク侵攻はそんな結果をもたらした意味で、古代人類が文化と精神生活を創造し、発展させた道すじをたどる文化史探究にとって、将来にわたる困難を及ぼすものであり、全人類への犯罪と言えよう。戦争によるイラクの人的、物的被害、また社会的、政治的混乱が未だに終わったとし得ないことの責任と併せて、アメリカの戦争犯罪として糾弾されざるを得ないであろう。
ひるがえって、我が日本政府と日本人全体のイラク戦争との関わり方がどうであったか、問われざるを得ないのではないか。答えは明らかである。イラク特措法なるものをつくり、従犯ないし共犯として米軍の作戦に協力し、自衛隊派兵等イラク国民に敵対する立場に立った。これが将来もたらす結果を深く考え、現在は国民全体の強い反省が求められているのではないか。
国際間の平和が日本の追求すべき課題であり、その道を偽りなく歩もうとすれば、安保条約という実質的な日米軍事同盟は邪魔者でしかない。イラク戦争の6年間の推移の一端と、そこでの我が国の関わり方を見ただけで、結論とすべきは速やかな軍事同盟の解消、これ以外にない。今や、国民大多数が国のあり方として、その道を選ぶことに賛成、あるいは積極的に推進する側に加わろうとする気運がうかがわれる。日米軍事同盟を解消し、真の平和国家となることこそ国民大多数の願望なのだ。
希望の灯火はここにも −補遺として−
図書館に足を運ぶ人、そして何よりも本を愛する人。そうした人々は世界中共通であり、より豊かな知識を得る喜び、より深く考える絆(きずな)を見いだす幸せ、作者とともに空想の広い世界で遊ぶ楽しみ。こうした読書を通じてだけ得られる経験を共有している人々はどこの国でも同じで、また大勢いるものです。
イラクへのアメリカ侵攻で、イラクの図書館の多くが被災したり、破壊や略奪にあったりの、本を愛する人にとってはイラクの人に限らず、胸の痛くなるような話を書き連ねました。日本ではこうした戦争の実相はほとんど伝えられないので、愛書家には応える話と思いつつ、敢えて丹念に事実を拾いました。
その中にバスラの中央図書館の司書が市民の協力を得て、収蔵図書を救う話があったのをご記憶でしょうか。戦火の近づく中、責任者でもあったこの司書、アリア ムハンマド バクルさんは「図書館の本には、私たちの歴史が全部詰まっている。」と言いつつ、近くの人や大勢の人に呼びかけて協力してもらい、約3万冊蔵書の70%を戦火から護ったのでした。その9日後に、図書館は空襲で焼けてしまいました。
再建はまだだと思いますが、バスラはイラク南部の文化的中心であり、多数の愛書家市民の熱意により、護られた本を再び収納するためにも、復旧は必ずや成し遂げられるでしょう。一日も早くその日がくることを、司書のアリアさんも心から願っているそうです。この話は、アメリカのニユーヨークタイムズに「美談」として戦争中に伝えられ、後に一冊の児童向け絵本になりました。邦訳は、下記の通りですので関心のある方はどうぞ。アビスタの図書館にあります。
書名;バスラの図書館員−イラクで本当にあった話
著者名;ジャネット ウインタ− 訳者;長田 弘
出版社;晶文社 出版年月;2006.04
文責 馬渡 巌/我孫子市 市民がつくる図書館の会
タグ:イラク戦争
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