■発信箱:「小泉さんと我が恥辱=広岩近広(編集局)」(毎日新聞 2008年10月5日付)
http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20081005k0000m070114000c.html
上記の記事を@とし、同記事の中で広岩記者が「我が恥辱」を確認するために「読み返していた」という辺見庸の『いまここに在ることの恥』の該当箇所(辺見が「戦後最大の恥辱」とコイズミを罵倒し、その「返す刀はマスコミにも向けられ」ている怒りの部分)をAとして下記に掲げさせていただこうと思います。
辺見庸のマスメディアの記者たちへの批判は並大抵のものではありません。
辺見は言います。「マスコミ大手の傲岸な記者たち(注:特に「政治部の記者」たち)。あれは正真正銘の、立派な背広を着た糞バエたちです。彼らは権力のまく餌と権力の排泄物にどこまでもたかりつく」、と。
さらにBとして、上記の辺見の「糞バエ」発言に対する2人の新聞記者、1人の市民活動家のレスポンスも掲げさせていただこうと思います。その新聞記者らの真摯な対応は、微かながらも向後のマスメディアの可能性を示唆しているようにも思えるからです。「永田町を去る小泉純一郎さんに、私は己の恥辱をみている」という広岩記者も、この微かながらの可能性の戦列に付け加えるべき人材であろう、と私は思います。
@発信箱:「小泉さんと我が恥辱=広岩近広(編集局)」(毎日新聞 2008年10月5日付)
http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20081005k0000m070114000c.html
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自民党の小泉純一郎元首相が引退する。影響力のあるうちに息子を後継にしたいのか、小泉流の引き際の美学か、あるいは別の理由からなのか、私にはよくわからない。
来る総選挙では、与野党とも小泉改革の罪に触れるようだ。長期政権だったので、功罪はあろうが、ここでは別の罪を振り返りたい。
芥川賞作家でジャーナリストの辺見庸さんが著した「いまここに在ることの恥」(毎日新聞社)を読み返していたこともあり、憲法に関する罪について思い至った。
それは2003年12月9日のことである。当時の小泉首相は自衛隊をイラクに派遣するに当たり、「憲法の理念に沿った活動が国際社会から求められている」と記者会見で強調したのだった。
辺見さんが「戦後最大の恥辱」と怒るのは、憲法前文の大事なパラグラフを省き、「国際社会において名誉ある地位を占めたい」とする後半部分のみを読み上げたことだ。
辺見さんは「デタラメな解釈によって、平和憲法の精神を満天下に語ってみせた」と書いている。
返す刀はマスコミにも向けられる。「総理、それは間違っているではないですかと疑問をていした記者がいたでしょうか」。私が記者会見場にいても、小泉流の演説を聞き流したことだろう。
今にして、つくづく思う。小泉首相が「ぶっ壊した」のは自民党より憲法だったのではないか。事実、名古屋高裁は今年4月、自衛隊のイラク派遣は憲法9条に違反すると指摘した。永田町を去る小泉純一郎さんに、私は己の恥辱をみている。
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A辺見庸の「糞バエ」発言の該当箇所の引用。
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■辺見庸『いまここに在ることの恥』V‐2「憲法と恥辱について」の一節より
【戦後最大の恥辱】
私は人としての恥辱についてもっと語りたいのです。おそらく戦後最大の恥辱といってもいいくらいの恥辱、汚辱……そうしたものが浮きでた、特別の時間帯があった。そのとき、私たちの多くは、しかし、だれも恥辱とは思わなかった。が、恥を恥とも感じないことがさらに恥辱を倍加させる。ひょっとしたら、それは私の脳出血に関係するかもしれません。私はカーッとしました。「これをただ聞きおくとしたら、思想も言説もまともに生きてはいられないはずだ」と思いました。それはいつ起きたか。忘れもしない二〇〇三年の十二月九日です。名前を口にするのもおぞましいけれど、コイズミという一人の凡庸な男がいます。彼が憲法についてわれわれに講釈したのです。まごうかたない憲法破壊者が、憲法とはこういうものだ、「皆さん、読みましたか」とのたまう。二〇〇三年十二月九日、自衛隊のイラク派兵が閣議決定された日です。コイズミは記者会見をして憲法前文について縷々(るる)説諭した。こともあろうに、自衛隊をイラクに派兵するその論拠が憲法の前文にある、といったのです。およそ思想を語る者、あるいは民主主義や憲法を口にする者は愧死(きし)してもいい、恥ずかしくて死んでもいいほどの、じつにいたたまれない日でした。いやな喩えだけれど、それは平和憲法にとっての「Day of Infamy」でした。
二つの意味で屈辱的でした。最悪の憲法破壊者であるファシストが、まったくデタラメな解釈によって、平和憲法の精神を満天下に語ってみせたということ。泥棒が防犯を教えるよりももっと悪質だと私は思います。ナチスとワイマール憲法の関係を私は想起したほどです。ナチスはただ単純な憲法破壊集団ではなかった。一応は憲法遵守を偽装し、「民主的」手つづきで独裁を実現しようとしてワイマール憲法四十八条の大統領緊急令を利用したり、全権賦与(ふよ)法案を議会でとおすなかで独裁を完成していく。つまり、ワイマール憲法の権威をいっときは利用もし、世論を巧妙に欺(あざむ)いた。いうまでもなく、これと日本の現状を比較するのには明らかな無理がありますが、コイズミ的なるものへの世論の無警戒には、なにやら過去の恥ずべきぶりかえしを見ざるをえません。これが第一番目です。
二つ目。コイズミの話を直接聞いていたのはだれだったのか。政治部の記者たちです。彼らは羊のように従順にただ黙って聞いていた。寂として声がない。とくに問題にもしなかった。翌日の新聞は一斉に社説を立てて、このでたらめな憲法解釈について論じたでしょうか。ひどい恥辱として憤慨したでしょうか。手をあげて、「総理、それはまちがっているののではないですか」と疑問をていした記者がいたでしょうか。いない。ごく当たり前のように、かしこまって聞いていた。ファシズムというのは、こういう風景ではないのか。二〇〇二年に私がだした『永遠の不服従のために』(毎日新聞社刊、講談社文庫)という本で書いたことがあります。やつら記者は「糞バエだ」と。友人のなかには何度も撤回しろという者もいました。でも私は拷問にかけられても撤回する気はない。糞バエなのです。ああいう話を黙って聞く記者、これを糞バエというのです。ただし、糞バエにもいろいろな種類がある。女性の裸専門の雑誌に書いて、ブンブンとタレントにたかりついている糞バエ。私は彼らの悲哀をわかります。フリーランスの記者が、ものかげに隠れて何時間も鼻水を流しながら、芸能人の不倫現場をおさえようとする。それは高邁(こうまい)な志はないかもしれない。でも、生活のためにそれをやっている。私はそれをかばいたい気がします。許せないのは、二〇〇三年十二月九日、首相官邸に立って、あのファシストの話を黙って聞いていた記者たち。世の中の裁定者面をしたマスコミ大手の傲岸な記者たち。あれは正真正銘の、立派な背広を着た糞バエたちです。彼らは権力のまく餌と権力の排泄物にどこまでもたかりつく。彼らの会社は巨額の費用を投じて「糞バエ宣言」ならぬ「ジャーナリズム宣言」などという世にも恥ずかしいテレビ・コマーシャルを広告会社につくらせ、赤面もしないどころか、ひとり悦に入っている。CMはこういう。「言葉に救われた。言葉に背中を押された。言葉に涙を流した。言葉は人を動かす。私たちは信じている。言葉のチカラを。ジャーナリスト宣言」。これはまさにブラック・ユーモアです。あるいは、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』にでてくる「ニュースピーク」や「ダブルシンク」の日本版です。言葉を脱臼させ根腐れさせているのは、なにも政治権力だけではない。マスメディアが日々それをやり、情報消費者にシニシズムを植えつけている。あれをもっとも憎むべきだ、軽蔑すべきだと私は思っている。しかし、みんながそうだから、脱臼した言葉のなかで暮らしているから、糞バエでも恥知らずに生きていける。われわれも糞バエになればいいわけです。コイズミがなにをしようが、憲法前文についてどういおうが、「そうですか」と。あるいはちょっとシニカルに「ああ、あんな人だからね」と。でも、一瞬の蘇生というものがあるではないか。一刹那の覚醒というものがあるのではないか。
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B上記の辺見の「糞バエ」発言に対する2人の新聞記者、1人の市民活動家のレスポンス。
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まずスミヤキスト通信ブログ版でひとりの市民活動家が下記のような問題提起をします。
■「辺見庸氏の罵倒」
http://sumiyakist.exblog.jp/4374894/
その問題提起に応えようとする2人の新聞記者。
1人目。共同通信社記者、美浦克教氏(元新聞労連委員長。辺見庸の後輩に当たります)のブログ「ニュースワーカー」。
■「辺見庸氏の罵倒に答えてみたい」
http://newsworker.exblog.jp/4380831
2人目。北海道新聞記者、高田昌幸ブログ「ニュースの現場で考えること」。高田氏は、北海道警察裏金報道で、2004年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞を受賞した取材チームのリーダー。現在、ロンドン支局駐在)。
■「糞バエ」
http://newsnews.exblog.jp/m2006-08-01/#4452306
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東本高志
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