【要旨】
反自民を掲げ、違憲の存在である野党議員が選択し得る結集軸として確実で、憲法上も正しいのは、小選挙区制の廃止を含む公選法の改正。野党選挙共同の大義は選挙制度修正行為にある。これならば多くの政策で一致する必要がない。
【目次】
(1)違憲の国会議員は安保法制=壊憲法制の審議も憲法審査会の活動もできない
(2)国会議員が違憲である理由は「1票の格差」だけでない
(3)選挙制度修正行為としての野党選挙共同
(1)違憲の国会議員は安保法制=壊憲法制の審議も憲法審査会の活動もできない
今国会では野党がたびたび審議拒否をしては「正常化」することを繰り返してきました。漏れた年金情報の問題でもそうですが、これは与党対野党というより、役人の不祥事を野党が追及しているだけで、決定的な与野党対立の構図ではありません。この問題が安保法制=壊憲法制の審議より重大だという主張も国会議員の中にあったようで、確かに「ひとつの手」ではあるのでしょうが、最も重大なのは現国会議員が違憲の存在であるという問題です。
壊憲法制より前に違憲性が指摘されているのは、国会議員の身分そのものです。漏れた年金情報の問題などを理由とする以前に、国会議員そのものの違憲性を理由とすべきでしょう。
ここにきてようやく野党の中から「参院選改革への速やかな対応が国会正常化の条件」という指摘が出てきたと思ったら、壊憲法制の参院審議を27日に開始して、国会が「正常化」するのだそうです。
時事ドットコム:参院審議「入り口」で綱引き=安保法案、連休明け再協議−自・民
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2015071700746榛葉氏はこの後の記者会見で、参院選挙制度改革をめぐる自民党の対応の遅れも批判。「自民党はずっとサボタージュしてきた。不信と不満は渦巻いている」と述べ、参院選改革への速やかな対応が国会正常化の条件と指摘した。
【揺れる安保政策】27日の参院審議入り調整 安保法案で自民・民主 国会正常化へ
http://www.47news.jp/47topics/e/267364.php「自民、民主両党は22日、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案の参院審議を27日に始める方向で調整に入った。民主党の榛葉賀津也参院国対委員長が、参院野党9会派の国対委員長らの会談で明らかにした。参院選挙制度改革に関する公選法改正案は24日にも参院を通過する見通しで、安保法案の衆院採決強行により空転が続く国会は正常化する公算が大きくなった。」
国会議員は「1票の格差」の問題に限ってみても、正当な選挙によって選出されていない違憲議員で、審議する資格がないのだから、最低限の公選法改正に取り組む権限しか持っていないと考えるしかありません。
(2)国会議員が違憲である理由は「1票の格差」だけでない
下記記事でも述べましたが、「1票の格差」以外も争点とする私らの選挙訴訟は、砂川事件裁判と同様、法治国家・立憲主義という価値の根幹に関わるものです。ところが選挙制度では「1票の格差」と定数削減だけがもっぱら問題にされます。
(米国)政府の権限・裁量は広く、主権者の権限は狭くという外形的立憲主義――砂川事件裁判、日米安保、集団的自衛権、選挙訴訟、放射性廃棄物処分場
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/421093816.html「1票の格差」は重要でないわけではありませんが、これが違憲であるのなら、例えば住所非保有者からの実質的な選挙権はく奪はより重大で違憲です。誰でも気が付きます。「1票の格差」は選挙権を行使できた上での選挙権の不平等だと主張されることがある問題ですが、実質的な選挙権はく奪は文字通り選挙権そのものが行使できないのですから。
なぜこういう問題を国会議員、特に野党議員は追求しないのか。これで与党に対峙して政治を変革できるかということです。
通常の国会活動もそうですが、特に国民主権の最高度の発動機会としての改憲発議は、最高度に平等な国民主権が保障された上でなければ絶対に行うことはできません。
従って、憲法審査会の活動も違憲国会議員の活動だからできませんが、平等な国民主権に最も背を向けた小選挙区制の下ではなおさらです。
小選挙区制によって憲法要請である平等な国民主権(院内における主権者の意見の反映度合いの平等)が実現していません。具体的にいえば改憲発議要件の国会議員の3分の2というのが選挙時に投票者の約半数からしか支持を得ていない存在です。選挙時に投票者の5割程度の意見しか背負っていない小選挙区選出議員は全国民の代表(憲法43条)でもないし、国民の厳粛な信託(憲法前文)どころか軽薄な信託しか受けていないのだから、違憲の存在であり、改憲論議や改憲発議など許されません。
国会議員が違憲である理由はほかにもたくさんあります。下記記事をご覧ください。
第47回衆議院議員総選挙(2014年衆院選)無効請求訴訟を提起
http://kaze.fm/wordpress/?p=538小選挙区定数の「0増5減」は無所属候補に対する差別を拡大して選挙の違憲性を強める
http://kaze.fm/wordpress/?p=5392014年衆院選無効請求訴訟:原告適格を制限する過去判例と被告回答書に反駁する準備書面(2)を提出
http://kaze.fm/wordpress/?p=540第47回衆議院議員総選挙(2014年衆院選)無効請求訴訟の上告理由書
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/419881121.html(3)選挙制度修正行為としての野党選挙共同
現時点で野党が反自公で一致できる政策はあるのでしょうか。集団的自衛権反対でさえ一致できていません。「安倍政権の下での集団的自衛権の行使容認」に反対している野党は、有権者にどういう公約を示そうというのか。選挙共同したとしても、その後の方針が不明です。
「反自民」というだけでは政策がバラバラで結集軸になり得ません。政策がバラバラの野党による選挙共同には大義が必要です。
メディアも機会あるごとに必要性を煽っている野党の結集ですが、その結集軸をさっぱり示しません。メディアは言いませんが、それには民意を反映しない「民意を反映しない小選挙区制を修正するために選挙共同が必要」だと主張すればいいのです。当然、小選挙区制の廃止が公約となりますが、自民党を前提とする二大政党制を優先してこれを言いたくない政党の「反自民」の本気度が問われます。
政策がバラバラである以上、他党の政策を支持・応援するという意味合いではなく、与野党の違いと各党への支持を越えて、各有権者の投票価値の平等という憲法上の要請を実現することに、選挙共同の意義を見いだすしかありません。自民党に勝つという大義ではなく、自民党を含む全党の得票率と議席占有率が一致するよう、選挙制度を修正するために選挙共同するのです。多くの政策で一致しなければ選挙共同できないという思いこみもこれで克服できます。
市民運動の取り組みで結集軸を増やすのは当然としても、現時点で反自民しか一致点がない野党、違憲の存在である野党議員が選択し得る結集軸として確実で、憲法上も正しいのは、小選挙区制の廃止を含む公選法の改正しかないでしょう。
太田光征