2013年09月09日

進め一億火の玉だ!

進め一億火の玉だ!

 長生きはしたくないものだ、とつい言いそうになって、ぐっとおなかに力を入れた(「臍下丹田に力を入れよ!」なにせ、戦時中の少国民ですからね、わたしゃ)。くそっ! こうなったらあと7年は生きてやるぞ!
 わたしゃね、研究者でもなきゃ評論家でもない市井のひとですからね、論証なんてことはぬきにしてもうしあげます。感情論だと言わば言え。感情ってのは、なによりたいせつなんでござんすからね、すくなくともこのわたしにとっちゃ。
 
 IOC総会でのプレゼンテーションとそのあとの質疑応答のなかで、日本国を代表して発言した安倍総理大臣は、おおむねつぎの3点を強調し、これがオリンピックを東京へ招きよせる鍵になったと報じられています。

 1.福島第一原子力発電所の状況は完全なコントロールのもとにある。
 2.汚染水による影響はは福島第一原発の港湾内0.3平方キロの範囲内で完全にブロッ  クされている。
 3.健康問題については、過去においても、現在も、将来にあっても、まったく問題な  いと約束する。

 よくもまあ、これだけのマッカナウソをついてくれたものだ、とおもいます。しかし、わたしがくやしいおもいをしているのはそこにではありません。
 アベシンのような男がウソをつくのは、あたりまえです。なにからなにまでウソでかためた男なのですから。いまにはじまったことじゃない。
 くやしいのは、そのウソが、今後大手を振ってまかりとおるばかりか、公式の見解として、つまり、一国家が全世界に公約した事実として、わたしたちに襲いかかることです。このウソでぬりかためられた「見解」が、たんに「見解」である域を超えて、「歴史的事実」になってしまうことです。その公的に確立された「事実」が、わたしたちをとことん抑圧するであろうことです。
 くやしいのは、こういった事実のでっちあげ(隠蔽どころの話じゃない!)が、あえてもうしあげますがね、この日本国にくらしている大多数のひとびとによって、歓迎され、協賛され、この列島に根づいてしまうことです。
 すでにその気配はありありと感じとれた。今朝、反吐が出る思いをこらえながら、TV各局の朝の「ニュース」ならぬ「ニュース・ショウ」を観ました。これからは、日本がまた「一つ」になってがんばるんだっている「機運」に充ちみちていました。3.11以後の「ガンバロウ・ニッポン!」の再登場です。
「進め一億火の玉だ!」――これはわたしが少国民であった時期のスローガンです。国中いたるところにこのスローガンが充ちあふれていた。皮肉なことに、こういったスローガンが叫ばれるのは、それをつくりだして広めた国家=政府が落ち目になってきたときなのですがね。
 前者の轍を踏まない自信が、アベ様にはおありなのでしょうか? それとも、例によって完全に無知であられるのでしょうか。
 TVのニュース・ショウにも、わが民族に特有の「釣りあい」の感覚が、気息奄々、のこってはいるようで、アベソウリがああいった約束をした以上、それをはたさなければならないと発言した識者もいたし、福島のひとたちを「置き去り」にしてはならないと言ったひともいた。きわめつきは、ちょこっと、仮設住宅に住むひとたちの顔を映して、なんだべなあ、と言わせたことでしたか。
 近藤さんが正確に危惧しているように、「この先、オリンピック開催」がこの列島にくらすすべてのひとびとに課せられた(それを課すのはアベソーリです)「至上命題」となるでしょう。至上命題=国益です。だから、そのことに「異を唱える者」は「非国民」にされていくでしょう。
 専門家でなくったって、素朴に考えればわかることじゃないでしょうか? 「安全である」と一国の「最高責任者」が名言したからといって、現実に安全になるわけじゃない。けど、こわいのは、そう言われたひとびとが、ついつい、その気になってしまうことです。みんな、そう思いたがっているのですから、なおさらのこと。みんなが「そう思っている」ことが、いつのまにか「そうである」ことに、とくべつに策を弄すまでもなく、「自然に」なっていく。
 じつは、たまたまのぞいた「そもそも総研たまペディア」で、もと財務官僚だった古賀さんんが語っていた官僚の手口をおもいだしました。
 なにかをやろうとするとき、エクスキューズとして「有識者委員会」をつくりますよね。その委員が10人だとすると、そのうちの4人くらいは「反対派」を入れておく。そのひとりひとりを、いろんな手口で「懐柔」していく。しかし、世の中には一徹なひとが一人くらいはいて「懐柔」されない。すると、そのひとを「変人」あつかいするようにしむけていく。ありとあらゆる手管を駆使して、あのひとは、やっぱしヘンだ。そういえばもとから変人だった、といった情報をたくみにふりまく。新潟県知事にいま現につかわれているのはその手管ですね。
 きのう、わたしは多摩市女性センターというところで講座の報告者をやりました。
そのとき、冒頭で、きょう「わたしのようなもの」を招いてくださったのはよほどの「カワリモン」であるにちがいない。だって、わたしはまぎれもない「カワリモン」ですからね、てなことを言いました。
 この「カワリモン」はむろん大阪語で「かわったやつ」「変人」のことです。これはわたしにとって至高の価値をもつことばです。「ある無能兵士の軌跡」の主人公赤松一等兵はまわりのひとたちから「カワリモン」と言われてたからです。

 赤松一等兵はなぜ「カワリモン」と言われたのか? 軍隊に放りこまれながら、いっこうに兵隊らしくならない。いえ、兵になることを拒否しとおしたというヘンナ兵隊だったからです。
 初年兵教育の教官や助教(だいたいは上等兵)が、赤松二等兵(初年兵は二等兵)が
いっこうに兵技をおぼえようとしないことに腹を立てて、
「きさま、やる気あるのか!」
と、どなる。
 赤松二等兵は平然と答える。
「やる気ありません!」
「なにをっ!」てんで、ぼこぼこにされる。
 それでも、しまいまで元気よく
「やる気ありません!」
 で押しとおす。

 いくらぼこぼこにされつづけても、この態度は変わらない。しまいには、あいつは「カワリモンやからのう」と「認めて」くれるようになる。こうなったらもうしめたものです。

 じつは、このカワリモンのおかげで、彼が所属していた隊の兵隊たちは(隊長もふくめて)、いくたびも「死の戦場」において死地を脱しているのです。このひとが、兵として要求される能力は身につけることをきっぱりと拒否して「無能な兵」になったけれど、生きのびるために必要な知識も判断力も、つまり人間としての能力においては抜群だったからです。
 だから、たかだか一等兵のくせに(ここまでは劣等兵でも進級する)、隊長をさしおいて、っていうか、隊長にたよられて、隊を事実上指揮していた。
 彼にしてみれば、隊といっしょに行動していたほうが生きのびるのに有利だから行動をともししている。隊全体のいのちをすくうことが自分のいのちをすくうことになるから、そうする。しかし、隊のなかにそのままいたら確実に死ぬというときになると、つまり隊に「玉砕命令」が出た段階では、さっさと脱走してひとりになった。
「カワリモン」てのはすてきなんですよ。わたしはあこがれた。そして自分もいつのまにか「カワリモン」ななっていた。
 だけどね、「カワリモン」はまだ周囲から完全に排除されはしない。どこかで認めてくれさえする。これに対して「非国民」ってのは「非人間」ですからね、だれも認めはしない。こわいものです。その「非国民」にされてしまうことに対する覚悟のほどができているかどうか、ですよね。わたしゃ、非国民なんて言われても痛痒は感じない。

 これから先は、いっそう、ろくでもないことばかりおこってきまっせ。「経済界」とやらいうところのおっさんたちはほくほくでしょう。とりわけ土建屋さんたちと土建国家の政治屋さんたちはおおよろこびでしょう。オリンピック「警備」ってな大義名分で、情報管理がすすみ、コクミン総監視体制がととのえられていくでしょう。民間の「警備会社」にも余得がおよぶでしょう。
 一方、フクシマは「終熄」したということに、公式的には、なって、被災者の切り捨てはいっそうすすむでしょう。フクシマに帰れ! とまことしやかに薦められることになるでしょう。避難しているひとたちは、「自己責任」でどうぞ、政府はもうかかわりませんって言われることになるでしょう。
 原発は再稼働します。インドにでもベトナムにでもどしどし輸出します。なにしろ、景気回復、いや、好景気こそ、アベノミクスの御神託なのですから。
 経済格差はどんどんひらいていくでしょう。統計上は見えない失業者がふえるでしょう。
弱者は無造作に切りすてられるでしょう。

 わたしは、もともと現代のオリンピックはきらいです。スポーツは好き、アスリートも好き。観るよりやるほうが好きだけど、しかし、観てたのしいこともある。ただねえ、気にいらないのは、国歌と国旗です。
 なぜ、国家と国家を競わすのか?! スポーツというのは、原則として、個人のいとなみじゃないの? 団体競技にしても、その延長上にある。国家とはかかわりがない。
 アメリカの人種差別に抗議してアメリカ国家に拒否の意思表示をした黒人選手がいたよね。国家を背負って出てこなければ、ああいうこともおこらない。
 オリンピックでの日の丸・君が代ならいいの?! オリンピックでのナショナリズムならゆるせるの?! わたしゃイヤですね。       (2013年9月9日、彦坂諦)

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以上、転載

太田光征
posted by 風の人 at 16:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | オリンピック