2022年04月22日

ウクライナのすさまじい軍国主義と反戦運動弾圧:ウクライナの政治家・左翼数百人が誘拐・拘束され行方不明か

ウクライナのすさまじい軍国主義と反戦運動弾圧について、私も何度か紹介しているウクライナの非武装主義者ユーリー・シェリアジェンコ氏らが、米ニュースサイトToward Freedomの記事の中で説明しています。シェリアジェンコ氏らが語るウクライナの内情は、ウクライナ政府を無条件に支援し、ロシア軍を軍事的に叩く活動に専念すればいいのだという考え方が間違っていることを示すものです。

2014年のユーロマイダン革命以降、ウクライナ側もすさまじい軍国主義で親ロシア勢力とドンバス内戦を戦ってきました。今回のプーチンによるウクライナへの大規模侵攻は、ドンバス内戦の拡大版です。

ウクライナ反戦運動がゼレンスキーによるドンバス内戦の応援になってはいけません。国際社会がこぞって両側に反省を求める和平交渉に持ち込むしかないのです。

【原文】
独占:ウクライナの兵役拒否者たち、なぜ多くがウクライナのために戦わないのかを語る
Exclusive: Ukrainian Refuseniks On Why Many Won't Fight for Ukraine - Toward Freedom
2022年4月12日
https://towardfreedom.org/story/archives/europe/exclusive-ukrainian-refuseniks-on-why-many-wont-fight-for-ukraine/

【要旨】
・2015年、ドンバス地域における戦争動員に対して集団ボイコットを呼びかけたウクライナ人ジャーナリストで良心的兵役拒否者のルスラン・コツァバは有罪判決を受け、1年以上の拘禁刑を受けた。
・2015年、ウクライナでは共産党が「分離主義」を推進したという理由で非合法化された。今年3月22日、ゼレンスキーは主に左派の野党11党を禁止した。
・ウクライナでは軍・NATO・政府に反対する者は「親露派」のレッテルを貼られる。意見が異なれば、左翼からもロシアのスパイだと密告される。国民のほとんどが国家主義者と手を組んでいる。(ウクライナ・マルクス主義のグループに所属するパベル(仮名))。
・戦前の兵役逃れの罰則は最高で3年の禁固刑だったが、2月24日から罰則が無期限に延びた(ユーリー・シェリアジェンコ)。
・4月10日の時点で、ウクライナ国境警備隊は、国外に脱出しようとする「戦闘年齢」の男性をおよそ2200人拘束。
・2019年、ウクライナでは、交通違反などささいな違反行為で若者が軍召集をかけられたり、兵役にさらわれたりするようになった。このような召喚に応じないと拘束される(ユーリー・シェリアジェンコ)。

ウクライナの超国粋主義的な子ども向け軍事サマーキャンプ
Ukraine's Hyper-Nationalist Military Summer Camp for Kids | NBC Left Field - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=CpV16BQfbrQ

・ウクライナでは聖職者や宗教団体であっても良心的兵役拒否者は免除されない。LGBTが出国しようとすると国境で、軍隊の中で虐待される(ユーリー・シェリアジェンコ)。
・「我が国は実存的な敵を作り出し、今やすべての国民が一つの国民性と指導者の下に団結すべきであると言っているのです。この国は概して大きく右傾化しています。もちろんネオナチもいます。しかし、その場合、これらの多くは『ネオナチ』ではなく、『国の防衛者』として認識されているのです」(ユーリー・シェリアジェンコ)。
・OSCEウクライナ特別監視団のドンバスでのカメラ記録によれば、特に2月24日までの数日間、ほぼ毎日、最初の攻撃は政府支配下、つまりウクライナ軍領域から記録されている。
・左翼や政治家ら数百人が誘拐・拘束され行方不明に(2015年に共産党とともに禁止されたウクライナの革命的組合「ボロツバ」の自称共産主義者で反ファシストのアレクセイ・アルブ。反マイダン運動の代表。オデッサの悲劇の当事者)


【本文】

ロシアが2月24日にウクライナで「特別作戦」と称する作戦を開始して以来、企業メディアはウクライナ国民がロシア軍の攻勢に団結して抵抗していると報じている。民間人がさまざまな非軍事的支援活動に志願しているとの報道は別として、ウクライナのウォロドミル・ゼレンスキー大統領をはじめとする国家当局者は、民間人に武器を取るように促してきた。そして3月9日、ゼレンスキーは、ウクライナ人が戦時中に武器を使用することを認め、ウクライナに対する敵対行為をしたと見なされる人々への攻撃について法的責任を否定する法律を承認したのである。ウクライナ国防省は、戦車に火炎瓶を打ちつける方法の説明付き画像をネット上に掲載したほどだ。

ウクライナの社会学グループ「レーティング」(Rating)が3月上旬に実施した世論調査によると、調査対象のウクライナ人のうち90%以上が政府の戦争遂行を支持し、80%が武装抵抗に参加する意思を表明している。しかし、この調査では、ウクライナ東部のドンバス地域にあるドネツクとルガンスクの自称独立共和国に住む人々は除外されている。また、その時点で既に国外に避難していた100万人のウクライナ人も含まれていない。この調査以降、さらに360万人が国外に避難している。

しかし、うわべの勇ましい愛国心に隠れて、反戦運動がある。この運動は、戦争に反対する動機が多様であるのと同様に、地理的に分散しており、1つの勢力として動くに十分な統一性はないように見える。

マイダン後のウクライナでは、軍国主義への反対は、今回のロシアによる侵攻のはるか以前から、先行きが危うかった。ウクライナ人ジャーナリストで良心的兵役拒否者のルスラン・コツァバのケースは、軍法に基づく国家弾圧のケースとして、少なくとも人権団体や平和主義団体からある程度の国際的注目を集めた最初のものであったろう。コツァバはもともと、後に追放されたヴィクトル・ヤヌコーヴィッチ大統領の政権に対する2013〜14年のユーロマイダン抗議活動の支持者だった。しかし、ロシア系民族が大多数を占めるウクライナのドンバス地域で2014年に起きた暴力事件に反対を表明し、方向転換を始めた。彼は2015年、今では悪名高いYouTube動画*1を投稿し、極東地域における動員に対して集団ボイコットを呼びかけた。数十万回の再生回数を集めた後、Youtubeはそれを引っ込めた。これらの発言により、コツァバは逮捕・拘留され、反逆罪と「ウクライナ軍の正当な活動に対する妨害」で起訴された。後者の罪で3年半の判決を受け、1年以上刑務所で過ごした後、彼の有罪判決は控訴により覆された。しかし、2017年、高等裁判所がこの事件を再開し、2021年に彼の裁判が再開された。今回のロシアとの激化の直前には、完全には結論が出ていないものの、国による起訴が猶予された。この記事*2はウクライナにおける反戦表現に対する支配的な心情を垣間見させてくれる。ハルキウ/ハリコフを拠点とする「人権保護団体」のものだが、「ロシア国家との積極的な協力」を理由に、彼の起訴猶予を不当と評している。

*1
Ukrainian Pacifist, Ruslan Kotsaba, Speaks Out Against War – Friends Peace Teams
https://friendspeaceteams.org/ukrainian-pacifist-ruslan-kotsaba-speaks-out-against-war/
*2
‘Treason’ retrial of controversial Ukrainian blogger Ruslan Kotsaba goes hopelessly wrong
https://khpg.org/en/1519167414

「誰にでも密告される」

記者はパベルとだけ名乗ろうとする人物に話を聞いた。彼はキーウ/キエフを拠点とするウクライナ・マルクス主義のグループに所属しているが、この団体は現在では禁止されている。パベルは最近、ウクライナからルーマニアのブカレストに引っ越したが、本名や所属するグループの名称を明かすことは避けた。2015年、ウクライナでは共産党が「分離主義」を推進したという理由で非合法化された。さらに最近では、ロシアによる侵攻から1カ月後の3月22日、ゼレンスキーは主に左派の野党11党を禁止した。パベルは、これらの禁止令と、ウクライナに残る家族の安寧を、匿名にした理由に挙げている。

「軍に何か反対したり、NATOに抗議したり、実際には、あらゆる方向から政府に反対したりする者は誰でも、すぐに『親露派』のレッテルを貼られます」と、26歳の彼はToward Freedomに語った。「相手と意見が異なれば、誰もがロシアのスパイだと密告することが必至です。国家主義者、あるいは無政府主義者や進歩主義者のような『左翼』さえもです。国民のほとんどが国家主義者と手を組んでいる。SBU(ウクライナ保安局)は、抗議行動や集会、論文を嗅ぎつけると、『市民社会』の友人たちに話をし、これらの友人たちが武装した国家主義者を送り込んで、あなたを『処理』させるでしょう」。

彼は、ウクライナの都市ハルキウ/ハリコフに住む親しい同志について語った。この人物は2月24日以前にFacebookで、NATOのウクライナへの干渉に反対し、ミンスク合意を支持する声明を掲載していた。ミンスク合意は7年前の仲介によってウクライナ政府とドンバス分離主義勢力が結んだ停戦協定で、ドネツクおよびルガンスクというウクライナの二州の独立性を宣言したものだ。パベルによると、この人物は3月上旬、国家主義者グループに命を狙われて身を隠していた。この人物は、国家主義者たちがまだ自分たちを探していると考えていた。パベルと潜伏中のこの人物は、数年前に失踪した他の人たちを知っている。

このやり取りと、WhatsAppやTelegramでのわずかなやりとりを除いては、国外に出たウクライナの戦争抵抗者が記録に残る話をしたのを見つけるのは不可能に近かった。1カ月前、ゼレンスキーは戒厳令を発令し、18歳から60歳までの男性のほとんどを出国禁止にしたことを考えれば、これは驚くに当たらない。

兵役は「奴隷の一種」

ウクライナの平和主義リーダーであるユーリー・シェリアジェンコは、戦前の兵役逃れの罰則は最高で3年の禁固刑だったが、2月24日から罰則が無期限に延びたと記者に語った。このような審理や判決は、表向きは関与した「裁判官の安全」のために公開されないため、正確な罰則を確認することは不可能だという。4月10日の時点で、ウクライナの国境警備隊は、国外に脱出しようとする「戦闘年齢」の男性をおよそ2200人拘束したことを報告している。多くは偽造書類を使用したり、役人に賄賂を贈ろうとしたりしたとされ、地方の国境地帯にて死体で発見された者もいる。

一方、31歳のシェリアジェンコは、キーウ/キエフを離れてはいない。それどころか、自身の組織であるウクライナ平和主義運動(UPM)と共に、自国に対する紛争を含め、あらゆる形態の武力紛争に対する非暴力抵抗のメッセージを世界に広めるため、たゆまぬ活動を行っている。彼の組織は2019年に設立され、当初は彼が「奴隷の一形態」と呼ぶ強制的な兵役に反対することが目的であった。

Toward Freedomは日曜日に電話で2時間にわたり話す機会があった。彼は、ロシアにおいてであれ、他の国においてであれ、同じようにこの慣習に反対していると指摘した。しかし、ドンバス地域で戦争が激化した2019年、ウクライナの徴兵制は「特に残酷な性質を帯び始めました。交通違反や公共の場での酔っぱらい、警察官への何気ない無礼など、ささいな違反行為で、若者が路上やナイトクラブ、寮から軍召集をかけられたり、兵役にさらわれたりするようになりました。ウクライナでは、このような召喚に応じないと拘束されるのです。」

シェリアジェンコの平和主義は、旧ソ連末期にあたる幼少期、ウクライナの田舎で行われた「平和」なサマーキャンプで、作家のレイ・ブラッドベリやアイザック・アシモフの作品に没頭した時に培われたものだ。ユーロマイダン以降の今日、国粋主義をテーマにした軍国主義的なサマーキャンプがウクライナのあちこちで行われているのとは対照的であった。

ウクライナの超国粋主義的な子ども向け軍事サマーキャンプ
Ukraine's Hyper-Nationalist Military Summer Camp for Kids | NBC Left Field - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=CpV16BQfbrQ

彼は現在、良心的兵役拒否者である。「ウクライナでは聖職者や宗教団体であっても良心的兵役拒否者が免除されることはありません」。彼は、2016年の「平和への権利国連宣言」が、良心的兵役拒否を国際法のレベルで保護することに失敗したと指摘した。さらに、トランスジェンダーや性別不適合者は八方塞がりの状態に置かれている。「ウクライナでは、トランス女性は法的に男性として扱われるため、戒厳令の対象から免除されることはありません。しかし、その場合、彼女たちは軍隊で戦うことも禁じられています。ここウクライナではLGBTの人たちが出国しようとして国境で、また軍隊の中で虐待されるという恐ろしい話もあります」とシェリアジェンコは述べている。

彼は、ウクライナ社会がますます軍国主義化し、ナチズムが現実の問題になっていると述べている。「我が国は実存的な敵を作り出し、今やすべての国民が一つの国民性と指導者の下に団結すべきであると言っているのです。この国は概して大きく右傾化しています。もちろんネオナチもいます。しかし、その場合、これらの多くは『ネオナチ』ではなく、『国の防衛者』として認識されているのです」。ミンスク合意の停戦は、ウクライナ軍と分離主義武装勢力の双方によって、ほぼ毎日のように破られてきたと彼は指摘した。とはいえ、OSCEウクライナ特別監視団のドンバスでのカメラ記録を精査すると、特に2月24日までの数日間、ほぼ毎日、最初の攻撃は「政府支配下」、つまりウクライナ軍領域から記録されていることが分かる。2月に戦争が激化するころには、UPMの任務は徴兵制への通常の反対を超えて、ウクライナおよびロシアにおける軍事動員に直接挑むことへと拡大していた。UPMが特に懸念しているのは、NATOの役割と、西側から無制限に送られてくる武器である。「国連が国際平和の法を執行するための真の組織となることに失敗したので、米国は世界規模で暴力的統治を確立するためにNATOを発展させました。これらのNATOの兵器は、この戦争を激化させ、レイセオン、ロッキード、ボーイングのような兵器企業にとって大きな利益をもたらすものです。ロイド・オースティン(米国防長官)はレイセオンの役員だ!」とシェリアジェンコは語った。後者の主張は正しい。

記者は、シェリアジェンコに、自身の安全に懸念があるか、政府や戦争に公然と反対することのリスクの性格について、尋ねた。「私は同胞相争う戦争で戦わないし、誰もそうすべきではありません。でも、幸いなことに、私は一貫して平和主義者です。もし、召集令状が来ても、私は行きません。そして、幾つかの予防策を講じています」。

シェリアジェンコは、ロシアの軍事行動にも反対を表明していると語った。しかし続けて、ウクライナがドンバス地域を自称独立共和国に譲ることを平和活動家が提案すれば、逮捕される危険性があると説明した。幸いなことに、彼は領土の譲歩を議論しないので、脅威とは見なされない。「私はむしろ変人、道化師と見られているのかもしれません」。

「数百万人が当局を支持しない」

もう一つの視点は、2015年に共産党とともに禁止されたウクライナの革命的組合「ボロツバ」の自称共産主義者で反ファシストのアレクセイ・アルブ(36)の言葉である。アルブは、地元オデッサの2014年の市長選挙で反マイダン運動の代表を務めた。しかし、2014年5月2日に起きた虐殺事件(訳注:「オデッサの悲劇」)の後、彼は逃亡を余儀なくされた。数十人の死者が出ていた。

「報道では、労働組合の建物に避難したのは私の要求で、だから42人の死は私の責任だという類いの非難が出始めました。もちろん、そんなことはありません」と、アルブはロシア語で記者に説明した。「しかし、私は、当局が世間の反応を準備していることに気づいたのです。5月8日、SBUが翌朝に私と同志を逮捕するという情報を得ました。その後、私は最重要指名手配リストに載りましたが、既にクリミアにいました」。

アルブは今、ルガンスク人民共和国のルガンスクという街にいる。そこから、ウクライナ政府が支配する地域に戻った同志と定期的に連絡を取り合っている。

「ウクライナの数百万人は極右当局を支持しているわけではなく、その全員が本当に怯えていると言いたい」。同様の心境は、Toward Freedomの3月21日の記事*にも書かれている。「これらは逮捕、拷問、誘拐を恐れているのです」とアルブは付け加えた。「軍事作戦が始まって以来、反対派の多くの著名人が誘拐され、行方不明になっています」。その中には、ウクライナ左翼勢力連合元リーダーのヴァシリー・ヴォルガや政治学者のドミトリー・ジャンギロフも含まれます。「さらに悪いことに、キーウ/キエフ体制に反対していた多くの人々が拘束され、これらの運命についてはまだ分かっていません。例えば、コムソモール(青年共産主義者同盟)のリーダーであるコノノビッチ兄弟、その他数百人もの人々です」。「親ロシア派」と非難されたコノビッチ兄弟が3月6日に拘束されたとの情報は、世界の左翼界隈で広まり、彼らの解放を求める声もあった。

アルブは、反戦運動がウクライナ国家にウクライナ右翼国軍の非軍事化を要求していることを改めて述べた。また、統一的な反ロシア自由戦士の国家というメディアが示す像の裏には、多くの反対意見を見いだせることを強調した。

アルブは、「ケルソンやメリトポリのような解放区では、多くの人々が軍事作戦と実際に関係していることが分かります」と述べ、ロシア軍が地域を支配するまでは、国家の弾圧に対する恐怖が人々の意見を覆い隠していることが多いことを示唆した。「キーウ政府の支配がなくなれば、人々は右翼的な占領の終結を極めて広く支持するようになるでしょう」と述べた。

ファーギー・チェンバースはニューヨークのフリーランスライターかつ社会主義オーガナイザーで、Toward Freedomのために東欧からレポートしている。ツイッター、インスタグラム、サブスタックに投稿している。

(以上)


太田光征
posted by 風の人 at 23:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | ウクライナ危機
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