2022年04月17日

ウクライナ反戦運動がゼレンスキー体制の応援になってはいけない理由

現在のウクライナはミャンマーやイスラエルの政治に近づいています。社会学者のウォロディミル・イシェンコ氏がアルジャジーラでウクライナ政治の状況について説明しているので、ご紹介します。ウクライナ反戦運動がゼレンスキー体制の応援になってはいけない理由が分かると思います。ウクライナによる応戦の支援よりも停戦を実現させる運動に力点を置きましょう。

イシェンコ氏は下記記事によればウクライナ人です。下記記事ではゼレンスキーによる政党停止処分が左翼政党に対する弾圧かどうかの観点で書かれたもので、概してウクライナに左翼政党は存在しないと執筆者は評価しています。

Is Zelenskyy Cracking Down on the Ukrainian Left? | Novara Media
https://novaramedia.com/2022/03/24/is-zelenskyy-cracking-down-on-the-ukrainian-left/



ウクライナはなぜ11の「親ロシア」政党を停止したのか?| ロシア・ウクライナ戦争
Why did Ukraine suspend 11 ‘pro-Russia’ parties? | Russia-Ukraine war | Al Jazeera
https://www.aljazeera.com/opinions/2022/3/21/why-did-ukraine-suspend-11-pro-russia-parties

【要旨】
・ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ロシアとのつながり」があると主張するウクライナの11政党を停止処分にした。そのうちの1つ「生活のための野党プラットフォーム」(自宅軟禁から逃れて逮捕されたヴィクトル・メドベチュクの政党)は最近の選挙で2位になり、450議席あるウクライナ議会で44議席を占めている。
・2014年以前、ウクライナの政治には、欧州・大西洋圏の国際機関よりもロシア主導の国際機関との緊密な統合などを求める大きな陣営が存在した。しかし、14年のユーロマイダン革命やクリミア、ドンバスにおけるロシアの敵対的行動により、親ロシア派はウクライナの政治において周縁化された。
・同時に、親ロシア派というレッテルが誇張され、ウクライナの中立を求める者を指す言葉として、また左翼その他多くの言説を貶め黙らせるために使われ始めた。理由は主に、これらの立場が2014年からウクライナの政治領域を支配してきた親欧米、新自由主義、民族主義の言説を批判しているためである。これらの言説はウクライナ社会の政治的多様性を実際に反映しているわけではない。
・最近活動が停止された3つの政党は2019年の議会選挙に参加し、合わせて約270万票(18.3%)を獲得している。2015年には、「脱共産化」法に基づいて国内のすべての共産主義政党が停止された。
・ロシアの侵攻よりずっと以前から、ゼレンスキーが政治的権力を強化しようと試みていた。昨年以来、政府は、不正行為の説得力ある証拠を提示することなく、定期的に反対メディアと一部反対勢力の指導者に制裁を加えている。1年前、政府はプーチンの個人的な友人であるヴィクトル・メドベチュクと彼のテレビ局に制裁を課した。世論調査でメドベチュクの政党がゼレンスキーの「人民のしもべ」党より国民の支持を得て、将来の選挙でゼレンスキーを追い抜く可能性があると言われ始めた直後であった。
・多くの国民は政府による過去の制裁について、ウクライナ国家安全保障・国防会議に出席している一部のグループが、腐敗した利益をさらに追求するために立案し、実施したものだと考えている。
・既にウクライナでは、野党や左翼のブロガーおよび活動家の捜索や逮捕に関する報道が憂慮されるほど増えている。


週末、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政権は、「ロシアとのつながり」があるとの主張に基づき、ウクライナの11の政党を停止処分にした。停止された政党の大半は小規模で、中にはまったく取るに足らないものもあるが、そのうちの1つである野党「生活のための野党プラットフォーム」は最近の選挙で2位になり、現在450議席あるウクライナ議会で44議席を占めている。

2014年以前、ウクライナの政治には、欧州・大西洋圏の国際機関よりもロシア主導の国際機関との緊密な統合、あるいはウクライナがロシアやベラルーシと連合国家になることを求める大きな陣営が存在した。しかし、ユーロマイダン革命やクリミア、ドンバスにおけるロシアの敵対的行動により、親ロシア派はウクライナ政治において周縁化された。同時に、親ロシア派というレッテルが非常に誇張されてしまった。ウクライナの中立を求める者を指す言葉として使われるようになった。また、主権主義、国家開発主義、反欧米主義、非自由主義、ポピュリスト、左翼、その他多くの言説を貶め、黙らせるために使われ始めたのである。

このように多種多様な見解や立場が1つのレッテルの下にまとめられ、非難される理由は主に、これらの見解や立場が2014年からウクライナの政治領域を支配してきた親欧米、新自由主義、民族主義の言説を批判し、これらに疑問を投げかけているためである。これらの言説はウクライナ社会の政治的多様性を実際に反映しているわけではない。

しかし、ウクライナで「親ロシア」の烙印を押され、最近ゼレンスキー政権によって停止処分を受けた政党や政治家は、ロシアとの関係が非常に異なっている。中には、ロシアのソフトパワーの取り組みと関係があるかもしれないが(こうした関係がきちんと調査・証明されることはほとんどない)、実は自身がロシアの制裁下にある者もいる。

ウクライナの「親ロシア」政党の大部分は、何よりもまず「親自民」であり、ウクライナに自律的な利益と収入源を有している。これらの政党は、南東部に集中するロシア語話者としての相当規模の少数派ウクライナ人の現実的な不満を利用しようとしている。これらの政党は大衆の大きな支持を得ているのである。例えば、最近活動が停止された3つの政党は2019年の議会選挙に参加し、合わせて約270万票(18.3%)を獲得しており、ロシアの侵攻前に行われた最新の世論調査では、これらの政党は合わせて約16〜20%の支持を集めている。

ゼレンスキーの停止リストに載っていた他の政党は、左翼的な志向を持っていた。その一部は社会党や進歩社会党など、1990年から2000年代にかけてウクライナの政治で重要な役割を果たしたが、今ではすっかり周縁化されている。実際、現在のウクライナには、その名前に「左翼」や「社会主義」を冠し、現在あるいは当面の間、一般選挙でかなりの部分を確保できる政党は存在しないのである。ウクライナは既に2015年、「脱共産化」法に基づいて国内のすべての共産主義政党を停止しており、これはベネチア委員会から強く批判された。今回の停止処分は、必ずしもウクライナの政治圏から左派を消したいという動機からではないかもしれないが、そうしたアジェンダに寄与していることは間違いない。

皮肉なことに、これら政党の停止処分はウクライナの安全保障にとってまったく無意味である。確かに、「進歩的社会主義者」のように、停止された政党の中には長年にわたって強く純粋な親ロシア派であったものがある。しかし、ウクライナで何らかの実質的な影響力を持つこれら政党の指導者や後援者は実質的にすべてがロシアの侵攻を非難し、現在はウクライナの防衛に貢献しているのである。

さらに、政党活動の停止が、これらの政党の党員や指導者によるウクライナ国家に対する何らかの行動の防止にどのように役立つかは明らかでない。ウクライナの政党組織は、おそらく、活動停止中のシャーリー党(ウクライナで最も人気のある政治ブロガーの1人で、現在は人道的活動に傾注している人物(訳注:アナトリー・シャーリー)が設立)を一部例外として、政治家・活動家の総体としては通常非常に弱いのである。侵略の最中に、クレムリンと直接、あるいはそのプロパガンダ網を通じてロシアと協力しようと考えている人たちは、党組織の外でこれを行うだろう。党の公式口座を通じてロシアの資金を動かそうとする理由もないだろう。

このことはすべて、ウクライナ政府が左翼政党や野党の活動停止を決定したのは、ウクライナの戦時における安全保障上の客観的な必要性とはほとんど関係がなく、ユーロマイダン以降のウクライナ政治の分極化とウクライナ人のアイデンティティーの再規定(この国において多様な反対意見の立場を許容可能な言論の境界から追いやった)と大きく関係していることを示している。また、ロシアの侵攻よりずっと以前から、ゼレンスキーが政治的権力を強化しようと試みていたこととも関係がある。

実際、政党の活動停止という決定は、あるパターンに従っている。昨年以来、政府は、国民に不正行為の説得力ある証拠を提示することなく、定期的に反対メディアと一部反対勢力の指導者に制裁を加えているのだ。

例えば1年前、政府はプーチンの個人的な友人であるヴィクトル・メドベチュクに制裁を課した。世論調査でメドベチュクの政党がゼレンスキーの「人民のしもべ」党より国民の支持を得て、将来の選挙でゼレンスキーを追い抜く可能性があると言われ始めた直後であった。当時、メドベチュクと彼のテレビ局に対する制裁は、在ウクライナ米国大使館からも支持されていた。その後、複数のアナリストが、こうした制裁措置が、プーチンにウクライナではロシアに親和的な政治家は絶対に選挙で勝つことが許されないと思わせ、戦争の準備を始めさせた要因の1つではないかと、推測している。

現在、メドベチュクは自宅軟禁を免れ、ウクライナ当局から身を隠している。「生活のための野党プラットフォーム」は彼を党首からはずし、ロシアの侵攻を非難し、ウクライナを守る軍に参加するよう党員に呼びかけた。

ロシアによる侵攻の最中、「親ロシア派」の政党を停止するという決定を安全保障上の必要性から分類するのは簡単だが、この動きはこうした広い文脈で分析され理解されるべきである。また、野党、政治家、メディアに対する政府の制裁体制は、ウクライナ国内で長い間広く批判を集めてきたことを指摘しておくことも重要である。この国では多くが、この制裁はウクライナ国家安全保障・国防会議に出席している一部のグループが、真剣な議論もなく、怪しげな法的根拠に基づいて、腐敗した利益をさらに追求するために立案し、実施したものだと考えている。

従って、この戦争が終われば、政党の活動停止が解除される理由はほとんどない。法務省が法的措置をとって、政党を永久禁止にする可能性が高い。

しかし、それでは戦争の助けにも現政権の政治的野望の助けにもならない。実際上は、一部のウクライナ人をロシアとの協力に向かわせることになりかねない。

実際、これまでのところ、占領地での侵略者との協力はごくわずかである。親ロシア派の政党や政治家を国民多数が支持する気配はない。また、ロシアがウクライナに傀儡政権を樹立することになれば、間違いなくこれらの政党に接近するだろうが、これら政治の幹部の多くはその申し出を断るだろう。資本、財産、西側諸国での利益を危険にさらしたくはないだろうから。これら「親ロシア」政党の支持を受けて当選した地方指導者の中には、既に侵略軍に協力するつもりはないと明言している者もいる。

しかし、これらの政党が停止された後、その地方組織や議会のメンバー、および積極的な支持者は、占領地でロシア人に協力する傾向が強まるかもしれない。実際、ウクライナに政治的な未来がなく、むしろ迫害に直面していると確信すれば、これらの人々はロシアに目を向け始めるかもしれない。そうなれば、大衆が「裏切り者」を探して処罰し始め、ウクライナの「ナチズム」問題についてのロシアのプロパガンダが強化されるため、暴力が助長される可能性がある。既にウクライナでは、野党や左翼のブロガーおよび活動家の捜索や逮捕に関する報道が憂慮されるほど増えている。

今日、ウクライナは存亡の危機に直面している。ウクライナ政府は、今回の活動停止などの動きがウクライナ国民の一部を疎外し、指導者の意図を疑わせることは、国を強くするのではなく、弱くし、敵に利するだけであると理解する必要がある。

ウォロディミル・イシェンコ
ベルリン自由大学東欧研究所研究員
ウォロディミル・イシェンコはベルリン自由大学東欧研究所の研究員。研究テーマは、抗議行動や社会運動、革命、急進的な右派・左派の政治、ナショナリズム、市民社会。現在、書籍『マイダン蜂起:2013〜2014年のウクライナにおける動員、急進化、革命』の原稿を共同執筆中。

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太田光征
posted by 風の人 at 17:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | ウクライナ危機
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