欧米諸国首脳が全面核戦争に向かう道を押し止めているという、軍事的な視点での見通しを述べる見解がありますが、軍事の本質は制御不能性です。ロシアが勝てば当初想定していた以上の要求をするかもしれない。ウクライナが勝ちそうな情勢になれば、それこそプーチンは核ミサイルのボタンを押すかもしれない。
今必要なのは「実効的な停戦」を実現するための世論作りです。プーチンを悪魔視するだけで停戦を実現できるわけではありません。私たちはイラク戦争などを止めることができなかったことから教訓を引き出すべきです。
米国のブッシュ大統領が持ち出した開戦理由は、イラクのフセイン大統領が大量破壊兵器を持っているということでした。ところが開戦当時に大量破壊兵器はなく、悪魔視されたフセインの方に理があったのです。重大なのは、イラクが大量破壊兵器の国連査察を受け入れたにもかかわらず、米国などが査察を打ち切らせたことです。いくらフセインが国内で残虐な行為を行っていたとしても、フセインの言い分も聞かなければならない。
イラク戦争での反戦世論は大いに盛り上がりましたが、開戦を阻止し、停戦を実現することはできませんでした。開戦理由などの理屈とそれに対する反論は、誰が発するものであれ、すべて検証するべきものです。最初から真偽を決めつけないこと。戦争当事者の論理と心理に食い込まない限り、戦争を押さえ込めない。これはイラク戦争から引き出せる教訓です。
ロシアをNATOが軍事的に威嚇すること(NATOが東方拡大をしないとした約束の有無に関係なく)は、日米軍事同盟が斬首作戦の軍事演習などで北朝鮮を威嚇することと同じで、許されません。こうした軍事的威嚇を拒否するプーチン側の主張にも理があるのです。プーチンが戦争犯罪者であるとしても。
ところが国際世論、メディアはプーチンを悪魔視して、NATOによる軍事威嚇、ウクライナ東部での人権侵害に目をつぶり、マレーシア航空撃墜事件についてもほとんど検証を行わず、放置してきました。こうした状況は軍事的対立を増長させる要因にしかなりません。安全保障にとって好ましいどころではない。
安全保障の話はロシア軍を引かせた後の話だという意見があります。軍を引かせなければならない国・地域、戦争・人権侵害はたくさんあります。立憲民主党なども賛成して、戦争への道を開くことに貢献しかねないサイバー警察法案が衆院を通過してしまいました。侵略戦争が起こった後で反対するのでは遅い。サイバー警察法など戦争につながる要因すべてを普段から潰していく必要があります。
現実を見るべきです。侵略戦争反対の声を上げることはベースとして必要ですが、それだけで停戦に持ち込めますか。プーチン側の主張、ゼレンスキー側の主張を平等に取り上げ、正当な部分を認めて停戦に持ち込むしかないでしょう。安全保障の手立てを提案して実践する反戦運動が必要です。
以下、声明類などを紹介しながら、敷衍していきたいと思います。
コードピンクは、パレスチナ解放にも大きな力を入れている国際平和運動団体だけあって、歴史を昨日から語らず(イスラエルは昨日のパレスチナによる抵抗「テロ」から歴史を言い始める)、現在の情勢に影響を及ぼす歴史的時間軸でウクライナ危機を見つめ、私の言い換えでは当事者すべてが反省することで停戦のチャンスを見いだそうと、いま最も求められる実践を提起しています。
TUP速報1023号 ロシアによるウクライナ侵略についてのコードピンクからの声明 | Translators United for Peace
https://www.tup-bulletin.org/?p=3934
日本平和学会有志による声明は、交渉の中身は例示していませんが、市民個人レベルでも具体的な交渉の行動をと、日本国憲法を体現した実践を呼び掛けています。
声明:ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻を非難し、平和を希求する人々と連帯する声明 - 日本平和学会ホームページ
https://www.psaj.org/20220228/?fbclid=IwAR1ybYg7o-_06S4jfZxsRIFBkKsNweomvEuhmB791qjk6r_4qfUY_qYl-7I
NATO勢力がロシア・中国(そして北朝鮮)にかけてきた軍事的圧力と経済的屈辱は、地球のプレートみたいなもので、いずれはバランスを崩して反動を引き起こします。核保有大国二極化の中でバランスを崩さず力で押さえ付けられるというのは妄想です。デヴィッド・ハーヴェイ氏はこうした主旨に加え、やはりイラク反戦運動が失敗に終わったことを指摘しながら、協調に基づく新しい世界秩序の創造を呼び掛けています。
ウクライナ侵攻に関する英国の地理学者デヴィッド・ハーヴェイの論説:ペガサス・ブログ版:SSブログ
https://pegasus1.blog.ss-blog.jp/2022-03-02?fbclid=IwAR3abO_FRs5VMfEwZ3YtSyB19d2ld2FUsPW6zZXePRgpLyHGaBmkAMQYbA8
ダイアナ・ジョンストン氏も、マッチポンプ式にロシアを挑発して非難する米国の外交政策を批判しています。
Peace Philosophy Centre: ダイアナ・ジョンストン:米国の外交政策は残酷な遊びである DIANA JOHNSTONE: US Foreign Policy Is a Cruel Sport (Japanese translation)
https://peacephilosophy.blogspot.com/2022/03/diana-johnstone-us-foreign-policy-is.html
高良鉄美参議院議員は、先の参院ロシア非難決議について、<決議案で述べているとおり、武力行使に抗議することは当然であり、その点に異論をはさむ余地はない。ウクライナ国民の生存権が危機に瀕していることを深く憂慮しているが、決議案で「ウクライナと共にある」という言い回しには 違和感がある。今こそ平和憲法を持つ日本が、欧米とは違う立場で、独自にロシア、ウクライナに平和的解決を求める積極的な外交を行うべきである。>との声明を発表して、参院決議案に反対しました。私はさすが沖縄出身の憲法学者だと思いました。#StandWithUkraine(ウクライナと共に)は戦争指導者をも含む表現であり、これに何から何までもくべて火に油を注ぐことは無責任です。
高良鉄美Facebook
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=649844046245505&id=100036597470991
ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議(令和4年3月2日):本会議決議:参議院
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/208/220302.html?fbclid=IwAR1X2feMbsfubZunjO7RpDUYfGD3AL9SajXDjIxh72rtHk2JhU1YmQeLnwI
決議には「我が国を含む国際社会が、緊張の緩和と事態の打開に向けて、懸命な外交努力を重ねてきた」などと白々しい記述があります。じゃあ今後、停戦の可能性はないというのかということになります。決議には、実践レベルの内容、つまり非軍事の協力、実効的な停戦を実現させるための外交、特にウクライナとロシアの(暫定)安保の提案を行うよう、政府に突き上げる内容を盛り込むべきだったと思います。
「ブルーリボン」は結局、解決策なき北朝鮮非難キャンペーンでした。今回の衆参のロシア非難決議は、解決策・安保の提案がないので、ロシア版ブルーリボンになりかねず、逆に日本内外で軍事エスカレートを招く危険性さえ持っています。案の定、政府はウクライナへ防弾チョッキ(医療関係者などに供給される保証があるなら構わないと思う)という武装物資を供給する方針を示し、日本共産党までが一時、反対しない見解を表明しました。本日、その見解を撤回したので、私は安堵しましたが。
最近、驚くべき意見に遭遇しました。故永六輔さんの言葉「戦争体験を伝えろって、誰が誰に伝えるんだよ。戦争なんてものは伝えられるような、なまやさしいもんじゃない。戦争なんてものは反対だけしてりゃいいんだよ。」(調べたら、『週刊金曜日』の「永六輔語録」の1つだった)を援用して、プーチンによるウクライナ侵攻をめぐって、ただ反対だけを言えばいいのだということを主張している人がいるのです。
ちなみに、永六輔さんは戦争を語りつぐ活動をされていました。
土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界 特選ベスト〜戦争を語りつぐ大人たち篇 : 永六輔 | HMV&BOOKS online - TBSP-5/6
https://www.hmv.co.jp/artist_%E6%B0%B8%E5%85%AD%E8%BC%94_000000000014852/item_%E5%9C%9F%E6%9B%9C%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AATOKYO-%E6%B0%B8%E5%85%AD%E8%BC%94%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%96%B0%E4%B8%96%E7%95%8C-%E7%89%B9%E9%81%B8%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%80%9C%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%82%92%E8%AA%9E%E3%82%8A%E3%81%A4%E3%81%90%E5%A4%A7%E4%BA%BA%E3%81%9F%E3%81%A1%E7%AF%87_7626533
ロシア非難だけでは、米国・NATOによる軍事活動の増長をまねく恐れがあるし、日本における9条お花畑論や軍備増強・核武装論に対抗できないのです。というかこれらの論を勢いづかせる恐れすらあります。それみたことか、ウクライナのようにならないように、と。
ところが驚くべきことに、侵略戦争反対以外の狙いを込めた主張は、戦争被害者を利用して自分が気持ちよくなるための行為なのだそうです。
報道ステーションでは、流ちょうな日本語を話すウクライナ人のパルホメンコ・ボグダンさんが、世界ルールのリスタートを主張していました。彼は、侵略反対の気持ちだけを表明しているわけでなく、解決策を提案しています。
報道ステーション「【キエフ在住男性 #世界 への訴え】 パルホメンコ・ボグダンさん 「国連もNATOもEUもアメリカも #機能していない。ウクライナが犠牲となってそれを証明」 「世界が何も変えなければ世界大戦に突入するだろうし、非常事態を受け止めて世界のルールをリスタートさせられれば状況は変わる」 #報ステ」
https://twitter.com/hst_tvasahi/status/1499020478391861250
私はこのツイートを引用する形で、下記のツイートを投稿しました。
「どうかご無事で。軍事支援を切実に求めるウクライナ人の心情はもちろん理解できますが、私は軍事で貢献できない。プーチン非難の意思表示だけでは、徹底抗戦の呼び掛けにほぼ等しく、停戦をもたらす保証がない。停戦に向け、ロシアを含む暫定安保の提案が責任ではないか。リツイートの少なさが意味深。」
私はイラク戦争の頃に思いました。イラク戦争を開戦したのはブッシュが悪い。でもイラク反戦運動という自己責任を課したのは自分たち。イラク反戦運動が失敗した責任はブッシュにではなく、自分たちにあるのだと。
プーチンが悪い、自分は侵略戦争反対だけを言う。これが停戦に結び付くのか。これが自己責任の取り方なのか。
実践の現実を見ましょう。ウクライナ危機をめぐるツイッターを眺めていても、意見表明がほとんどで、署名運動を紹介するなり街頭行動を組んで紹介するなり、実践の投稿が少なすぎます。ウクライナ危機とはまた別ですが、選挙運動期間中も、候補者応援のツイートをするでもなく、評論のツイートばかりが目立ちます。
プーチン非難署名が世界でわずか230万余りしかない現実(昨日からロシアからの署名が出だしたが、最初より署名ペースが鈍くなっている)を見るべきです。昨年の衆院選から選挙で負け続けている現実を見るべきです。
石垣市長選、ツイッター拡散 中山氏が砥板氏の2・3倍 利用者の大半は県外在住
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1480308.html
いま目の前にある殺戮を止めさせるためにロシア軍を引かせるのが先ではないか、なぜあなたはロシアの肩を持つのかと私に言う人がいますが、そういう方は殺戮を止めさせるための策を提案していません。プーチンの蛮行に反対する意思表示くらい、私も街頭で1人で行っています。本日のグループ街頭行動でも、私は下記署名を紹介し、IT苦手だなんて言わないで1億筆くらい集めよう、と呼び掛けました。
【署名】Avaaz - この戦争を止める(プーチンの戦争を止めるための署名)
https://secure.avaaz.org/campaign/jp/stop_the_war_loc/
いま目の前にある戦争と人権侵害は世界各地にあるのです。軍が引くのはいったい、何世紀後のことなのですか。イエメン戦争において日本も軍用輸送機を戦争当事国に輸出しようとしている中で、戦争当事国への武器輸出を止めるのは軍が引いた後にすべきと主張することは、あまりにも馬鹿げています。イスラエルによるパレスチナの占領を止めさせるための手立ては、イスラエルが定期的に繰り返すガザ空爆の直後に空爆反対だけを叫び続けて、その後で考えろ、とでも言うのでしょうか。パレスチナ社会はとっくに対イスラエルBDS(ボイコット・投資撤収・制裁)運動を世界に求めています。
いま、米国・NATOの軍事的増長を許さない形で、安保構築につながる反戦運動が必要です。また、運動が一過性で効果の集積性がないと、戦争と人権侵害を止められません。どうしてもイベント的な運動を発想しがちですが、散発的になりがちです。恒常的なネット署名が、1つの現実的な手段になるでしょう。例えば私は、下記署名をバックパックに取り付けた名札大のメディアで紹介したり、名刺裏に印刷したりしています。
【署名】Avaaz - アヘド・タミミさんの釈放を(現在は解放されたが、多くの児童がイスラエル軍に拘束されているため、署名継続中)
https://secure.avaaz.org/campaign/jp/free_ahed_global_loc/
反戦運動にしても選挙を含む政治運動一般にしても、運動のあり方を大いに見直す必要を切に感じています。
#StopRussianAggression
#あらゆる戦争と人権侵害に反対します
太田光征
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