2007年05月11日

朝日新聞よ、どこに行こうとするのか?

 元朝日新聞大阪本社編集局長の長谷川千秋氏が、憲法施行60年の今年の
憲法記念日に向け、日本の新聞やテレビなどの報道機関が行った憲法問題に
関する世論調査結果の独自の分析を9条の会のメールマガジン(2007年5月10
日/第25号)
http://www.9-jo.jp/news/MagShousai/MMS070510.htm#070510l
に投稿しています。

 「1年前、私は、マスコミ報道をよく吟味しよう、調査データをよく読めば、最大
 の特徴は『一路改憲へ』の動きが止まったことにある、と申し上げました。
 今年は、そのことが誰の目にも明らかになりました。改憲問題の焦点は九条
 ですが、どのような設問がなされようと、報じられたほとんどすべての憲法世論
 調査で『九条維持』の声が多数であることが明確になったからです」

 「マスコミの世論調査報道は、設問の仕方、出てきた数字の解釈など恣意的
 な分析、意図的な報道内容のあり方が従来から問題とされてきました。憲法
 世論調査も同様で、近年、読者・視聴者・市民の間から、それを批判する声が
 高まってきたことは、大変よいことです。まだ部分的ではありますが、その効果
 が出始めたのも、今年の特徴でしょう」

 「今の憲法で『日本に平和が続き、経済発展をもたらした』と思うか?『YES』
 86.5%(読売新聞調査結果)。『日本がこの60年間、戦争をせずに平和で
 あり続けたことに、9条が役立ってきた』と思うか?『YES』78%(朝日新聞
 調査結果)―。今年のマスコミ憲法世論調査は、平和憲法が国民の間に
 しっかり根づいていることを示す豊かなデータを提供しています」

 「自社の調査結果に苛立ちを見せたのは、改憲勢力の牽引車を自負し、
 朝刊だけで1000万部、発行部数日本一の読売新聞です。調査結果を載せ
 た日の同紙社説は『『改正』へ小休止は許されない』のタイトルで、『今日の
 国内外の情勢を踏まえれば、憲法改正作業は、休まず、たゆまず進めなけ
 ればならない時代の課題だ』と強調。すさまじい勢いで同紙なりの『休まず、
 たゆまず』を開始しました」

などなど、貴重な分析が続きます。

 私は、長谷川氏の「世論調査結果分析」に共感します。

 しかし、朝日新聞の憲法記念日の社説「地球貢献国家をめざそう」(5月3日
付、若宮敬文・論説主幹)には共感できません。

 同紙の社説(1面)で若宮氏は朝日新聞を代表して次のように書きます。

 「『戦争放棄』の第9条を持つ日本の憲法は、そのための貴重な資産だ。
 だから変えない。これも私たちの結論だ。/ただし、準憲法的な『平和安全
 保障基本法』を設けて自衛隊をきちんと位置づけ、『専守防衛』『非核』
 『文民統制』などの大原則を書き込んではどうか。憲法の条文から自衛隊
 が読み取れないという『溝』を埋めるための工夫である。/国連主導の平和
 構築活動には、一般の軍隊と異なる自衛隊の特性を守りながら、より積極
 的に加わっていくことも、基本法にうたうのがよい」

 但し書きの部分が私には共感できないのです。

 上記の朝日新聞の姿勢について、保守派の論客といってよい田原総一朗
氏は「タハラ・インタラクティブ」で次のようなエピソードを紹介しています(注)。
http://www.the-commons.jp/commons/main/tahara

 5月6日のサンデープロジェクトには、朝日・読売・毎日の社説責任者である
論説委員長・論説主幹が出演し、憲法改正問題をテーマに徹底討論を交わし
ました。

 「各紙の論調はと言うと、大雑把に言って、読売は改憲、朝日は護憲、毎日
 は論憲。(略)朝日は、すっきり護憲ではないけれど、『護憲でいけるじゃない
 か』と考えている。(略)そのかわり、自衛隊については、改憲ではなく『安全
 保障基本法』を制定し、自衛隊の活動を論議して規定すべきだという。具体
 的に言うと、PKOにも積極的に参加する。朝日が自衛隊の海外派兵を容認
 !? そこで、僕は若宮氏(朝日新聞)を少し追い込んでみた」

 「『仮に湾岸戦争みたいなことがおきた。国連の安保理で圧倒的多数で可決
 され、クウェートからイラクを追い出すことになった。こういことが起きた場合、
 日本はどうするか』とたずねた。すると若宮氏は、『それは非常にレアケース
 だと思うけれど、そのときは様々な条件をつけて多国籍軍に協力する』。私が
 『そこは一歩前進ですね』と言うと、読売の朝倉氏がすかさず『大きな前進だ』
 と(笑)」(「朝日新聞が自衛隊の海外派兵を容認!?」2007年5月9日付)。

 また、「他山の石書評雑記」さんはご自身のブログで次のような疑問を発して
います。
http://d.hatena.ne.jp/tazan/20070428

 「船橋洋一氏が、朝日新聞の主筆になった。私は、船橋氏の仕事はオーソ
 ドックスな優等生タイプで、まったく面白くないものだと思っている。年齢的にも、
 定年退職してどこかの大学の教員にでも納まってほしいくらいだ。その船橋氏
 が、紙面全体を統括する主筆になるとのことだ。これまでの朝日新聞の路線で
 順当に厚遇されてきた船橋氏は、きっとこれまでと変わりない紙面づくりをする
 だろう。船橋氏を主筆にすることで、朝日新聞がドラスティックに変わるだろう
 か」(「変化なき朝日新聞 船橋洋一氏、朝日新聞主筆に」2007年4月28日付 )


 私は、「他山の石書評雑記」さんの疑問に賛意を表します。

 さらに「直言極言」(田英夫とジャーナリストの会)の第19号「日米同盟の呪縛
を解き放とう」の一節。あるジャーナリストの危惧。
http://www011.upp.so-net.ne.jp/dennews/chok19.htm

 「朝日新聞コラムニスト、船橋洋一氏の1面を使った米軍再編への全面的な
 旗振り報道には驚かされた。あれは朝日新聞の見解なのか? 最近の船橋
 氏はまるで国務省の代弁者のような筆致だ。米軍再編に対する日本政府の
 優柔不断が日米同盟を危うくしていると言わんばかりだ」(同誌、2004年10月
 号)

 私もあるジャーナリスト氏と同様の危惧を朝日新聞及び同紙主筆になった
船橋洋一氏の筆致に感じるのです。「日米同盟」の「同盟」という言葉は、鈴木
内閣時(1980年〜1982年)には禁句に近い概念でした。上記「直言極言」第19
号には次のような指摘もあります。

 「鈴木善幸首相が1981年に訪米しレーガン大統領と首脳会談したのを受け
 て発表された日米共同声明に初めて、日米の『同盟関係』という言葉が使わ
 れ、それが日本国内で大きな反響を呼んだ。驚いた鈴木首相は『日米同盟
 に軍事的な意味は含まない』と言明、これを外務省が否定する見解をリーク
 するなど事態が紛糾し、伊東正義外相の辞任に発展する。23年前は『日米
 同盟』という言葉は禁句に近かったのだ」(同上)

 その「禁句」だった「日米同盟」という言葉が小泉内閣では全面解禁した。私
は憲法記念の日に一橋大学名誉教授の杉原泰雄氏の講演を聞くことがあっ
たのですが、杉原氏は、鈴木内閣時には「禁句」だった「同盟」という言葉を
小泉首相は二百何十回も使った、と指弾していました。安倍内閣はどうか。
先の訪米を前にして安倍首相が記者団に語った「日米同盟は成熟している。
かつての『参勤交代』のような時代ではない」という言葉はまだ記憶に新しい
ところです。

 さて、朝日新聞は憲法記念の日に上記のような社説を掲げたのですが、
同時に「『社説21 提言・日本の新戦略』として、一挙に21本の社説を掲げ」
ました。そして、自画自賛するのです。「新聞を開いた読者は驚かれること
だろう。8ページにわたって社説を並べたのは前代未聞の試みだ。新聞が
もつ言論の役割を深く自覚したい。そんな決意の表れと受け止めていただき
たい」(同紙、5月3日付社説)と。

 しかし、その「社説21」の4つの柱の3番目の柱「憲法9条と平和・安全保障」
の1ページ1段分を使った大見出しは、「日米同盟を使いこなす。しなやかな
発想」。その大見出しのもとに日米安保を「使いこなす」3つの社説を掲げて恥
を知らないのです。

 ジャーナリスト、ジャーナリズムであるならば、80年代の鈴木内閣時には
「日米同盟」という言葉は禁句に近かったことぐらいは指摘するべきではないか。
それをしないジャーナリズムとはなにか。「私たちは信じている、言葉のチカラ
を。」という朝日新聞の「ジャーナリスト宣言」が空々しく響くのです。

 朝日新聞には元大阪本社編集局長の長谷川氏のような気骨のあるジャーナ
リストもいます。しかし一方で、朝日新聞は「私たちは信じている、言葉のチカラ
を。」という自らのコトバを裏切り続けている存在でもある、と指摘しないわけに
はいかないのです。

注:「田原総一朗の『タハラ・インタラクティブ』はインターネット誌《ざ・こもんず》
の関連サイト。購読(無料)するには読者登録が必要です。


東本高志


posted by 風の人 at 13:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一般
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