伝統的ユダヤ教徒による渾身のイスラエル批判 2012/10/20
この書は敬虔な伝統的ユダヤ教徒からのイスラエル国家に対する渾身を込めた抗議、世
界に向けた告発の書である。
著者はロシア史、ユダヤ史が専門で学術的な著書としては「トーラーの名においてーシ
オニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史」がある。「イスラエルとは何か」はこの「ト
ーラーの名においてーシオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史」のフランス語オリジ
ナル版原稿を大幅に圧縮し、そこに新たに何章か付け加える形で日本語の新書版を念頭
におきながら書き下ろしたものである。新書版ということで学術書とは異なり脚注など
は簡略化されている。この重要な書を読めるのは、実は日本語のこの書だけなのだそう
である。(出版された時点では)
通読して分かったことは、イスラエルという国家の理念(シオニズム)は伝統的ユダヤ
教の教えとは全く相反したものだということである。相反するどころか、シオニズムこ
そはヨーロッパにおける反ユダヤ主義と相似の関係にあるのだという。そして今日イス
ラエルは、かつてのユダヤ人の歴史から見れば逆の加害者の立場となって世界に紛争を
撒き散らしている。著者はこのイスラエルの姿がなぜ起きてしまっているのか、その背
景や歴史から解き明かして世界に向けてその真実を書き伝えようとしているのである。
この書には本来のユダヤ教の考えと対比する形でシオニズムの思想とイスラエルという
国家の歴史と今現在行っている政策が書かれている。この書からはシオニズムというも
のを知る手掛かりと共に本来のユダヤ教の考え方とは如何なるものなのかを知ることが
出来る。ここまで深くシオニズムとユダヤ教の教えの本質を書いた書は少ないのではな
いか。すこぶる有意義な書である。
この書は多くの人に読んでもらいたいと思っている。というのはイスラエルという国家
はあまり日本で注目を浴びることがなかったが今世界の中でイスラエルほど要注意の国
家はないと言えるからである。紛争拡散国家としてのイスラエルである。
イスラエルとパレスチナの問題も多くの人が宗教対立の問題だと思っているが、著者は
それは誤りだという。むしろアジアやアフリカに対して行って来た西欧の植民地化政策
、遅れてやって来た帝国主義の問題と捉えるのが正しいという。
米国の安全保障戦略は現在、「イスラエルの敵が米国の敵であり、米国の敵が世界の敵
である」という基本戦略となってしまっている。それが世界に紛争を拡散しているとい
う現実。それは何故か。それはどうしたら防ぐことが可能かを考える時、本書が欠かす
ことが出来ない一冊になるのではないかと思うのである。
http://www.amazon.co.jp/イスラエルとは何か-平凡社新書-ヤコヴ・M-ラブキン/dp/45
82856438
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以上、転載
太田光征
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