2013年09月30日

ダン・カスゼッタによるシリア国連化学兵器調査団報告書の分析

シリアのグータで8月21日に起こった化学兵器攻撃に関するシリア国連化学兵器調査団報告書について、シャーミン・ナルワニらによる分析を既に紹介しました。

シャーミン・ナルワニらによるシリア国連化学兵器調査団報告書の分析
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/375697201.html

今回は、ナルワニらも分析で取り上げている化学兵器専門家ダン・カスゼッタによる同報告書の分析と、ナルワニ分析に対する反論を紹介します。

ダン・カスゼッタによるシリア国連化学兵器調査団報告書の分析
Observations on the United Nation Report released 16 September 2013
http://strongpointsecurity.co.uk/site/wp-content/uploads/2013/09/D-Kaszeta-Comments-on-UN-Report.pdf

ダン・カスゼッタによるシャーミン・ナルワニ分析に対する反論
Questions and Answers about the UN Report and Clarifications of my interpretation of the Report
http://strongpointsecurity.co.uk/site/wp-content/uploads/2013/09/FAQ-on-D-Kaszeta-comments-on-UN-Report-Rev1.pdf

ナルワニらの分析は、グータで国連が調査した3地域のうち、サリンがモアダミヤの環境・兵器試料からは検出されなかったが、人体試料からは検出されたことを強調するものでした。

カスゼッタは、ナルワニらの主張が国連報告書から都合のよい所だけを選び出した半面の真理であり、誤解を招く恐れがあると批判しています。モアダミヤの環境試料からはサリンの分解物(IMPA、MPA)とサリン合成時の副産物(DIMP)が検出されていることから、サリンが使用されたことは明らかだと、カスゼッタは主張します。

ナルワニらはその分析で次のように書いています。

国連は報告書4ページで、環境「試料は被弾地点およびその周辺地域から採取した」、「OPCW(化学兵器禁止機関)指定のラボから受けた報告書によれば、サリン、その分解物、副生成物、あるいはそれらの組み合わせの存在が、試料の大半で確認された」と明確に述べている。


要するに、2つの弾薬のうち射距離を確認できるのは1つだけ、つまりモアダミヤのもので、これは射距離が3.8〜9.8キロと推定されるが、サリンの痕跡は発見されておらず、従って何らの化学兵器攻撃とされるものにも関与していない。

HRW作成の地図はシリア共和国防衛隊第104旅団の基地をもっともらしい起点と明示しており、モアダミヤから基地までの距離は9.5キロとなっている。しかし、今や、これは通常の戦闘で使用された弾薬であると思われ、化学兵器の交差起点を特定するためにHRWが正当性をもって利用することなどできない。弾薬は当該軍事基地から発射された可能性がある。だから何だというのか。


確かに、この書きぶりではナルワニらがサリンとIMPA、MPA、DIMPの関係を理解しているのか、疑わしい。

カスゼッタも指摘しているように、人体試料のサリン分析の手法が国連報告書には記載されていないので、サリンそのものを検出したのか、分解物を検出したのか、不明です。

国連調査団報告書
http://www.un.org/disarmament/content/slideshow/Secretary_General_Report_of_CW_Investigation.pdf

人体試料からサリンそのものを検出したとすればなおさら、ナルワニらの提示した点は依然として重要性を持ちます。つまり、モアダミヤに打ち込まれた兵器とモアダミヤの被害者が浴びた化学兵器が違うという可能性を捨てきれないのです。

モアダミヤとアインタルマ/ザマルカで使用された兵器が異なるということは、少なくともミサイルの種類について、はっきりしています。両地域で使用されたのがいずれも化学兵器だとしても、化学物質(のグレードなど)が異なる可能性があります。

試料はOPCW(化学兵器禁止機関)指定のラボが分析しました。OPCWに分析方法を問い合わせなければなりません。

太田光征
posted by 風の人 at 21:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | シリア
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