2013年09月25日

シャーミン・ナルワニらによるシリア国連化学兵器調査団報告書の分析

シャーミン・ナルワニらが9月23日付アル・アクバル英語版にシリア国連化学兵器調査団報告書の分析記事「シリアの国連報告書に厄介な問題がからむ」を書きました。その翻訳を長いので3回くらいに分けて掲載します(9月28日、翻訳完了)。

シャーミン・ナルワニは8月21日のグータにおける化学兵器攻撃は反政府軍による誤爆であったとするミントプレス記事(http://goo.gl/VF82Qa)を書いたデイル・ガヴラク(シリア現地レポーターはYahya Ababneh)が今頃になって署名を外してほしいとしている騒動についても、重要な証言をしていますが、これについては後で書きます。ツイッター(http://twitter.com/#!/mitsu_ohta)では既に一部を紹介していますが。

太田光征

シリアの国連報告書に厄介な問題がからむ
Questions Plague UN Report on Syria
http://english.al-akhbar.com/blogs/sandbox/questions-plague-un-report-syria
By Sharmine Narwani - Mon, 2013-09-23 15:57- Sandbox
By Sharmine Narwani and Radwan Mortada
シャーミン・ナルワニ、ラドワン・モルタダ

「驚くべき環境試料」の要旨:
グータ地区のモアダミヤから採取された環境試料すべてからサリンは検出されなかったが、人体試料からはサリンが検出された。論理的結論は、第一にモアダミヤでは化学兵器攻撃が起きなかった、第二にモアダミヤにおいて環境試料はコンタミしていたが人体試料はコンタミしていなかった、第三に英国陸軍化学防御連隊の前司令官ハミッシュ・デ・ブレットン・ゴードンが指摘するように被害者がモアダミヤに連れてこられた、のいずれかということになる。

「人体試料」の要旨:
「私たちは反政府側の医師を支援してきたから、これらの医師は聞き手に聞いてほしいことを話す傾向がある」
(英国陸軍化学防御連隊の前司令官ハミッシュ・デ・ブレットン・ゴードン)
国連調査団が調査した患者は基本的にグータの反政府勢力によって選択された。
神経ガスへの曝露で最初に表れる症状である縮瞳が少ない(1995年の東京サリン攻撃では生存者の99%、グータではわずか15%)。
より進んだ症状のけいれんを経験しても、唾液過多、涙の分泌過剰、縮瞳などのより軽い症状を同時に示さない患者がいる。
意識喪失は神経ガス毒性に曝されたときの非常に重症の症状で、死の直前に起こるものだが、グータではどのようにして患者の78%が意識を失ったのか。

「弾薬の“証拠”」の要旨:
調査団報告書はモアダミヤについて「破片その他の証拠は明らかに調査団到着の前に触れられ、移動させられた」と判断。アインタルマとザマルカについても同様の主旨を指摘。
アインタルマとザマルカの弾薬からはサリンを検出したが、モアダミヤの弾薬からは検出されなかった。
調査された着弾地点は計5カ所で、うちわずか2カ所についてロケット弾の飛跡が推定された。これらの2カ所とは、140mm M14ロケット弾のモアダミヤ(サイト1)、「謎の」330mmロケット弾のアインタルマ(サイト4)。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)はこれら2カ所のロケット弾の推定飛跡の交差点から、化学兵器の発射地点をシリア政府軍基地と示唆するが、サイト1のロケットは化学兵器攻撃に使用されていないので、そうした推定はできない。サイト4のロケットの射距離も不明。
(化学兵器攻撃をシリア政府の仕業だと考えている)ブラウン・モーゼズはHRWと密接に協力している。

「化学兵器は使用されたが、首謀者と方法は?」の要旨:
8月21日のグータにおける化学兵器攻撃の被害者数は300人超から1400人超と幅がある。国連調査団は被害者数を確認できず、墓地でも死体安置所でも一人も死人を確認していない。
調査団は「無作為抽出」した証言者、患者、着弾地域、その周囲などに対する完全なアクセスを保証されなければならない。実際は反政府側がほとんどを事前に選択した。
人体試料と環境試料は改ざんさえ示唆される。
調査団はさらなる調査のためにハーン・アル・アサルへ向かう準備をしているが、調査団はこれらの欠陥調査から教訓を学ぶだろう。


シリア問題を直接扱っている国連高官はアル・アクバルに対して、シリア政府はグータでのいわゆる化学兵器攻撃に関与していないとし、「もちろん、彼(バッシャール・アル・アサド大統領)が自殺を図るはずがない」と語った。

身元の公表を許可しなかったこの国連高官は、グータで化学兵器を使用したのは誰かとの質問に、「サウジの諜報当局が攻撃の背後に存在しているが、不運にも誰も敢えてこの件を話す者はいないだろう」と語った。高官はこの情報をグータの反政府勢力から提供されたと主張している。

シリアのグータで使用された化学兵器を調査した国連調査団の報告書が先週月曜に公表されたが、その任務からして、責任の所在がシリア政府あるいは反政府勢力のいずれにあるのかを明らかにしなかった。

国連調査団報告書
http://www.un.org/disarmament/content/slideshow/Secretary_General_Report_of_CW_Investigation.pdf

ところが、メディアのコメンテーターと西側数カ国の当局者は、グータその他の地域における化学兵器攻撃はシリア政府による仕業であると考えられると強く示唆した。

しかし日曜になって、インディペンデント紙のベテラン中東ジャーナリストであるロバート・フィスクも、「国連その他のダマスカスにおける国際機関から、サリンガスのミサイルがアサド軍から発射されたとする点に重大な疑問が突き付けられている」と述べている。

Gas missiles 'were not sold to Syria' - Comment - Voices - The Independent
http://www.independent.co.uk/voices/comment/gas-missiles-were-not-sold-to-syria-8831792.html

この国連高官の主張は、もう1人の国連高官であるカルラ・デル・ポンテが今年既に表明したことに酷似している。彼女は今年5月、スイスのテレビでハーン・アル・アサル、シェイク・マクスード、サラケブで起きたとされる化学兵器攻撃の後、反政府軍が攻撃をしたことについて、「具体的に強く疑われるが、まだ疑問の余地がないとはいえない証拠」があると語っている。デル・ポンテはまた、国連調査官はシリア軍が化学兵器を使用した証拠をつかんでいなかったが、さらなる調査が必要である点を認めている。

シリアにおける化学兵器調査の任を受けた国連調査団は、化学兵器を誰が使用したのかについて「決定的知見を知り得ていない」とし、デル・ポンテの見解をさっさと一蹴してしまった。

では、なぜこのように相反するリークが国連高官から出てくるのか。

シリアでの化学兵器の使用に関して最近発表された国連報告書が、幾つかの手がかりを与えてくれるかもしれない。化学兵器の使用がどちら側によるものかについては明確に述べていないが、公表内容と除外内容によってグータ攻撃に関しては反政府側の言い分を特別扱いしていることが極めて明瞭である。

驚くべき環境証拠

国連調査報告書は、3つの証拠領域、つまり環境試料、人体試料、弾薬フォレンジックに取り組んでいる。

国連がグータの事実を偽って表記した例として最も驚くべきものは、神経ガスであるサリンの痕跡を検査した環境試料に関する知見に表れている。

国連は報告書4ページで、環境「試料は被弾地点およびその周辺地域から採取した」、「OPCW(化学兵器禁止機関)指定のラボから受けた報告書によれば、サリン、その分解物、副生成物、あるいはそれらの組み合わせの存在が、試料の大半で確認された」と明確に述べている。

国連調査団はグータの2つの地域、つまり西グータのモアダミヤと東グータのアインタルマおよびザマルカから環境試料を採取した。モアダミヤの試料は国連調査団が同地域で計2時間を費やして8月26日に採取された。アインタルマとザマルカの試料は5時間30分かけて8月28、29日に採取された。

国連調査団はこれらの日付を報告書の付属書6で記述している。

ところが付属書7では、グータの環境試料の検査結果について、まったく違ったストーリーが浮かび上がる。報告書の本セクションは、環境試料を採取した町を示さない表が数多くあり、単に日付とコードが試料に割り当てられ、試料の説明と、2つの異なるラボから得た化学物質検査結果が記載されている。

それどころか、これらの表を詳細に見てみると、東グータおよび西グータから得たラボ結果に重大な矛盾が存在する。モアダミヤではサリンが陽性とされた環境試料は1つもないのである。

これは決定的に重要な情報となる。これらの試料は、数多くの関係者が確認した「被弾地点およびその周辺地域」から採取されたものであり、単にランダムに選んだ町の地域からのものではない。さらに、モアダミヤでは、報告されている化学兵器攻撃から5日後に採取されたのに対して、多くの試料でサリン陽性との結果が出たアインタルマとザマルカで国連調査官らが試料を採取したのは攻撃から7、8日後で、化学物質の分解がモアダミヤより顕著であった可能性があるのである。

にもかわらず、化学兵器攻撃の被害者とされる方々の陽性結果が93%および100%となり、サリンへの曝露が最も高いとされたのは、モアダミヤにおいてであった(これらの数字の相違は、同じ試料を異なるラボが検査したことによる)。ザマルカでの結果は85%と91%であった。

化学物質が陽性という環境証拠が1つもなく、生存者においてサリンへの曝露がそのように高いということは、科学的にありそうもない。

筆者が、英国陸軍化学防御連隊の前司令官で、化学兵器専門家集団セキュアバイオ社の最高経営責任者(CEO)を務めるハミッシュ・デ・ブレットン・ゴードンに、モアダミヤの人体と環境の検査結果が明確に矛盾していることについて、話を聞くと、「それは奇妙なことだ」と認めた。

ブレットン・ゴードンは、NGOを通じてグータの医師および第一応答者に実際に訓練をしていることから、国連報告書を念入りに読んでいるが、「重大な意味があるだろう。他にこの点を指摘した者はいなかった」と述べている。

「環境試料と人体試料が符号しないのは奇妙だと思う。原因は、多くの人々がこの地域を踏みつけて歩き、物を移動させたからだろう。患者が他の地域から連れてこられたのでない限り。もっともらしい説明はほかにありそうもない」

ブレットン・ゴードンは、サリンの「毒性」は人体が直接的に曝露された場合にはわずか30〜60分しか持続しないが、衣服では何日も毒性を維持し(医療担当者が防護服を着用する理由)、環境中では何カ月、時に何年も持続することを指摘している。

なぜ国連は自身の調査におけるこの極めて厄介な結果を強調しなかったのだろうか。2種の試料、つまり人体試料と環境試料は調査において中核的な証拠となる要素であるから、これらのデータを報告書に盛り込む必要があった。しかし、国連調査団によって一蹴される不都合な矛盾として、報告書の細字部分に葬り去られた。逆に、国連は知見を記した5ページで仰々しく、下記のように述べている。

「我々が採取した環境試料・化学試料・医学的試料は明瞭で説得力のある証拠として、神経ガスのサリンを搭載した地対地ロケットがダマスカスのグータ地区におけるアインタルマ、モアダミヤ、ザマルカで使用されたことを示すものである」

モアダミヤにおける環境証拠の欠如およびサリンへの曝露を示す豊富な人体証拠から、論理的な結論が以下のように幾つか導かれる。

第一に、モアダミヤではサリンによる化学兵器攻撃はなかった。環境データによれば、あり得ない。第二の説明は、モアダミヤの試料は何らかの形でコンタミ(汚染)していたが、人体試料はそのような兆候を示さなかった、というもの。これはありそうもない説明である。報告書の幾つかのセクションで詳細に説明されているように、国連は収集した証拠の厳格性を確保するのに躍起であったからである。

第三の説明はブレットン・ゴードンが述べたが、患者が「他の地域から連れてこられた」可能性がある、というものである。すべての患者はグータの医師と反政府勢力によって事前に選択され、国連調査団に引き渡された。もしもこれが環境検査の結果と人体検査の間における矛盾をもっともらしく説明する唯一のものであるなら、「患者」はモアダミヤに「挿入」されたことを示唆し、起こらなかった化学兵器攻撃という説明を生み出し得る。

これはほぼ確実に、反政府勢力がグータで事件を仕組んだことを意味する。これらの町は、内戦のほぼ全期間にわたってシリア政府との激しい戦闘が繰り広げられた反政府勢力支配地域である。これらのグータ地区ではいかなる部隊も政府のプレゼンスもない。

人体試料

国連調査団によるモアダミヤおよびザマルカにおける生存者の選択はさらなる疑問を呼び起こす。報告書は下記のように述べている。

「当地域で著名であると見なされる現地反政府勢力のリーダーを調査団が訪問し、身元を確認して、調査団の“保護役”を依頼した。反政府勢力側の連絡窓口を調査団のセキュリティーと移動を保証するために使用し、調査団が面談および試料採取の対象とする最重要の証拠/目撃者へのアクセスを促進し、調査団が主たる活動に専念できるよう患者と群衆を統率するようにした」

端的に言って、反政府勢力が完全に支配するこれらの地域における反政府勢力が、国連が全体で7時間30分をかけて証拠を集める間に、国連の移動およびアクセスに相当の影響力を行使したことになる。

当地の著名な医師を見つけた。この医師に調査団の到着に備えるために動いてもらった…患者については、調査団に引き合わせるよう十分な数が要求され、調査団が面談と試料採取のために部分母集団を選定できるようにした。通常、スクリーニング質問票のリストも反政府側の窓口に回覧された。このリストは最も関連性の高い証拠を見極める上で役立つ質問を含むものである」

はっきりさせておけば、反政府勢力の支配地域で活動している医師と医療スタッフは反政府側の目的に同情的であると見なされる。シリア軍がほぼ一日中砲弾を浴びせていることからして、これら激戦の町に政府寄りのスタッフが詰める病院を見つけることはできないだろう。グータの医療スタッフを何人か訓練しているブレットン・ゴードンは、このバイアスは当地での証拠収集における「弱点の1つ」であることを認める。

「私たちは反政府側の医師を支援してきたから、これらの医師は聞き手に聞いてほしいことを話す傾向がある」

国連調査団が調査することになる患者集団すべてが、基本的にグータの反政府勢力によって選択され、調査団に引き渡された。この患者集団には、もちろん、モアダミヤからの「生存者」とされる44%を含む。

木曜、米国の化学兵器専門家ダン・カスゼッタがさらなる疑問を呈した。国連調査団が提示した「環境証拠および医学的証拠」に基づき、グータでサリンが使用されたと結論付ける一方で、カスゼッタはわずか36人の生存者の検査では「被害者集団の科学的で統計的に正確な試料とは考えられない。この試料に基づくだけで普遍性のある結論を導くことは、科学的に信用できないと見なされるだろう」と指摘している。

ダン・カスゼッタの国連報告書に対するコメント
http://strongpointsecurity.co.uk/site/wp-content/uploads/2013/09/D-Kaszeta-Comments-on-UN-Report.pdf

カスゼッタはまた、生存者の「兆候や症状の正確な表れは、神経ガスへの曝露についての従来の理解から食い違っている」ことを指摘している。カスゼッタはその例として、「神経ガスへの曝露で最初に表れる症状」である縮瞳がグータの患者において比較的少ないことを挙げた。1995年の東京におけるサリン攻撃では生存者の99%で見られたが、グータで検査された患者ではわずか15%でしか見られていない。

カスゼッタにとって釣り合いが取れていないと思われたその他の患者の兆候は、けいれん(より進んだ症状)を経験しても、唾液過多、涙の分泌過剰、縮瞳などのより軽い症状を同時に示さない患者である。カスゼッタは「これは私にとって非常に奇妙だ」と言う。

カスゼッタは疑問をぶつける。「一般的に、意識喪失は、神経ガス毒性に曝されたときの非常に重症の症状であり、死の直前に起こると考えられている。どのようにして患者の78%が意識を失ったのか」

「複数の被害原因に曝されたと考えることは可能だろうか。検査された患者の一部はサリン以外のものに曝されたのか。私はサリンが使用されなかったと述べたいのではない。使用されたのは明らかだ。私が指摘したいのは、私たちが過去に理解していたような挙動ではないか、サリンに加えてその他の因子が作用したかのいずれかである、という点だ」

弾薬の“証拠”

モアダミヤの「生存者」では高い率でサリンへの曝露のあったことが確認されたが、国連調査団は化学兵器攻撃とされるものに使用された確認した140mmロケットからも、あるいは近くの環境からもサリンの痕跡を発見できなかった。

ロケット着弾による最初の破片が発見された隣接アパートについては、「調査団はこの地点の住民も“ガス”で被害を受けたか死亡したと聞かされた」。ここでもサリンの証拠なかった。

報告書はまた、「この地点は調査の前と最中に他の人々の往来が激しかった。破片その他の証拠は明らかに調査団到着の前に触れられ、移動させられた」と記述している。

この問題は、国連調査団が調査したアインタルマとザマルカの両方でも起こる。

「他の地点と同様に、これらの地点は調査団の到着前に他の人々の往来が激しかった。これらの地点にいる間、他にも弾薬と疑わしきものを運んでいる人々がやって来た。そのような証拠となる可能性のあるものが移動させられ、手を加えられた可能性のあることを示している」

後者の2地点ではサリンの痕跡がロケット弾で発見されたが、国連報告書ではこれらのロケット弾が発射された地点を確定できていない。調査団は「着弾地点」を計5カ所調べ、うちわずか2カ所から「発射体のもっともらしい飛跡を決定するのに十分な証拠」が得られた。

これらの2カ所とは、140mm M14ロケット弾が調査されたモアダミヤ(サイト1)、「謎の」330mmロケット弾が化学兵器攻撃に使われたと確認されたアインタルマ(サイト4)である。

国連報告書で示されているこれら弾薬の飛跡は多少不正確である可能性があり、飛行距離はなおさらである。飛行距離について国連は何らの推測も示していない。そして、政府側・反政府側の支配地域が十字に交差している広大な「射距離」地域の中にあって、両方のデータは疑惑上の攻撃の起点を決める上で欠かせない。

現在、メディアが発射体の起点を確定させるものと主張している地図が出回っているが、誤解を招くものである。筆者はエリオット・ヒギンズと話をした。ヒギンズはそのブラウン・モーゼズのブログで、ビデオを順次集積し、シリア紛争で使用された武器弾薬の分析を行っている人物である。これらの地図の1つを作成したヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)とも密接に協力している。

「弾薬は最低射距離と最大射距離があって、そこから発射されるゾーンというものが決まる。謎のロケット(アインタルマにおける)にからむ問題は、データが存在しないため、確定的なことを言うのがより難しいということだ。飛跡を示すことができ、それらが交差するならば、共通の起点を示唆するかもしれない。M14はわずか10km未満の射距離しかないが、別の弾薬は解明するのがより難しく、多くの要因、とりわけ燃料タイプがある。未発射のものが発見されていない中で、燃料タイプを決めることは不可能である」

要するに、2つの弾薬のうち射距離を確認できるのは1つだけ、つまりモアダミヤのもので、これは射距離が3.8〜9.8キロと推定されるが、サリンの痕跡は発見されておらず、従って何らの化学兵器攻撃とされるものにも関与していない。

HRW作成の地図はシリア共和国防衛隊第104旅団の基地をもっともらしい起点と明示しており、モアダミヤから基地までの距離は9.5キロとなっている。しかし、今や、これは通常の戦闘で使用された弾薬であると思われ、化学兵器の交差起点を特定するためにHRWが正当性をもって利用することなどできない。弾薬は当該軍事基地から発射された可能性がある。だから何だというのか。

HRW地図はアインタルマの弾薬(サリンの痕跡が確認された)の飛跡に基づいてもう1つの線をこの共和国防衛隊基地(9.6 km)に引いているが、このロケットの射距離については何らの証拠がない。しかし、これはサイズが大きく、別の小型発射体の9.8 kmを「超える」と示唆され、当該基地を優に飛び越えて反政府勢力の支配地域に飛来した可能性がある。

HRWは、両弾薬の確認された飛跡に従って、非常に単純化した地図を作成し、化学兵器攻撃の責任をシリア政府に押し付けることになる便利な起点に、Xと記した。

この地図は、(訳者注記:化学兵器の)ロケットが2カ所以上の起点から発射された可能性を示す証拠をなんら検討しておらず、HRWはどちらのミサイルについても飛行距離さえ知らないという事実を無視している。ヒギンズが指摘する通り、「この謎の弾薬についてせいぜい言えるのは、直線を引いて、方向を知ることだけである」

ところが西側のメディアは証拠を検討することなく、HRWによる外挿に伴走する。HRW報告書は「国連調査団が入手できるデータは限られているため、これは確定したものではないが、示唆に富む」と述べている。そんなことはない。有責性を主張するなら、このHRW地図を皮相的に眺めて拙速に走ることなく、もっと厳格な証拠が必要になる。

化学兵器は使用されたが、首謀者と方法は?

グータの化学兵器攻撃に関するストーリーには矛盾が極めて多い。被害者数は少ない方で300人超から、劇的に多い方では西側政府が触れ込む1400人超と幅がある。国連調査団は被害者数を確認できず、生存者80人に面談し、うち36人について検査しただけである。調査団は墓地でも死体安置所でも一人も死人を確認していない。

メディアは見出しで化学兵器攻撃の仕業はシリア政府であると非難する傾向にあり、米国務長官のジョン・ケリーははっきりとそう述べている。8月21日にシリア軍がその軍事的成果を台無しにして、化学兵器による「レッドライン」越えに対する介入を外国から招き出すという動機は、ほとんど説明できない。

逆に、反政府勢力側を利するべく、地上での軍事力バランスを変えるために必要な西側支援の軍事行動を引き出すよう、偽旗作戦としての化学兵器攻撃を後退している反政府軍がねつ造しようとする動機は、より明らかだ。私たちすべてが知っているように、米国による爆撃は起こりかけたのである。

明らかに、グータにおけるこれらの相矛盾するパズルをすべて考慮に入れる調査がさらに必要だ。この目的で、偏りのない調査団が「無作為抽出」した証言者、患者、着弾地域、その周囲などに対する完全なアクセスを保証されなければならない。もっと重要なのは、徹底的な調査を実施するための「時間」を確保することである。

ここで指摘しなければならないのは、国連調査団が8月26日にモアダミヤを訪問した際に、反政府勢力支配地域から正体不明の狙撃者が国連調査団を狙撃したことで、同地域における調査時間をさらに制約したことだ。

正体不明の狙撃者:U.N. probes alleged gas attack; U.S. warns Damascus - CNN.com
http://edition.cnn.com/2013/08/26/world/meast/syria-civil-war/index.html

国連調査報告書は疑問に答えるよりも多くの疑問を提示している。調査団が面談した証言者、患者、医師の全体が反政府勢力寄りのバイアスを持っている。これらのほぼすべてが事前に反政府勢力によって選択され、国連調査団による「駆け足」の調査に付された。弾薬フォレンジックは、責任の所在を明らかにするために欠かせない起点について、ほとんど証拠を示していない。人体試料と環境試料は何が起こったのかを解明するに十分な情報を提供していないという点で要領を得ないものであり、改ざんや計画的仕掛けさえ示唆される。これが大規模な化学兵器攻撃だったなら、証拠をねつ造しなければならない理由は何か。

結局のところ、国連報告書は8月21日のグータで誰がどのように何をしでかしたのかについて語っていない。調査団はさらなる調査のためにハーン・アル・アサルへ向かう準備をしているが、調査団はこれらの欠陥調査から教訓を学ぶだろうこと、また戦争犯罪の責任の所在を明らかにするために必要な決定的知見を提供することが、期待される。これらの調査は単なる訓練ではない。国連自身はこの紛争のどちら側に責任があるのかを指摘する許可を与えられていないかもしれないが、隙のない法医学的証拠を提示して、国際社会が「証拠」に基づいて決定的な判断を下せるようにしなければならない。

国連職員からのこうしたリークやら何やらは、職務が適切に行われているとの内的自信があれば、すぐに鳴りを潜めるだろう。
posted by 風の人 at 02:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | シリア
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