2013年09月01日

「シリア化学兵器攻撃」は反政府軍による誤爆で、化学兵器はサウジが提供――中東専門記者が現地住民にインタビュー

シリアにおける8月21日の「化学兵器攻撃」疑惑について、AP通信などに記事を書いてきたデイル・ガヴラク氏が、現地の方に数多くインタビューした。

「独占記事:ゴウタのシリア人、サウジから武器供与を受けた反政府軍が化学兵器攻撃の陰にと主張」
EXCLUSIVE: Syrians In Ghouta Claim Saudi-Supplied Rebels Behind Chemical Attack
http://www.mintpressnews.com/witnesses-of-gas-attack-say-saudis-supplied-rebels-with-chemical-weapons/168135/
Syrians in Ghouta Claim Saudi-Supplied Rebels Behind Chemical Attack by Dale Gavlak and Yahya Ababneh -- Antiwar.com
http://original.antiwar.com/Dale-Gavlak/2013/08/30/syrians-in-ghouta-claim-saudi-supplied-rebels-behind-chemical-attack/



ガヴラク氏の業績:
DALE GAVLAK
http://bigstory.ap.org/author/dale-gavlak
右向き三角1 Dale Gavlak in Amman, Jordan on rumours of gun smuggling into Syria - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=67DZ_sQrQs0

ガヴラク氏のインタビュー記事を取り上げた別記事を日本語訳された方がいます(ただ、テレグラフの記事( http://goo.gl/IpyqQr )に言及した段落が訳抜け)。

≫ Rebels Admit Responsibility for Chemical Weapons Attack
http://www.infowars.com/rebels-admit-responsibility-for-chemical-weapons-attack/
ROCKWAY EXPRESS シリア反政府勢力:化学兵器攻撃は自分たちが行ったと認める
http://linkis.com/blog.shinobi.jp/3GVS

以下、ガヴラク氏の記事の要点を紹介します。

医師やゴウタ地区住民、反政府軍兵士とその家族に数多くインタビューしたところ、その多くが、一定のシリア反政府軍がサウジアラビア諜報当局長官のバンダル王子から化学兵器を提供されたと認識しているという。

「化学兵器攻撃」の間に反政府軍兵士の息子を亡くした父のアブデル・モネイウム氏は、Abu Ayeshaとして知られるサウジ兵士から息子が運搬するよう頼まれた兵器を「チューブ様構造」(他の者は「巨大なガスボトル」)だと表現した。

ある女性兵士Kは「やつらがこれらの武器が何であるか、どのように使うかを教えなかった。私たちは化学兵器だとは知らなかった。化学兵器だなんて想像もしていなかった」と不満を漏らした。

ゴウタの著名な反政府軍リーダーJは、次のように語ったという。「ジャブハト・アル・ヌスラの兵士は地上での戦闘以外、他の反政府軍と協力しない。やつらは秘密情報を共有しない。何人かの普通の反政府軍兵士を使って、この兵器の運搬と操作をさせたに過ぎない。我々はこれらの兵器に大変関心があった。不幸なことに、何人かの兵士が扱いを誤り、爆発させてしまった。」

化学兵器攻撃の被害者の処置に当たった医師らは、「攻撃の責任者が誰であるかという質問には注意してくれ」と警告した。

また、国境なき医師団は被害者の症状について証言しているが、ガヴラク氏は同医師団がこうした情報を独立に検証することはできていないと述べている。

[参考] シリア化学兵器――国境なき医師団の証言は反政府軍の支配地域からの伝聞
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/373386615.html

インタビューを受けた十数人の反政府軍兵士が、自分らがもらっている報酬の出所がサウジ政府であると話した。

インタビューを受けた反政府軍兵士はバンダル王子を「アル・ハビブ(al-Habib)」と呼び、シリアで戦っているアルカイダ兵士は「愛してくれる男(the lover)」と呼んでいるという。

以上が、「化学兵器」とサウジ(バンダル王子)の関係についてガヴラク氏がインタビューで得た情報。

サウジ(バンダル王子)のシリア内戦への関与については他のメディアも書き始めていて、これらをガヴラク氏が紹介している。

ジェフリー・インガーソル氏がビジネスインサイダーの8月27日付記事で、サウジのバンダル王子がシリア内戦で果たしている役割について書いている。

「サウジがロシアにソチでの“保護”を申し入れ」
Saudis Offer Russia 'Protection' In Sochi - Business Insider
http://www.businessinsider.com/saudis-russia-sochi-olympics-terrorism-syria-2013-8

インガーソル氏は、バンダル王子がロシアのプーチン大統領にアサドを捨てる見返りに安い石油を提供する提案を行ったとする8月27日付テレグラフ紙を引用。(モスクワでの3週間前の会談をすっぱ抜いたのはロシアのメディアで、さらに詳細な内容をアッ・サフィール紙が伝え、それをアル・モニター紙が英語に翻訳: http://goo.gl/tgrzLG

「ロシアがシリアを断念するとの条件で秘密の石油取引をサウジが提案」
Saudis offer Russia secret oil deal if it drops Syria - Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/finance/newsbysector/energy/oilandgas/10266957/Saudis-offer-Russia-secret-oil-deal-if-it-drops-Syria.html

ガヴラク記事では紹介されていないが、同テレグラフ記事によれば、「(ヒズボラとつながりがあり、サウジに敵対的な)レバノン紙アッ・サフィールは、バンダル王子が、アサド体制を転覆させれば、シリアにおけるロシアの海軍基地を守ると誓約したが、合意できないのであれば、ロシアのソチ冬季五輪をチェチェンのテロリストが攻撃するともほのめかしたと伝えた。(バンダル王子は)『私は来年の冬季五輪を守るという保証を与えることができる。この大会のセキュリティーを脅かすチェチェングループは私の支配下にある』と語ったとされる。」

「プーチン・バンダル会談は波乱に満ちており、シリアにおける“劇的展開”をもたらすとの警告にあふれている。それ以来、西側の圧力は増していったが、プーチン氏はサウジの提案に動じなかった。プーチンはシリア軍兵士の心臓と肝臓を食らう反政府ジハード兵士のビデオに言及しながら、『我々のアサドに対する姿勢は決して変わらないだろう。我々は、現シリア政府がシリア人民の最良の代弁者であり、肝臓を食らう者たち(http://goo.gl/jSDCZj)の声を反映していないと考えている』と語った。」

「バンダル王子はお返しに、ロシアが和議を蹴るならば、『軍事オプションは不可避だ』と警告した。事態は彼が予告した通り正確に展開している。」

インガーソル氏は自分の記事で、「サウジ当局者と共に米国がこのサウジ諜報当局長官にロシアとのこうした会談を行う承諾を与えたとされているが、驚くに値しない。バンダルは軍事、大学の両面でアメリカの教育を受けており、影響力の高い駐米サウジ大使を務めてきた。CIAはこの男にすっかり惚れ込んでいる」と書いている。

8月26日付の英紙インディペンデントによれば、2月にシリア政府側がサリンガスを使ったという主張に西側同盟国の注意を向けさせたのは、バンダルの諜報当局であった。

「シリア問題におけるサウジとのつながり:サウジ王子は戦争推進の中核においてワシントンと密接に関係」
Syria, the Saudi connection: The Prince with close ties to Washington at the heart of the push for war - Middle East - World - The Independent
http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/syria-the-saudi-connection-the-prince-with-close-ties-to-washington-at-the-heart-of-the-push-for-war-8785049.html

ガヴラクの記事では引用されていなが、同紙によれば、バンダルは1980年代にニカラグアにおけるイラン・コントラスキャンダルにはまり込んだ。CIAは昨年来、バンダルと直接的に協力して、シリア国境に近いヨルダンの基地で反政府軍の訓練に当たってきたと考えられている。

8月25日付ウォール・ストリート・ジャーナルの記事も、バンダルとアサド打倒の関係を伝えている。

「サウジの経験豊かな有力者バンダル王子がアサド打倒の支援体制構築に努力」
Veteran Saudi Power Player Prince Bandar Works To Build Support to Topple Assad - WSJ.com
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887323423804579024452583045962.html

このWSJ記事によれば、CIAはサウジ国王がバンダル王子を責任者に任命したことで、サウジがアサド打倒に「真剣」であると悟った。「CIAは、ワシントンとアラブ世界の秘密外交のベテランであるバンダル王子はCIAのできないこと、つまり資金と武器の空輸、そしてある米外交官が言うwasta、アラビア語で秘密の企てを実行できると信じていた。」

「バンダルはワシントンと協力して、ヨルダンにおける軍事基地でシリア反政府軍に武器を供与し、訓練する計画を支援した。」

サウジは公式にはより穏健な反政府勢力を支援していると主張するが、同紙は「資金と武器は反政府側の過激派に流れており、目的は単にカタールによって支援されているライバルイスラム主義勢力の影響力に対抗するためである」と伝えている。

ガヴラク氏は最後に、「限定的」空爆でアサド政権に懲罰を加えようとするワシントンに警告するピーター・オボーン氏の8月29日付テレグラフ記事を紹介している。

「シリア審判への猛進は破局的で致命的な間違い」
The rush to judgment on Syria is a catastrophic and deadly error - Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/middleeast/syria/10271248/The-rush-to-judgment-on-Syria-is-a-catastrophic-and-deadly-error.html

オボーン氏は、今回の蛮行でメリットを得るのは反政府軍であり、米英が同軍側に立った軍事介入の準備を整えたと指摘。化学兵器使用については疑いがほぼないが、誰が実行したかについては疑問がある。以前にアサドが一般市民に対して毒ガスを使ったと非難された際、国連シリア調査官のカルラ・デ・ポンテが、アサドではなく、反政府軍が首謀者である可能性があると結論付けたことを考慮すべきと主張している。

太田光征
posted by 風の人 at 16:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | シリア
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