シリア情勢を読み 解くために、すでにバルセロナの童子丸開さんの投稿から(私も幾度か)、チョスドフスキーの論考およびグローバル・リサーチ誌の記事などを紹介してき ましたが、ジャーナリストの田中宇氏が6月13日付でご自身のサイトに「シリア虐殺の嘘」という論考を公表しています。
■田中宇サイト:「シリア虐殺の 嘘」
http://tanakanews.com/120613syria.htm
田中宇氏は、インデペンデント、ナ ショナル・レヴューなどの英米独各誌に拠りながら、シリアのアラウィ派に焦点を当てて、「虐殺はシリア政府軍がやった」とする日本をふく む欧米メディアおよび国連監視団の断定に、強い疑義を呈しています。
例えば、「とはいえ、事態をよく見 ると、実はホウラで村人らを虐殺したのはシリア政府軍でなく、反政府勢力の方である可能性が高い。虐殺で殺された村人の多くは、アサド政 権と同じアラウィ派イスラム教徒だった。シリア軍の幹部の多くはアラウィ派であり、政府傘下の民兵組織のシャビーハも上層部はアラウィ派 である。欧米日マスコミは、シャビーハやシリア軍がホウラの村人を殺したのだろうと書き立てたが、内部の団結が強いアラウィ派が、同じア ラウィ派を殺すはずがない。」
そして、「半面、反政府勢力は、サ ウジアラビアに支援されたスンニ派のイスラム主義勢力(いわゆるアルカイダ)で、アラウィ派やシーア派を敵視し、宗教上異端なので殺して も良いと考える傾向が強い。殺された村人の中にはシーア派もいた。政府軍が殺したなら、戦車砲や迫撃砲で家ごと破壊される形になっている はずだが、殺され た村人は至近距離から撃たれたり、のどをナイフで掻き切られたりしている。これは、アルカイダなどサウジ系イスラム過激派が異端者を殺す ときの典型的なや り方だ。虐殺の動機は、政府軍より反政府勢力の方に強い。」と推論する。
さらに、『反政府勢力は、殺された 人々を携帯電話などで動画撮影し「政府軍に殺された人々の画像」としてインターネットにアップロードした。彼らが犯人であるなら、非常に 周到で巧妙な自作自演の犯行ということになる。』と述べる。
そうして結論として、「もし、度 重なる虐殺を挙行しているのがシリア政府軍や政府系民兵であるとしたら、国際軍の早期介入やアサドの退陣を求める米欧やシリア反政府勢力 の主張は妥当だ。だが逆に、虐殺を挙行しているのがシリア反政府勢力であるとしたら、反政府勢力が自分で殺した村人たちの映像を撮って ネットで世界に流して「政府軍の犯行だ」と騒ぎ、それに呼応して米欧政府がアサドに退陣を求め、国際軍をシリアに侵攻してアサド政権の転 覆を狙うという、巨大な国際犯罪になる。」と断じている。
シリアをめぐる大国間の構図を田中 宇氏は、次のように見る。
「シリアの反政府勢力は、米欧やサ ウジに支援されている。米欧やサウジが、アサド政権を転覆するため、反政府勢力を使って虐殺し、アサドに濡れ衣をかけている構図になる。 米国は、イラクに大量破壊兵器の濡れ衣をかけて侵攻した。その後はイランに核兵器開発の濡れ衣をかけて経済制裁している。そして今、シリ アに虐殺の濡れ衣をかけて政権転覆しようとしている。これらの現状を見る限り、今の中東の国際政治においては、米欧よりも露中の方がまと もであり、正義である。「露中のせいでシリアの問題が解決しない」と米政府は言うが、これは放火魔が「消防士がいるので家がよく燃えな い」と言っているのと同じだ。米欧は、マスコミを使って濡れ衣を「事実」として人々に信じ込ませ、善悪を歪曲している。日本や米国では、 米欧より露中の方が正しいと言うと、それだけで袋叩きにされるが、袋叩きにする側は、プロパガンダを軽信するうかつな人々である。」
しかしながら一方で、国際人権監視団を自称する アムネスティ・インターナショナルは、6月14日付 の国際事務局ニュースで「シリア:今も続く、武装勢力による人道に対する罪」を公表。その中で『アムネスティはシリア北部での状況を調査するこ とができた。そして、「シリア政府軍と民兵は、重大な人権侵害および人道に対する罪と戦争犯罪に相当する重大な国際人道法違反に責任 がある」と、結論づけた。』と述べている。
具体的には、「シリア最大の都市で あるアレッポでは5月最終週に何度 か、制服姿の治安部隊と平服の民兵のシャビハが、平和的 にデモを行なっている人びとに対して実弾を発砲し、子どもたちを含む抗議者や通行人たちを殺傷するのを、アムネスティは目撃した。これらの地域での侵害行 為は、当該地域だけのことではなく、5月25日のホウラでのシリア軍による攻撃など他の地域でも広く報じられている。国連によると、49名の子どもたちと34名の女性を含む108名がホウラで殺された。」と表現されている。
アムネスティは、「70ペー ジ」におよぶ「この報告書は、シリア当局が民間人たちに対 して執拗かつ広範で残忍な攻撃に携わっていること を示す、さらに詳細な証拠を提供しています。」と述べてはいるが、チョスドフスキー氏や田中宇氏が検証していることには、まったく立ち入らない。アムネス ティ危機管理上級顧問のドナテラ・ロベラ女史の発言だけでは、国際的に報道された断定や国連の報告を鵜呑みにしている感は否めな い。
アムネスティの結 論は、次のようなものである。人権を盾にした米欧側の国 際的宣伝機関と言われても仕方がない。イラク開戦前に果たした 役割を想い起こさせるものだ。
「報告書の中でアムネスティ・インターナショナルは安保理に対し、改めてシリアの状況について国際刑事裁判所(ICC)検察官に 付託し、シリア政府への武器流入を止めるためにシリアに対する武器禁輸措置をなすよう要請している。アムネスティはとくにロシア と中国政府に対して、シリ ア政府へのすべての武器、弾薬、軍事・治安・警察についての装備・訓練・人員の供給を直ちに中止するよ う求めている。アムネスティはまた安保理に対し、国際法の下での 犯罪の命令もしくは実行に関わっているかもしれないバシャール・アル・アサド大統領たちの資産凍結を実行するよう要請している。アムネスティはシリア当局 に対して数多くの勧告をしてきた。もしそれらが実行されるなら、現在起きている人道に対する罪もしくは戦争犯罪に相当する広範な 違反行為を減らすことがで きるだろう。」
■シリア:今も続く、武装勢力によ る人道に対する罪
http://www.amnesty.or.jp/news/2012/0614_3141.html?mm=1
原発問題同様、私 たち市民の眼力が試されている。
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以上、転載
太田光征
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