2012年06月02日

放射線影響研究所が放射線影響に閾値がないことを認めた

放射線影響研究所がついに放射線影響(全固形がん死)に閾(しきい)値がないことを認めた。

放影研報告書 RR 4-11
原爆被爆者の死亡率に関する研究
第 14 報 1950–2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要§
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html

LSS14 Excess Relative Risk Fig4


LSS14 Excess Relative Risk Fig5

図5は図4の一部を拡大したもの

放影研の研究はこれまで、「その研究成果は、国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)の放射線リスク評価や国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護基準に関する勧告の主要な科学的根拠とされている」と自ら認めているように、低線量被ばくの健康影響はない、あるいは証明されていない、という主張の根拠を提供してきた。広島・長崎の被爆者が低線量被ばくの影響はないとするキャンペーンに使われてきたのである。何と犯罪的なことか。

矢ヶ崎氏の講演でも説明されているように、放影研は内部被ばくを無視した線量評価システムを採用している。

矢ヶ崎克馬「内部被曝──原爆・劣化ウラン兵器と人類への宿題(要旨)」(2007年7月1日,北農健保会館)
http://www.geocities.jp/hokkaihankakuishi/yagasaki.html
・1945年(昭和20年)9月17日に広島・長崎を枕崎台風が襲った後の測定に基づき、残留放射線を評価(被曝線量評価システムのDS86とDS02)。
・セシウム137がベータ線を出して崩壊してできたバリウム137mが出すガンマ線しか計測していない。
・2007年6月6日付中国新聞『原爆残留放射線の人体影響、ABCCに指定調査を促す』(米原子力委員会からABCC研究者への書簡で1969年と81年のホールボディーカウンター計測について)「まず今の時点で調査しても、原爆投下時の内部被曝がゼロであるという結果を得ても、原爆投下時の内部被曝の可能性を否定しているわけではない」「しかしいま否定的な見解を出すということは、被爆者が統計的に比較される対象の非被爆者コントロール群としている人々と比べて、放射線被曝の量が違わないということを示すことで、非常に貴重だ」

放影研が被爆者の追跡調査を開始したのは1950年10月1日以後だから、放射線に一番弱い方は既に亡くなっていたはずで、しかも放影研が採用した比較対照群の方々自身も被爆者だった。放影研の研究は何重にも放射線、特に低線量内部被ばくの影響を無視している。

市民と科学者の内部被曝研究会第1回総会記念シンポジウムの報告|ACSIR 内部被曝問題研(沢田昭二)
http://www.acsir.org/news/news.php?19#top
インゲ・シュミッツ=フォイアハーケ論文「『無害な放射線閾値』からの時間のかかる決別」と解説
http://www.acsir.org/info.php?10
インゲ・シュミッツ=フォイアハーケ(ECRR現会長)論文(原爆被爆者認定集団訴訟で採用)
Health Phys. 1983 Jun;44(6):693-5.
Dose revision for A-bomb survivors and the question of fallout contribution.(ペーパーとしての掲載を拒否されレターとして掲載)
Schmitz-Feuerhake I.
『原爆症認定集団訴訟たたかいの記録―明らかにされたヒバクの実相―、第2 巻資料集』(原爆症認定集団訴訟・記録集刊行委員会[編]、p.284、 日本評論社、2011)
放射線影響研究所の比較対照群(遠距離被爆者と入市被爆者)は日本人平均と比べ、甲状腺がん、白血病、乳がんの発症率がそれぞれ3.4〜4.1倍、1.8倍、1.5〜1.6倍。早期入市者の死亡相対リスクはかなり大きい。

放影研の研究は以上のようなものであることに注意して、第14報も見る必要がある。

従来から低線量域でも過剰相対リスクが確認されていた(*1、下図)。今回の第14報で明らかになったのは、低線量域における過剰相対リスクではなく、それが0–0.2 Gyの範囲で有意であったという点にある。被曝線量評価システムがDS86からDS02に切り替わっているが、追跡期間が延長されたことで統計精度が向上したためではないか。

RERF Update 2001年 春・夏号 第12巻1号


*1 よくわかる原子力 - 放射線の健康影響
広島・長崎の被爆者生涯調査
http://www.nuketext.org/kenkoueikyou.html#hiroshima

*1 RERF Update 2001年 春・夏号 第12巻1号
http://www.rerf.or.jp/library/update/pdf/01Spr-Sumj.pdf

用語集 - 放射線影響研究所
http://www.rerf.or.jp/glossary/ds02.htm
「DS02をDS86と比較すると細かい点で多くの改善がありますが、大局的にはDS86の推定値と大きく変わるものではなく」



放影研報告書 RR 4-11
原爆被爆者の死亡率に関する研究
第 14 報 1950–2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要§
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html

解説に「2 Gy未満に限ると凹型の曲線が最もよく適合した」とあるが、むしろ凸型を強調すべきで、いわゆる「隆起」が広島・長崎のいずれでも確認されてきた。放射線影響の線量反応関係がLNT(閾値なしの直線反応関係)ならば、内部被ばくを無視した放影研の研究では低線量域ほど直線からずれてくることは十分にあり得る。低線量域ほど単位線量当たりの影響が大きいとするペトカウ効果が真実なら、放影研の研究はそれに近い。

要旨
「全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は0–0.2 Gy であり、定型的な線量閾値解析では閾値は認められなかった。すなわち、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。」
「非腫瘍性疾患では、循環器、呼吸器、および消化器系疾患でリスクの増加が示されたが、因果関係については今後の研究が必要である。」

解説
http://www.rerf.or.jp/news/pdf/lss14.pdf
「過剰相対リスクに関する線量反応関係は全線量域では直線であったが、2 Gy 未満に限ると凹型の曲線が最もよく適合した。」
「本報告は、2003 年のLSS 第13 報より追跡期間が6 年間延長された。DS02 に基づく個人線量を使用して死因別の放射線リスクを総括的に解析した初めての報告である。」

寿命調査(LSS)報告書シリーズ - 放射線影響研究所
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html
英語全文
http://www.rerf.or.jp/library/rr_e/rr1104.pdf
解説
http://www.rerf.or.jp/news/pdf/lss14.pdf
要旨
http://www.rerf.or.jp/library/rr/rr1104.pdf
使用データ
http://www.rerf.or.jp/library/dl/lss14.html



放影研報告書 RR 4-11
原爆被爆者の死亡率に関する研究
第 14 報 1950–2003 年:がんおよびがん以外の疾患の概要§
http://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html

要旨
http://www.rerf.or.jp/library/rr/rr1104.pdf

Studies of the Mortality of Atomic Bomb Survivors,Report 14, 1950–2003: An Overview of Cancer and Noncancer Diseases
小笹晃太郎 清水由紀子 陶山昭彦 笠置文善 早田みどり Eric J Grant坂田 律 杉山裕美 児玉和紀

要 約

本報は、放射線影響研究所が原爆放射線の健康後影響を明らかにするために行ってきた、原爆被爆者の集団である寿命調査集団(LSS コホート)での死亡状況に関して定期的に行ってきた総合的報告の第14 報である。LSS コホート構成者でDS02 での線量推定が行われている86,611人のうち58%が、1950–2003 年の期間に死亡した。追跡期間を前報から6 年間延長したことにより、放射線被曝後の長期間の死亡状況に関する実質的に多くの情報が得られ(がん死亡の17%増加)、特に被爆時年齢10 歳未満の群で増加した(58%増加)。放射線関連リスク、線量反応関係の形、および性、被爆時年齢、到達年齢による効果修飾作用の大きさを明らかにするために、ポアソン回帰を用いた。全死亡のリスクは、放射線量と関連して有意に増加した。重要な点は、固形がんに関する付加的な放射線リスク(すなわち、10^4 人年/Gy 当たりの過剰がん症例数)は、線形の線量反応関係を示し、生涯を通して増加を続けていることである。全固形がんについて、線形モデルに基づく男女平均の1 Gy 当たりの過剰相対危険度は、30 歳で被爆した人が70 歳になった時点で0.42(95%信頼区間[CI]:0.32, 0.53)であった。そのリスクは、被爆時年齢が10 歳若くなると約29%増加した(95% CI:17%, 41%)。全固形がんについて過剰相対危険度が有意となる最小推定線量範囲は0–0.2 Gy であり、定型的な線量閾値解析では閾値は認められなかった。すなわち、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。主要部位のがん死亡リスクは、胃、肺、肝臓、結腸、乳房、胆嚢、食道、膀胱、および卵巣で有意に増加した一方、直腸、膵臓、子宮、前立腺、および腎実質では有意な増加は認められなかった。非腫瘍性疾患では、循環器、呼吸器、および消化器系疾患でリスクの増加が示されたが、因果関係については今後の研究が必要である。感染症および外因死には放射線の影響を示す根拠は見られなかった。

§本報告書はRadiat Res 2012 (March); 177(3):229–43 に掲載されたものであり、その正文は同掲載論文のテキスト(英文)である。この日本語要約は、日本の読者の便宜のために放影研が作成したが、本報告書を引用し、またはその他の方法で使用するときは、同掲載論文のテキスト(英文)によるべきである。



解説
http://www.rerf.or.jp/news/pdf/lss14.pdf

Radiation Research* 掲載論文
「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14 報、1950−2003、がんおよび非がん疾患の概要」

【今回の調査で明らかになったこと】

1950 年に追跡を開始した寿命調査(LSS)集団を2003 年まで追跡して、死亡および死因に対する原爆放射線の影響を、DS02 線量体系を用いて明らかにした。総固形がん死亡の過剰相対リスクは被曝放射線量に対して全線量域で直線の線量反応関係を示し、閾値は認められず、リスクが有意となる最低線量域は0−0.20 Gy であった。30 歳で1 Gy被曝して70 歳になった時の総固形がん死亡リスクは、被曝していない場合に比べて
42%増加し、また、被爆時年齢が10 歳若くなると29%増加した。がんの部位別には胃、肺、肝、結腸、乳房、胆嚢、食道、膀胱、卵巣で有意なリスクの増加が見られたが、直腸、膵、子宮、前立腺、腎(実質)では有意なリスク増加は見られなかった。がん以外の疾患では、循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患でのリスクが増加したが、放射線との因果関係については更なる検討を要する。

【解説】

1) 本報告は、2003 年のLSS 第13 報より追跡期間が6 年間延長された。DS02 に基づく個人線量を使用して死因別の放射線リスクを総括的に解析した初めての報告である。解析対象としたのは、寿命調査集団約12 万人のうち直接被爆者で個人線量の推定されている86,611 人である。追跡期間中に50,620 人(58%)が死亡し、そのうち総固形がん死亡は10,929 人であった。
2) 30 歳被曝70 歳時の過剰相対リスクは0.42/Gy(95%信頼区間: 0.32, 0.53)、過剰絶対リスクは1 万人年当たり26.4 人/Gy であった。

*過剰相対リスクとは、相対リスク(被曝していない場合に比べて、被曝している場合のリスクが何倍になっているかを表す)から1 を差し引いた数値に等しく、被曝による相対的なリスクの増加分を表す。
*過剰絶対リスクとは、ここでは、被曝した場合の死亡率から被曝していない場合の死亡率を差し引いた数値で、被曝による絶対的なリスクの増加分を表す。

3) 放射線被曝に関連して増加したと思われるがんは、2 Gy 以上の被曝では総固形がん死亡の約半数以上、0.5−1 Gy では約1/4、0.1−0.2 Gy では約1/20 と推定された。
4) 過剰相対リスクに関する線量反応関係は全線量域では直線であったが、2 Gy 未満に限ると凹型の曲線が最もよく適合した。これは、0.5 Gy 付近のリスク推定値が直線モデルより低いためであった。

放射線影響研究所は、広島・長崎の原爆被爆者を 60 年以上にわたり調査してきた。その研究成果は、国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)の放射線リスク評価や国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護基準に関する勧告の主要な科学的根拠とされている。

Radiation Research 誌は、米国放射線影響学会の公式月刊学術誌であり、物理学、化学、生物学、および医学の領域における放射線影響および関連する課題の原著および総説を掲載している。(2010 年のインパクト・ファクター: 2.578 )

(図は省略)

太田光征
posted by 風の人 at 15:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 放射線による健康被害
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