TUP速報938号のピーター・ハーリング&サラ・バーク「シリア政権崩壊の先にあるもの」、その2の転送です。
=====以下、(2/2)の転載=====
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前書き:岡真理(速報938号(1/2)をご覧ください)、翻訳:荒井雅子 /TUP
〔 〕:訳注
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(速報938号(1/2)より続く)
■シリア政権崩壊の先にあるもの(2/2)
2012年3月3日
ピーター・ハーリング&サラ・バーク
●社会変化
今回、シリア社会の振る舞いはこれまでのどのステレオタイプにも合致しない。分裂傾向があるのは確かだが、その分割の境界は予測可能な線に沿っていない。1970年代後半と80年代初めのムスリム同胞団の率いた反乱、2000年のドゥルーズ・インティファーダ、2004年のクルド人の反乱といった過去の蜂起は共同体色が強く、一般社会の不信を招いた。これに対して今日の抗議行動は、驚くほど基盤が広く、横断的だ。アラウィ派、特に知識人やふつうの村の住民の間では、自分たちの共同体が政権によっていかに人質にとられているかを嘆く人が多い。ドゥルーズ派はほぼ半々に割れている。キリスト教徒は地理的に散在しているが、武装治安組織の暴虐を現場でどれほど目にしているかによって、まったく異なる視点をもっている。ダマスカスとアレッポにいるキリスト教徒はおおむね政権側だが、他の多くの地域では、抗議行動をする人々に少なくとも共感をもっている。サラミーヤ〔シリア中部ハマとホムスの中間〕の町に本拠をもつイスマーイール派〔シーア派イスラームの一派〕は、最初に反体制派に加わった人々に含まれていた。そしてもちろんスンナ\xA1
派アラブ
人もみながみな反アサドというわけではなく、たとえば北東部にいるシャワーヤ系諸支族はアサドを支持している。
また、紛争を共同体というプリズムだけを通して見るべきではない。抗議行動はハウラーン平原での地方色の強い底辺層の現象として始まったが、社会経済的境界を越えて、医師やエンジニア、教師も引き込んだ。運動は首都に拡大し、治安維持部隊の大規模な展開で開けなかった大集会の代わりに、散発的なデモが起こった。財界は、財閥たちが初め慎重な保守的姿勢を示したが、政権が財界の利益を損ねていることに気づいた。ほとんどが――取り巻き資本主義者一派さえも――、反体制派にずっと資金提供している。さらに思いがけないところにも断層線が現れている。一族の中で、上の世代は若い世代と比べると、自分の知っている悪魔にしがみつきがちだ。夫婦の中でも意見が分かれる。女性は、安定と対話を望む傾向をもつ人がいる一方、夫たちが示しがちな姿勢以上に反対の声を強く挙げる人もいる。
蜂起によって、長い間無気力でばらばらだったシリア社会の一部が、一種の復興を遂げつつある。抗議行動をする人々はすばらしく献身的で創造的だった。資金を集めて分配する委員会を立ち上げ、一人ひとりの死を少しもゆるがせにしない使命感をもって記録に残した。流血のさなか、洗練されたスローガンと目を惹くポスターを次々に編み出し、国内各地の包囲された都市を支持するシュプレヒコールを上げ、新しい旗を縫い合わせ、ビデオやアニメで政権を茶化した。ダマスカスに近いダラーヤなどの地域は、こうした人々の市民的抵抗の行動で知られるようになった。若き活動家で後に拷問されて殺害されたギヤース・マタルは、地区の警備に派遣された兵士と治安部隊に渡すバラの花と水を注文していた。
政権が、反目の元になり得るものなら何でも利用しようとしたため、反体制派は、派内の暴力的、宗派的、原理主義的な要素を押さえ込むために力を注ぐ必要があった。宗教的、犯罪的暴力や報復感情に駆られた暴力が増え、懸念もあったが、反体制派の努力が、社会を一つにつなぎとめた。メンバーの多数派の間に、自分たちの国と尊厳と運命を手放すのではなく取り戻すのだという強い意志がなければ、抗議運動はずっと前に混乱状態に陥っていただろう。
この危機には紛れもなくシリア的な特徴が一つある。数時間のうちに集団で逃げ、武器を取って、外の世界に介入を求めたリビア人と違って、シリア人は、武力に訴えたり、国際介入を求めるまで何カ月もかかった。また革命が、崇高ではあるもののある意味で束の間の栄光だったエジプトとも違って、シリアの蜂起は、長い時間のかかる、骨の折れる仕事だ。抗議運動は徐々に形成されて、政権の一挙手一投足を研究し、また北西部のビンニーシュのような小さな町のことまでみなが知るほど、国のことを綿密に調べた。
実際に行われたデモだけでなく、表にはあまり見えない広範な市民社会が出現して、さまざまな形の支持を提供することで、デモが可能になっていた。ビジネスマンは資金と食べ物を提供した。医師は病院から薬を持ち出し、もっとも暴力の激しかった地域の野戦診療所に人を配置した。宗教指導者はおおむね、宗派主義と暴力を抑制し続けようとした。蜂起が続く中、シリア市民は、今では深く根を張った反体制の文化を口に出し、ときには洗練された自治の形を発展させ、地方評議会を設立している。ホムスは、ルールも何もない武装集団の本拠地でもあるのだが、11人の執行部からなる革命評議会を発展させている。評議会は、メディア対応から医薬品調達まで、危機のさまざまな側面に責任を持つ委員会を統括する。反旗を翻した共同体の内部には、シリア近代史のどの時期にも増して、高い目的意識、連帯感、国民的団結がある。
数を増す武装蜂起さえも興味深い逆説を生み出している。急増する武装集団は、自らの正当性を、平和的デモを軍事的に保護する必要があるというところから引き出しているのだ。やみくもに武器庫へ突進するのではなく、ほとんどの場所で武装は段階的に行われてきた。まず、治安部隊の急襲に備えて自衛用に家に置いておく武器を買った。次に治安部隊がデモ隊への銃撃を始めたら応戦するために、武装した男たちの小集団が抗議デモとともに繰り出した。時が経つにつれて、行動は純然たる防衛から攻撃的なやり方に変わっていった――標的は政府の検問所、政権の手先や情報提供者、軍の車列、治安部隊施設だ。売り言葉に買い言葉の宗派間殺人が、シリア中部ではあまりに頻繁に起きている。だが、暴力の多くは、今までのところは野放図ではなく、抗議行動と民間人を守ることを行動の基盤としているため、曲がりなりにも約束事の制約を受けている。
●困難な時期が待ち受けている
言うまでもなく、ここまで述べてきたのはいい方の側面だ。政権側、反体制側ともに、暴漢と犯罪者が社会的上昇の手段、金儲けの手段、そして宗派間の憎しみのはけ口として、この闘いを利用している。これは政権側の部隊に当てはまり、法と秩序を体現するのだというまやかしの主張は、その忌まわしい振る舞いによって、あまりにたびたび反証されてきた。一方これは、地元の用心棒の雑多な寄せ集めである「自由シリア軍」の傘下で戦う複数の武装集団にも当てはまる。この「軍」への入隊者には、家族を守ろうとする父親、家族を亡くした若者、あるいは命がけで戦う離反兵がいる一方、戦闘的な原理主義者や根っからのならず者がいる。今までのところ、後者〔原理主義者やならず者〕は主流ではないが、政権とその支持者、同盟者は彼らが前面に出てくればいいと考えている。論理はおのずから明らかだ。支配エリートたちは、提供できる美徳がほとんどないので、自分たち以外にシリア社会から出てくるものは何であれ、自分たちよりはるかに悪いのだと証明しようと躍起になっている。このためアサドをほとんどヒステリックに崇めており、アサドの危機対応の誤りは支持者に\xA1
は問題に
されない。この社会をそれ自身から救うことができるのはアサドだけというわけだ。
だがシリア社会は、もっと早く権力構造が崩壊していた場合と比べて、移行に対応する用意が整ってきている。社会の崩壊を防ぐためにどのように自らを組織すべきか学ぶことを余儀なくされてきたのだ。政権の「分断して統治せよ」戦術は、社会の広範な層が団結する鍵を握る要因となってきた。生き残るには、地理的、社会経済的境界、共同体間の境界を超えて関係を築かなければならないということだ。とはいえ、革命勢力が成功を収めた暁には、団結の源が消滅し、方向を見失うことになる。中東各地と同様、「政権の失脚」は、支配エリートが社会を閉じ込めていた抑圧的な行き詰まりの解決ではあっても、実りある変化への青写真ではない。
イランとヒズブッラーの後押しを受け、ロシアの支援に支えられた政権と、国外から軍事的ではないにせよ政治的支援を受けてますます力を増す武装反乱とが対峙する中、政権が生き残りもせず、「失脚」もせず、徐々に弱体化して民兵集団になり果て、全面的な内戦に至る可能性も消えては
いない。だが、内戦状態に陥る前に権力構造が崩れると仮定すれば、政治的移行をすぐに失敗させかねない脅威が少なくとも三つある。
第一はアサドの権力を支えてきた基盤。大きく狭まったとはいえ、現に存在するのは動かし難い事実だ。政権は、街頭に繰り出してはいるのは多数派ではないといった(世界のどこかの国で国民の半分がデモをやったことがあるとでもいうような)、まやかしの論拠で抗議運動をはねつけているが、それとちょうど同じように、反政権派も政権支持者のことを思い違いをした犯罪的な裏切り者の少数派市民だと叱りつける。実際は、政権が何百万もの反対派を無視してこの危機を乗り切ることができないのと同じように、アサドに賭けてきた何百万もの人々――治安部隊将校、手先、ふつうの人々――から目を背けては、移行も成功し得ない。報復にもっともさらされる人々、特にアラウィ派の保護、真の和解の機構、移行期の効果的な司法手続き、また治安維持組織の徹底的かつスムーズな再編なくしては、すべてが水泡に帰す恐れがある。
第二に、シリア国民評議会(SNC)の実績から考えると、こうした移行でSNCが重要な役割を果たすべきかどうか懸念するのは故なきことではない。SNCの指導的メンバーは、個人的なライバル関係に足を引っ張られて自滅を恐れるあまり明確な政治的立場を打ち出せずに、スポットライトを浴びることに汲々としているように見える。唯一合意に達しうる権力分有の基準として宗派による割り当てに逆戻りしかねない。街頭に出ているシリア市民は、SNCの正統性を、外交的圧力を取り付けられる能力に見ているのであって、それ以上のことは期待していないと明確にしている。だが、外の世界が既成の「代替選択肢」を求め、中東の多宗派社会は結局宗派による権力分配に至るものだという思い込みが大勢を占めるなら、シリアは破滅に至る恐れがある。SNCを排除しないものの、地元指導者の率いる組織、技術官僚、ビジネスマンを中心にして政治プロセスを築くほうが正統性があり、成功の可能性も大きいだろう。
最後に、抗議行動をする人々がますます必死になるあまり、外に支援を求めると、外の世界が救世主ごっこをして事態を悪化させる危険がある。支援の要請は、悪魔との契約よりも悪い。さまざまな点で互いに意見の合わない多くの悪魔たちとの契約ということになるからだ。湾岸君主諸国、イラク、トルコ、ロシア、米国、イランなどはみな、アサド政権の運命に戦略地政学的利害関係をみている。関与が大きくなればなるほど、シリア市民が自らの運命を制御できなくなる。政権による極端な形の暴力にさらされているふつうの市民が、何としてもこの緊急事態を終わらせようとして、何らかの外国の介入を求めることはまだしも理解できる。だが、外からのどのような「支援」がもっとも害が少ないかを冷静に慎重に見極めることが必要とされている今、国家指導者を気取る亡命中の反体制派連中が、ただただ介入を求めるなどというのであれば、弁解の余地はない。
中東でこの3つのすべてについて実例を示してくれるケースがすぐ近くにある。イラクだ。イラク社会の中で相対的に小さな少数派であっても、それを排除した政治プロセスは、国全体の災厄につながった。社会基盤をもっていなかったのに、目に見える唯一の既存の「代替選択肢」として国際的な支持を得ていた帰国亡命者の一団が、すばやく移行を乗っ取ると、共同体を勘案して算盤をはじき、自分たちの間での権力の分配のみに合意した。彼らがやった戦利品の分捕りは、徐々に国家全体に蔓延し、最終的には内戦につながった。この悲劇を監督していた米国は、イラクを本来の姿とは似ても似つかないものに変えることしかできなかった。イラクは今では、占領者米国が当初、イラクとはこういうものだと考えていたまさにそのイメージどおりの、ありとあらゆる宗派的な根深いステレオタイプに当てはまっている。
つまるところ、国内レベルでみれば、シリアはポスト植民地時代に終止符をうつ闘いに入ったのだ。問題は単に「政権」を転覆させることではなく「体制」を根こそぎ変えることだ――ニザームというアラビア語はまさにこの概念を二つとも含んでいる。現行の体制は、シリア市民を、分裂した共同体間や中東での権力争いの人質とすることに基盤を置いている。実際、政権にわずかでも正当性があるとすれば、国内の共同体各勢力や外国勢力を対立させ続けてきたことにもっぱら由来し、その間、真の国家建設と責任ある指導体制は犠牲にされてきた。20世紀半ばの革命の活気の中で植民地主義の遺産と決別しようとした前回の試みは挫折し、限られた政治エリートと軍という集団におさまってしまった。今日それと違うのは、広範な一般市民の運動が目を覚ましたことだ。視野の狭い利害や大仰なイデオロギーではなく、自分たちの富と尊厳と運命がまったく奪われているという意識がその原動力になっている。
ある意味で、この覚醒をこそ政権は弾圧してきたのだ。外国の干渉は事実だが、今シリアにあるのは、陰謀ではなく、動き始めた社会だ。その目指す道筋に政権が向かうことは決してない。この先の道のりは険しく、シリアもそして中東をも内戦の迷路に迷い込ませる危険が現実にある。しかし、あまりに多くのシリア市民にとって、逆戻りはあり得ない。政権には、はるかに安全に前進できる道をつける猶予が1年与えられていたのだが、旧態依然の論法にますますしがみつき、結局、自らに歴史的な行き詰まりの役を振り当てている。
原文
Beyond the Fall of the Syrian Regime
Peter Harling and Sarah Birke
Znet掲載:http://www.zcommunications.org/beyond-the-fall-of-the-syrian-
regime-by-peter-harling
初出:Middle East Research and Information Project:http://www.merip.org
/mero/mero022412
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(以上、その2転載終わり、完)
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太田光征
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