2012年03月20日

原発停止で燃料輸入量急増はウソ

産経新聞は原発停止による火力発電の焚き増しで液化天然ガス(LNG)と石油の輸入量が跳ね上がり、燃料費が3兆円ないし4兆4000億円増加したことで、貿易収支が第2次石油危機以来、31年ぶりの赤字に転落した、電気料金の値上げで企業の海外脱出が加速する、などと主張している。

「場当たりと迷走の果て…「原発ゼロ」危機」:イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/accident/548083/
「3.11から1年 いつになる電力不足の解決」:イザ!
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/environment/548620/

しかし、原油・粗油も石炭も2011年の輸入量(重量)は10年と比べ減少し、LNGと液化石油ガス(LPG)の輸入量(重量)がそれぞれ12.2%、2.7%増えたに過ぎない。LNGの輸入量(重量)は10年も09年と比べ8.5%増加している。燃料輸入量は急増していないし、輸入量が増加したLNGとLPGの輸入額増加分は1兆4000億円でしかない。

日本は韓国の2倍の価格でLNGを輸入している。産ガス国に足元を見られる原燃料費調整制度をすぐに廃止し、韓国並みの価格で輸入すれば、焚き増し量が2倍になっても輸入額に変化はない。

中日新聞:電気値上げ 燃料高値買いは背信だ
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2012022502000018.html

太田光征



財務省貿易統計 Trade Statistics of Japan
http://www.customs.go.jp/toukei/latest/index.htm
平成23年分貿易統計(確定)
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2011/2011_117.pdf

原油および粗油は2010年と比べ重量で2.7%減、輸入価格で21.4%増。石炭は重量で5.1%減、価格で16.5%増。液化天然ガス(LNG)は重量で12.2%増、価格で37.9%増。液化石油ガス(LPG)は重量で2.7%増、価格で14.3%増。鉱物性燃料全体の価格は25.4%増。増えているのはLNGとLPGだけで、急増というほどではない。単に単価が上昇しているだけ。

2010年度はどうか。

平成22年分貿易統計(確定)
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2010/2010_117.pdf

原油および粗油は2009年と比べ重量で0.8%増、輸入価格で22.4%増。石炭は重量で14.1%増、価格で2.6増。LNGは重量で8.5%増、価格で22.8増。LPGは重量で0.9%減、価格で31.8%増。鉱物性燃料全体の価格は22.5%増。

LNG輸入量(重量)の増加は2010年も起こっていて、原発のほとんどが停止した2011年に特徴的なことではない。鉱物性燃料全体の価格上昇率は2010年でも2011年でもほとんど変わらない。

産経新聞は、鉱物性燃料全体の輸入価格増加分4兆4000億円をあたかも発電燃料費の増加分であるかのように書き立てている。

火力発電燃料の主役は石油でも石炭でもなくLNGであって、輸入量が増加したLNGとLPGの輸入価格増加分は1兆4000億円でしかない。


[参考]

「2011年の貿易収支赤字」主要因は「原発停止による燃料量増加」ではありません
http://www.hirax.net/diaryweb/2012/02/11.html

2011年の石油と石油製品の輸入(数量、平均単価との関係)【訂正版】
http://twitpic.com/8ddds7
2009〜2011年の化石燃料の輸入(輸入量と輸入額)。ただし、荒い計算なので燃料以外も入っている。
http://twitpic.com/8i32hu

第27類 鉱物性燃料及び鉱物油並びにこれらの蒸留物、歴青物質並びに鉱物性ろう
http://www.customs.go.jp/tariff/2012_3/data/i201203j_27.htm
天然ガスの9桁番号:271111000
貿易統計 :統計品別推移表 :条件入力 :財務省貿易統計 Trade Statistics of Japan
http://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=77&P=0

貿易統計:液化天然ガス:輸入CIF価格:統計情報サービス
http://toukei-is.com/h/?p=3050103&f=00
貿易統計:原油及び粗油:輸入CIF価格:統計情報サービス
http://toukei-is.com/h/?p=30301&f=00
この記事へのコメント
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2010/2010_117.pdf

中東からの鉱物性燃料輸入の伸び率が20%以上になってますが?
Posted by 高田 亜樹 at 2014年05月05日 23:16
高田さん

提示された資料の19ページを指していると思われますが、伸び率20%となっているのは金額の欄です。
数量の伸び率は−2.6%です。

このコラムで指摘されているのは「量」の問題です。
鉱物性燃料輸入の金額的な負担が大きい理由はスポット購買というバカな買い方と為替レートの円高誘導というアベノミクスの結果です。

上記の理由で「原発を止めたから石油燃料の輸入量が増えて貿易赤字になった」
だから「原発を稼働させれば石油燃料の輸入金額が減って貿易黒字になる」
という論理展開には騙されてはいけないのです。
Posted by ぐっち at 2014年07月02日 02:12
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。