2011年12月27日

航空機乗務員の発がんリスク

低線量被ばくの影響を否定する論拠の1つとして、航空機乗務員は一般人より被ばくしているが発がん率が高いという報告はない、ということが指摘されます。

しかし、航空機乗務員の発がんリスクについては、そうした報告の一方で、リスクが増加しているとする報告や、染色体異常の増加についての報告も確かにあります。

航空機乗務員の発がんリスク増加は体内時計の乱れなどに原因があるのではないかとの見方もあるようです。

宇宙放射線による被ばくリスクについて詳しい方がいれば、教えていただきたいと思います。

以下、諸々の論文の抄訳です。

太田光征
http://otasa.net/



パイロット、飛行年数の増加で染色体異常が増加
Occup Environ Med 2009;66:56-62 doi:10.1136/oem.2008.038901
Increased frequency of chromosome translocations in airline pilots with long-term flying experience
L C Yong et al
http://oem.bmj.com/content/66/1/56.abstract

染色体の転座は外部電離放射線の累積被ばくのバイオマーカーとして確立されている。航空機パイロットは宇宙からの電離放射線に曝露しているが、飛行経験との関連で航空機搭乗員の染色体転座を調べた研究はほとんどない。

航空機パイロット83人と対照者50人(平均年齢はそれぞれ47歳と46歳)の末梢血リンパ球における染色体転座の頻度を測定し、年齢、X線診断の経験、軍隊での飛行年数に関して補正した後、被ばく状況および飛行年数との関係を評価した。

パイロットと対照者の間で補正後の100細胞等量当たり平均転座頻度に有意差はなく、それぞれ0.37 (SE 0.04)、0.38 (SE 0.06)であった。しかし、飛行年数が1年から10年へと漸増するに伴い、パイロットの補正後の転座頻度はそれぞれ1.06(95% CI:1.01-1.11)、1.81(95% CI:1.16-2.82) の比率で増加しており、転座頻度と飛行年数は有意に相関していた(p = 0.01)。飛行年数が最高4分位のパイロットの調整転座頻度は、最低4分位のパイロットの2.59倍(95% CI:1.26-5.33)であった。

*

医療X線被ばくにより染色体異常が増加
Radiat Environ Biophys. 2010 November; 49(4): 685–692.
Diagnostic X-ray examinations and increased chromosome translocations: evidence from three studies
Bhatti et al
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3075914/

34〜90歳(平均62歳)の被験者計362人において、医療X線の被ばく線量と、赤色骨髄における染色体転座の頻度を調べた。線量スコアの1ユニットは約10mGy(10mSv)である。

採血時年齢とFISH法に関して補正をした場合、診断放射線の線量スコアが10ユニット増加するに伴い、100細胞等量(CE)当たり0.04の転座が統計的有意性をもって増加した(95% CI: 0.02, 0.06; P < 0.001)。

線量スコアを50以下に限定してもこの傾向は変わらないどころか、線量スコア0〜50で10線量スコア・100細胞等量当たりの過剰転座は0.05(95% CI: 0.001, 0.1; P = 0.04)、線量スコア0〜20で同過剰転座は0.08(95% CI: −0.002, 0.02, P = 0.1)、線量スコア0〜10で同過剰転座は0.3(95% CI: 0.06, 0.5, P = 0.02)と、線量反応関係は増大した。

*

染色体異常の増加で発がんリスクが増加
Am J Epidemiol. 2007 Jan 1;165(1):36-43. Epub 2006 Oct 27.
Chromosomal aberrations and cancer risk: results of a cohort study from Central Europe.
Boffetta et al
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17071846
http://aje.oxfordjournals.org/content/165/1/36.long

中欧の健康な6430人を対象に1978〜2002年にかけて染色体異常を調査した。その後、平均8.5年間にわたって発がん率ないしがん死率のフォローアップを行った。がん症例数は200件。

染色体異常のレベルを3つに分けると、染色体異常による発がんの相対リスクは、最低3分位の場合のリスクを1として、中間3分位が1.78(95%信頼区間:1.19-2.67)、最高3分位が1.81(95%信頼区間:1.20-2.73)となった。

最低3分位の無がん生存率はそれ以外と比べ統計的有意性をもって改善した(p = 0.01)。

*

パイロットらの急性骨髄白血病リスクが増加
Lancet. 1999 Dec 11;354(9195):2029-31.
Radiation-induced acute myeloid leukaemia and other cancers in commercial jet cockpit crew: a population-based cohort study.
Gundestrup M, Storm HH.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10636367

デンマークの航空機運航乗員3877人(男性3790人、女性87人)の発がんリスクを調べた。男女全体の全がんの標準化罹患率(SIR、基準=1に対する比)は1.1(95% CI:0.94-1.28)で、飛行時間5000時間以上の男性運航乗員については、急性骨髄白血病のSIRが5.1 (1.03-14.91)、黒色腫を除く皮膚がんのSIRが3.0(2.12-4.23)、全がんのSIRが1.2(1.00-1.53])であった。航空機の機種に関係なく、飛行時間5000時間以上の乗員の間で悪性黒色腫のリスクが上昇していた。

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パイロットの皮膚がんリスクが増加
BMJ. 2002 Sep 14;325(7364):567.
Incidence of cancer among Nordic airline pilots over five decades: occupational cohort study.
Pukkala E et al
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12228131

北欧の男性航空機パイロット1万0032人を対象に発がんリスクを調べた。宇宙放射線に起因して発がんリスクが顕著に増加することを示すものではないが、皮膚がんの相対リスクは放射線量の推定値とともに増加した。黒色腫の標準化罹患率(SIR)は2.3(95%信頼区間:1.7-3.0)、黒色腫を除く皮膚がんのSIRは2.1(1.7-2.8) 、基底細胞のSIRは2.5(1.9-3.2)であった。

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女性客室乗務員の乳がんリスクが増加
J Womens Health (Larchmt). 2006 Jan-Feb;15(1):98-105.
Cancer incidence among female flight attendants: a meta-analysis of published data.
Buja A et al
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16417424Abstract

航空機の女性客室乗務員の発がんリスクに関する研究7件を基にメタ分析を行った。黒色腫のメタ標準化罹患率(メタSIR)は2.15(95%事後区間[PI]:1.56-2.88)、乳がんのメタSIRは1.40(PI:1.19-1.65)であった。

*

黒色腫と電離放射線
Radiat Res. 2005 Nov;164(5):701-10.
Melanoma and ionizing radiation: is there a causal relationship?
Fink CA, Bates MN.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16238450

一般的に、白血病の相対リスクを高める被ばくカテゴリーでは、それと比例する形で黒色腫の相対リスクも上昇していることから、電離放射線に曝露する人は黒色腫発症リスクが高まることが示唆される。



体内時計・遺伝子・がんの関係
J Circadian Rhythms. 2010 Mar 31;8:3.
Circadian rhythm and its role in malignancy.
Rana S, Mahmood S.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20353609
posted by 風の人 at 00:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 放射線による健康被害
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