今度の参院選の結果の最大の特徴は、民主党が大敗し、過半数割れしたことでもなく、自民党が改選第1党に復調したことでもなく、みんなの党が改選議席数0から10議席に躍進したことにある、というのが私の見方です。私がそのような見方をするのは、「みんなの党躍進」という事象がこの国の「世論」なるものを構成する私を含む「大衆」というものの、その大約の思想が根底的、あるいは底なしに保守化していること、また、現在のこの国の「世論」なるものの政治への失望感が保守・中道・革新(便宜的な区分以上のものではありませんが)という政治ポジションのどの地平に向かっているのかを端的に示す象徴的な表象になりえているように思えるからです。
みんなの党は多くの人が共通して指摘するように新自由主義者の政党、また、ポピュリズムの政党とみなしてよい政党です。「同党代表の渡辺喜美は、父渡辺美智雄の地盤を継承して14年前に自民党衆院議員となり、その後一貫して同党の要職を歴任してきた根っからの自民党員」(愚生ブログ 2010年3月25日付)、新自由主義者であったという彼の政治的出自から見てもそのことは明らかというべきですが、同党の参院選選挙公約にも「国会議員の大幅削減、給与のカット」「国と地方の公務員人件費削減」「官から民へ」「独立行政法人の廃止・民営化」などの新自由主義的な政策が列記されており、同党が新自由主義者の政党であることは明瞭です。
http://www.your-party.jp/policy/manifest.html
また、同党がポピュリズムの政党であるというのは、上記の新自由主義的な政策をさらに具体化して「国家公務員の10万人削減」や「公務員給与の2割カット、ボーナスの3割カット」などの政策を掲げ、「恵まれた」給与体系を持つ公務員などに対して怨嗟の感情を募らせている「大衆の中にある差別感情」「ねたみやそねみの感情」(辛淑玉「ウケ狙いの政治の果て」)、さらにはルサンチマンを扇動するウケ狙いの政治手法を弄していることからもそのことは明らかです。この「ウケ狙いの政治」手法は、東京・石原都政、大阪・橋下府政、果ては鹿児島・阿久根市政のポピュリズム政治、さらにその果てには戦前のナチス・ドイツのヒトラーのポピュリズムの政治手法にもつらなる暗愚も極まるきわめて危険な政治手法といわなければならないでしょう(愚生ブログ 2010年3月29日付参照)。
http://blogs.yahoo.co.jp/higashimototakashi/1070015.html
こうしたみんなの党の掲げる政策に一定の支持が集まったというのは、現象的には前回の衆院選では民主党を選択した自民党に失望し、さらには民主党にも失望した保守票がみんなの党に移動した結果といえるでしょうが(注)、本質的にはこの国の「世論」(有権者といっても同じことですが)なるものの大約の思想が根底的に、あるいは底なしに保守化していることを示す端的な表象とみなすべきものだろう、と私は思います。
注:たとえば読売新聞社と日本テレビ・同系列局が11日に共同実施した参院選の出口調査では、支持政党を持たない無党派層のうち、比例選で民主党に投票した人は09年衆院選では52%あったのが今回の参院選では29%にとどまっており、その大部分の票がみんなの党に流れたものと推測されています。また、NHKなど他のメディアの出口調査でも同様の結果が出ています。
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100712-567-OYT1T00089.html
この私たちの国の「大衆」の根こそぎ的ともいってもいい保守化現象はなんに起因するのか。私はここ10年から20年にかけて、すなわち1991年の海部内閣時の小選挙区制導入以来進んで「2大政党制=民主主義社会の成熟」論、実のところ「民意の多様性否定=少数政党実質無用」論を掲げ、この20年の歳月をかけて徐々にかつ急激にジャーナリズム精神と権力への批判精神を喪失していった大メディアの責任とその総白痴化の影響が大きいと思います。活字メディアでさえ総白痴化していく中でテレビメディアひとり白痴化しないわけはありません。実際テレビメディアは活字メディアに輪をかけて総白痴化していきました。言われて久しいのですが「報道番組のワイドショー(娯楽)化」という言葉が誕生したこと自体がなによりもそのことを如実に示しています。
今回の参院選の総括もメディアはこぞって「菅首相の消費税増税発言が民主党敗因の最大の原因」などというまことしやかで実体のないご託宣を述べ合っています。
■参院選 菅民主大敗 厳しい試練が始まった(毎日新聞社説 2010年7月12日)
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100712k0000m070209000c.html
「やはり、選挙戦で消費税率の引き上げを持ち出すのはタブーだったのだろうか。(略)民主党内では消費税を持ち出した菅首相の責任論が出ており、9月の党代表選に向け『反小沢対親小沢』の対立が再燃しそうだ。」
■参院選 民主敗北―2大政党にさらなる責任(朝日新聞社説 2010年7月12日)
http://www.asahi.com/paper/editorial20100712.html
「鳩山前政権の度重なる失政が影を落とし、消費増税での菅首相の説明不足や発言の揺れが大きく響いた。」
■参院選民主敗北 バラマキと迷走に厳しい審判(読売新聞社説 2010年7月12日)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100712-OYT1T00157.htm
「民主党の最大の敗因は、菅首相の消費税問題への対応だ。(略)首相の方針に対して、民主党内から公然と批判が出るなど、党内不一致も露呈した。」
しかし、「民主党が惨敗した理由は、各メディアが報じるような『消費税』にあるとは思えない。もしそうなら、先に『10%』を打ち出している自民党が勝つことはありえない」(週刊金曜日編集長ブログ 2010年7月12日)でしょう。しかし、昨日のテレビメディアの参院選の感想を聞く街頭インタビューなるものを少し見てみましたが、待ち行く人はほとんど「消費税がどうのこうの」と民主党の敗因を語るのです。わが国の「大衆」なるものがいかにマスメディアのウソにたぶらかされて、その土俵の上で踊らされているか。ここにも残念ながらマスメディア、殊にテレビメディアの負の大きな影響力を見ないわけにはいきません。
こうした分析から導き出される護憲・革新陣営(便宜的にとりあえず左記のように表現しているだけのことですが)の対抗戦略は上記のようなマスメディアの負の大きな影響力に負けない「革新」の発信力を構築していくことがなによりも今後の大きな課題になると思われるのですが、参院選投票日
前日の投稿などでも述べているように(「森永卓郎論文について・・・」 愚生ブログ 2010年7月10日付)本来「革新」の言説を発信する媒体であるべきメディアが逆に大マスコミの論調に巻き込まれた「論」を展開し、その「論」のまやかしに気づかない読者を拡大しているという逆説が横行しているというのが残念ながらいまの護憲・革新陣営の現状だというのが私の見立てです。
注:上記の件については、下記の小文もご参照いただければ幸いです。
■後論:作家・村上春樹のエルサレム賞受賞記念スピーチは卑怯、惰弱の弁というべきではなかったのか?(CML 000185 2009年5月31日)
http://list.jca.apc.org/public/cml/2009-May/000182.html
これでは非民主的な(と、私たちがいくら口を酸っぱくして言っても)マスメディアを総動員した「2大政党制」論にとうてい打ち勝つことはできません。マスメディアの論調を少しでも正常に戻すためにも、護憲・革新陣営の論調が逆に大マスコミの論調に巻き込まれている体のものであるという現状、
為体(ていたらく)をまず立て直す必要があるだろう、と私は思います。そのことを抜きにして「大衆」の大約の思想が根底的、あるいは底なしに保守化しているという現状も変革することはできないでしょう。
それが今回の参院選の投票結果についての私の感想の結論ということになります。
参考:
■私として参院選の結果を読む 底なしに保守化する「大衆」の現状を憂える(「草の根通信」の志を継いで 2010年7月13日)
http://blogs.yahoo.co.jp/higashimototakashi/5820662.html
by 東本高志
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