太田光征
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海上保安庁による臨検特措法施行直前の臨検訓練強行に抗議する市民の声明
井上澄夫(埼玉県新座市、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)
加賀谷いそみ(秋田県男鹿市、男鹿の自然に学ぶ会)
奥田恭子(愛媛県松山市、心に刻む集会・四国)
廣崎リュウ(山口県下関市、下関のことばと行動をつなぐ『海』編集委員)
2010年7月4日
「国際連合安全保障理事会決議第千八百七十四号等を踏まえ我が国が実施する貨物検査等に関する特別措置法案」(以下、臨検特措法と略)は去る5月28日、参院で成立した。私たちは同法案が衆院で可決された直後に参院が同法案を審議しないよう求める声明を発し、参院での成立直後には強い抗議声明を発した。
※ 法律の名にある「北朝鮮」は朝鮮民主主義人民共和国のことである。以下においては同国を北朝鮮と略記する。
ところが去る7月2日、まことに遺憾な事態が起きた。7月4日の臨検特措法施行を前に、第7管区海上保安本部(北九州)と門司税関が、関門海峡の東側海域で臨検の合同訓練を強行したのである。7月2日付『西日本新聞』はこう伝えている。
〈(訓練には)巡視船4隻や海上保安官、税関職員計約150人が参加した。訓練は「北朝鮮向けのロケット部品を積んだ外国籍貨物船が日本近海の公海を航行中」との政府情報を受け開始。7管の航空機が船を発見し、巡視船が取り囲んだ。停船要請に応じないため、特措法に基づき、貨物検査のため港への回航を命令したが拒否したため、ヘリコプターが発射した警告弾の煙の中、海上保安官が乗り移った。その後、船長を回航命令違反容疑で現行犯逮捕、回航先の門司港での貨物検査でコンテナ内からロケット部品を発見するとの想定で訓練は進み、参加者は真剣な表情で取り組んだ。〉
同日付NHKニュースは訓練の参加者を「およそ170人」とし、「第7管区海上保安本部の安達貴弘警備課長が『有意義な訓練だった。船舶についての情報収集や税関との連携を強化し、法律の的確な運用を図りたい』と話した」と伝えている。
『西日本新聞』は訓練は「関門海峡の東側海域」(NHKは「北九州市沖」としている)で、「北朝鮮向けのロケット部品を積んだ外国籍貨物船が日本近海の公海を航行中」との政府情報を受けて開始されたと伝え、NHKは「北朝鮮から輸出されたロケットの部品を積んだ疑いのある外国籍の貨物船が公海上で発見された」という想定で行なわれたと報じているが、6月25日付の第7管区海上保安本部広報は「公海上において北朝鮮特定貨物を積載した疑いのある外国籍貨物船に対する停船措置、回航命令等、回航させた外国籍貨物船に対する貨物検査等」と記している。いずれにせよ臨検の対象は「公海上の外国籍貨物船」だったが、臨検特措法にいう「北朝鮮特定貨物を積載していると認めるに足りる相当の理由」はその根拠さえ想定されなかった。
今年3月に起きた韓国軍哨戒艦「天安号」沈没が「北朝鮮の魚雷」によるとする韓国政府の見解を日米両政府が支持しているが、北朝鮮政府はそれに激しく反発し、朝鮮半島の南北両国関係は現在、極度に緊張している。このような時期にあえて上記の訓練を強行したことは、北朝鮮との軍事的緊張を無用に激化させることであり、私たちは海上保安庁によるこの暴挙に強く抗議する。
臨検特措法が成立した同じ日、参院は北朝鮮船籍船舶の入港禁止を来年4月まで延長する特定船舶入港禁止承認案件を全会一致で可決した。日朝間の国交正常化の努力をまったく行なわず、敵対関係の維持を国会が決議する異常な状況下で、戦争の火種に発展しかねない臨検の訓練を強行することは、北東アジアの軍事的緊張をわざわざ高める大愚行と断じざるを得ない。
韓国李明博政権は当初、北朝鮮に対する国連安保理の非難決議を求めたが、政権が主張する哨戒艦沈没の原因については、国際社会でも韓国国内でも十分な支持を得ることができず、振り上げたこぶしの持っていきどころがなくなりつつある。鳩山前首相は米海兵隊普天間基地の移設先を沖縄の民意を足蹴にして辺野古に押しつけるために、まさにとってつけたように哨戒艦沈没事件を政治利用して「沖縄海兵隊抑止力論」にこじつけたが、あとを継いだ菅首相もひたすら米韓両国政府にすり寄り、北東アジアの政治的・軍事的緊張を少しも緩和しようとしない。
今回の海上保安庁による訓練が訓練ではなく、そのまま公海上で実施されるなら、すでに危険水位に達している日朝間の政治的緊張が軍事的衝突につながりかねないことを、私たちは深く憂慮する。
海上保安庁は二度とこのような「訓練」という名の政治的挑発を行なうべきではない。また北朝鮮に出入りする船舶を公海上で臨検するという危険きわまりない愚挙は断じて避けるべきである。パレスチナ自治区ガザに向かった人道物資積載の船舶に対しイスラエル政府が行なった蛮行が世界中から厳しく糾弾されていることを、海上保安庁はとくと凝視すべきである。以上、声明する。
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