2010年04月16日

労働者派遣法抜本改正を求める日弁連会長声明と長妻厚労相の諮問機関「労政審」の逆ねじ

日弁連が先の4月14日に「真に労働者保護に値する労働者派遣法抜本改正を求める会長声明」を発表しました。今国会に鳩山内閣が提出した労働者派遣法改正法案が派遣労働者だましの「抜け穴」だらけのざる法(北海道新聞、東京新聞など)にすぎないことを厳しく指弾する警告書といって
もよい声明になっています(「声明」全文は下記参照)。反貧困ネットワーク代表や年越し派遣村名誉村長も務める宇都宮健児さんの日弁連会長就任効果という側面もおおいにあるのではないか、と私は思います。

ところで、日弁連は、この会長声明の発表に先立ち、この4月7日に「労働者派遣法改正案の問題点を正す緊急院内集会」を開いていますが、この院内集会に参加した働く女性の全国センター(ACW2)事務局長の伊藤みどりさんは、同集会で日弁連として先の2月19日に発表した意見書のポイ
ントについての解説役をつとめた板倉弁護士の話について「女性差別的雇用慣行と労働者派遣法というテーマで具体的に労働のジェンダー格差を解消するために提起があり心、すっきり!!! 初めてですよ院内集会で、私たち以外でここまで提起してくれたのは」、という感想を述べておられました(「働く女性の全国センターメール」2010年4月7日)。日弁連のそうした不断のとりくみも上記の声明にはもちろん反映されているでしょう。

一方この4月1日、長妻厚労相の諮問機関「労働政策審議会」(労政審、会長=諏訪康雄・法政大教授)は、上記の日弁連声明とは逆に「労政審の答申では、契約期間の定めのない派遣労働者に限り、派遣先企業が受け入れ前に行う『事前面接』の解禁規定が盛り込まれていたが、社民、国民新両党が『立場の弱い派遣労働者が容姿や年齢で派遣先に差別される』と強く反対」「政府が3月19日、製造業派遣の原則禁止などを盛り込んだ労働者派遣法改正案を社民、国民新両党の反発を受け入れる形で修正したことについて」「「答申が尊重されないと審議会の意味がなくなる。ぎりぎりの交渉をして決めたことなのに、政治主導の下、いとも簡単に覆されるのは納得できない」などとして「労政審の答申の尊重を求める『意見書』を長妻厚労相に提出する方針を固めた」(読売新聞 2010年4月1日)といいます。派遣労働者の生活する権利などお構いなしの本末転倒も甚だしい逆ねじといわなければならないでしょう。

上記のように言って恥じない労政審メンバーは鳩山内閣によって選出されたメンバーではありますが、そのうち使用者側委員と公益側委員は自民党政権時代に選出された委員のままです。この労政審の使用者側委員と公益側委員について、私は、安倍内閣時に経済財政諮問会議の下部組織として設置された悪名高い労働タスクフォースのメンバーと比較して次のように述べたことがあります。

「鳩山内閣によって選出された使用者側委員と公益側委員の(略)発言とこの後すぐに発信する安倍政権下での悪名高い労働タスクフォースの労働者蔑視ともいうべき見解となんと似通っていることか?」(CML 002500)

「そのあまりにも「人権」感覚の欠如した労働タスクフォースの提言は、学者、労働組合、市民組織などの激しいブーイングの嵐に見舞われ、政府すら、経済財政諮問会議の下部組織のさらに下部組織の見解であって、政府の見解ではない、と否定せざるをえなかった代物です」(CML 002501)

そして、その悪名高い労働タスクフォースの労働者蔑視ともいうべき見解は次のようなものでした。

「一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られるという考え方は誤っている。不用意に最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う生産性を発揮できない労働者の失業をもたらし、そのような人々の生活をかえって困窮させることにつながる。過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果となるなどの副作用を生じる可能性もある。正規社員の解雇を厳しく規制することは、非正規雇用へのシフトを企業に誘発し、労働者の地位を全体としてより脆弱なものとする結果を導く」(CML 002501)

そして、私はその文を次のような言葉で締めくくりました。今回も同じことばで締めくくりたいと思います。

「これが鳩山内閣のいう『コンクリートから人へ』の一側面であることを私たちは怒りをもって強く認識しておく必要があるように思います」(CML
002500)

以下、日弁連会長声明(2010年4月14日)です。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/100414_2.html

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真に労働者保護に値する労働者派遣法抜本改正を求める会長声明

労働者派遣法改正法案(以下「改正法案」という。)が本年4月6日、衆議院に提出された。当連合会は、「労働者派遣法の今国会での抜本改正を求める意見書」(2010年2月19日)を発表し、この意見書の趣旨に沿った抜本改正を強く求めてきたところである。

今般、改正法案では、法案要綱段階で盛り込まれていた派遣先による事前面接の解禁については、引き続きこれを禁止とする修正を行ってはいるが、改正法案のままでは、労働者保護に値する抜本改正にはなおほど遠く、法案策定の過程において、法改正を切実に望む派遣労働者の声が十分に反映されていたのか疑問が残る。

よって、当連合会は、以下のとおりの修正を要請するものである。

第1に、改正法案では、登録型派遣について原則禁止としながら、政令指定26業務を例外としている。登録型派遣は全面的に禁止すべきである。仮に例外的に専門業務について許容するというのであれば、真に専門的な業務に限定されなければならないにもかかわらず、現行の政令指定26業務の中にはもはや専門業務とは言えない事務用機器操作やファイリング等が含まれており、専門業務を偽装した脱法がなされるなど弊害が大きい。また、これらの業種は女性労働者の占める割合が高く、女性労働者の非正規化、男女賃金格差の温床となっていることからも、厳格な見直しが必要である。

第2に、改正法案では、本来全面禁止されるべき製造業務への派遣を含めて「常用型」派遣は認められている。ところが、改正法案では「常用型」についての定義規定が定められておらず、期間の定めのない雇用契約のみならず、有期雇用契約も含まれる運用がなされる危険性がある。また、行政解釈では、有期契約であっても更新によって1年以上雇用されている場合や雇入れ時点で1年を超える雇用見込みがあれば、常時雇用として取り扱うとされており、登録型派遣を禁止する意味がない。「常用」については「期間の定めのない雇用契約」であることを法律に明記すべきである。

第3に、団体交渉応諾義務等派遣先責任を明確にする規定が今回の法案には定められていない点も問題である。派遣労働者は、派遣先の指揮命令下に日々労務の提供を行っているのであり、派遣先が自ら使用する労働者の労働条件改善について一定の範囲で責任を負うべきである。

法改正は、労働者保護のための規制強化への転換点となるものである。当連合会は、真の派遣労働者の保護ひいてはわが国の労働者全体の雇用の改善に資するよう、派遣労働者の実態を踏まえた修正を求める。

2010年(平成22年)4月14日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児
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■労働者派遣法抜本改正を求める日弁連会長声明と長妻厚労相の諮問機関「労政審」の逆ねじ
http://blogs.yahoo.co.jp/higashimototakashi/2104347.html

by 東本高志
posted by 風の人 at 17:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 一般
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