たとえば最近のロイターの個人投資家を対象にした世論調査ではみんなの党の支持率は自民党を抜き、民主党に肉薄して2位になっています。みんなの党の支持率アップがもともとの自由主義者、新自由主義者の支持の増大にすぎないのであれば、私は、そういうことはある程度予想されていたことでもあり、想定の範囲内という意味で「自然」な現象と呼んでも差し支えないものだろうと思います。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14425720100319?sp=true
民主党の熱烈な支持者として知られる経済評論家の植草一秀氏は1月ほど前にみんなの党について「自民党別働隊の動かぬ証拠」を掴んだとして欣喜雀躍した記事を書いていましたが、同党代表の渡辺喜美は、父渡辺美智雄の地盤を継承して14年前に自民党衆院議員となり、その後一貫して同党の要職を歴任してきた根っからの自民党員です。その渡辺が同党を私怨がらみで離党して結成した政党がみんなの党であるという同党の出自に思い致せば、動かぬ証拠もなにも、同党が自民党の別働隊であることは論証するまでもなく明らかなことだといわなければならないでしょう。そういうわけで、もともとの自由主義者、新自由主義者の支持が少しばかり増大したり、また、自民党からみんなの党に宗旨替えする者が少しばかり増えたからといってもまあ「自然」な現象といえるでしょう。
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-2b9a.html
しかし、そうした「保守」移動の現象を超えてみんなの党の支持が増大しているのだとすれば、私たちはもう少し思いを凝らしてこの現象について考察してみる必要があるように思います。そして、実際にみんなの党の支持率アップは、「保守」移動の現象を超える兆候を見せています。
上記の「みんなの党が自民党を抜き、民主党に肉薄して2位になった」というロイターの記事は、個人投資家というある種特異な富裕階層における同党の支持率アップを報じる体のものにすぎませんでしたが、最近行われた下記の朝日新聞の世論調査の結果を見てもみんなの党の支持率は、民主党37%、自民党29%に次いでみんなの党9%と公明党5%、共産党4%、社民党3%、国民新党1%を断然抜いて3位に浮上しています(同紙「世論調査―質問と回答〈2月中旬から3月中旬〉」質問(53))。
http://www.asahi.com/politics/update/0324/TKY201003240001.html
さらに「衆院選で民主に投票したと答えた人(全体の45%)のうち、参院選でも民主に投票するという人は67%だった。11%は自民に投票、8%はみんなの党に投票するとしている」という調査結果もあります。鳩山内閣の支持率自体は「支持する」40%、「支持しない」51%と不支持率の方が高くなっています(同紙「衆院選で民主投票『参院選は別』3割 朝日新聞世論調査」)。
http://www.asahi.com/politics/update/0323/TKY201003230395.html
上記の世論調査結果をどのように読み解くべきでしょうか。
参考になるのはやはり上記の「世論調査―質問と回答」です。そこからいまの「世論」の意識構造のようなものが読み取れるように思います。
上記の世論調査の質問(19)に「(政治的に)もっとも保守的な立場を10、もっともリベラルな立場を0、中間を5にした場合、あなたご自身の立場はどのあたりに位置すると思いますか」という問いがありますが、その問いに対する回答は次のようになっています。
「0=1▽1=1▽2=3▽3=10▽4=13▽5=36▽6=14▽7=11▽8=4▽9=1▽10=1」
中間の4〜6の合計は63%。3〜7までを中間とみなして合計すると84%。つまり、63%〜84%の人たちが自分を政治的には中間層と見ている、ということになります。その人たちの心の基層、あるいは識閾というところに伏流している無意識的意識はおそらく政治的、経済的な中流意識と見てよいでしょう。自分はひとしなみにはほどほどの生活をしているという中産階級思想、と言い換えてもよいかもしれません。
さらにその中産階級思想を持つ人たちの具体的な政治意識を上記の「世論調査―質問と回答」から抽出して見てみると次のようです。
━━━━━━━━━━━━━━━━
●Q(28):「愛国心を、もっと学校で教えるべきだ」という意見に賛成ですか。反対ですか。
A:賛成 35/どちらかといえば賛成 38/どちらかといえば反対 16/反対 6
●Q(29):「いまの日本は個人の権利主張が行き過ぎている」という意見に賛成ですか。反対ですか。
A:賛成 24/どちらかといえば賛成 38/どちらかといえば反対 27/反対 6
●Q(31):日本は、戦争や植民地支配を通じて被害を与えた国や人々に対して、謝罪や償いを十分にしてきたと思いますか。まだ不十分だと思いますか。
A:十分だ 23/どちらかといえば十分だ 40/どちらかといえば不十分だ 24/不十分だ 7
●Q(32):「治安を保つためには、警察など捜査機関にもっと強い権限をもたせるべきだ」という意見に賛成ですか。反対ですか。
A:賛成 22/どちらかといえば賛成 37/どちらかといえば反対 28/反対 10
●Q(27):夫婦が希望すれば、結婚前のそれぞれの名字を名乗れる「選択的夫婦別姓」に賛成ですか。反対ですか。
A:賛成 22/どちらかといえば賛成 20/どちらかといえば反対 23/反対 31
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「愛国心」賛成73%、「権利主張の行き過ぎ」(「自己責任論」といってもよいでしょう)賛成62%、「戦争責任への謝罪と償いは果たした」賛成63%、「夜警国家論」賛成59%、「選択的夫婦別姓」反対54%。総体としてきわめて保守的な思想が「世論」の多数派を形成している、と見ることができるでしょう。
一方でその保守的な思想を持つ「世論」は次のような所感も持ちあわせている人たちです。
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●Q(20):いまの日本の社会にある所得の格差は、許容できる範囲内だと思いますか。行き過ぎていると思いますか。
A:許容できる 6/どちらかといえば許容できる 29/どちらかといえば行き過ぎている 43/行き過ぎている 18
●Q(33):憲法は9条で「戦争を放棄し、戦力は持たない」と定めています。憲法9条を変えることに賛成ですか。反対ですか。
A:賛成 18/どちらかといえば賛成 20/どちらかといえば反対 24/反対 35
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「いまの日本の社会にある所得の格差は許容できる」反対61%、「憲法9条を変える」反対59%。ここにはこの「失われた20年」の間に形成されたいまの甚だしい社会の所得格差に憤り、平和を希求するもう一面の「世論」の姿を見出すことができます。
ここで改めてみんなの党の最近の支持率アップの問題に立ち返ってみます。
上記ではあえてとりあげませんでしたが、上記の世論調査の質問の中には「(17)政権交代後、政治はどの程度変わったと思いますか」という質問もありました。その質問への回答は、大いに変わった4%、ある程度変わった39%、あまり変わっていない44%、まったく変わっていない11%というものでした。55%もの「世論」が民主党政権NOという回答をしています。そうした世論結果からも、民主党に失望して、かつ自民党にも失望していた総体的に保守的な思想傾向を持つ「世論」が今回のみんなの党の支持率アップのひとつの大きな要因になっていることは容易に見てとれます。
しかし、民主党に失望して、かつその前から自民党にも見切りをつけていた「世論」は、みんなの党を選考するしか道はないのでしょうか。上記で述べたように総体的に保守的な「世論」はもう一方でいまの甚だしい社会の所得格差に憤り、平和を希求するというもう一面の政治的志向性をも合わせ持っています。この「世論」のもう一面の政治的ニーズに応えうる政局の展開をこの世論なるものが実感することができれば、政局は革新的な局面にドラスチックに変化していく可能性を秘めているのではないか、と私は思っています。
しかし、その可能性を閉ざしているのは2大政党制論というまことしやかでまことしやかでない言説だと思います。2大政党制論とはイデオロギーの差異が小さい2大政党が交互に政権を担当し、牽制しあうというひとつの政治の型のことをいいます。そのことで政局は安定し、経済的活力も生まれてくるというバラ色の近未来社会の構図が描き出されます。しかし実際にはこの2大政党制論とは基本的には同質の保守政治の交代劇を合理化する論理でしかありません。そのことは日本における2大政党制と擬制される自民党と民主党の政権交代劇が上記のような「世論」に失望を与えるものでしかなかったことを見ても証左されつつあることです。
このバラ色の近未来社会を描く2大政党制論のわが国の社会への悪しき拡散については、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞など大マスメディアの一大キャンペーンに負うところがきわめて大きいといわなければならないのですが(注1参照)、実のところ私たちいわゆる民主陣営の側にも本人がそれとして意識しない形でこの2大政党制論をナイーブな形で拡散している気配が濃厚なのです(注2参照)。
この私たちいわゆる民主陣営の側が本人がそれとして意識しない形でこの2大政党制論をナイーブな形で拡散している事例については上記の注2で指摘していることのほかに次に示す天木直人氏の言説なども含めるべきだろう、と私は思います。天木氏は折に触れて私たちの国の政治革新の重要性を提起されるのですが、その提起のしかたは、政治革新の担い手として民主党はダメだし、社民党もダメだ。共産党は「組織の存続を最優先にして国民からますます愛想をつかされつつある」(注3参照)。また、共産党は「イデオロギー政党」(注4参照)だからこれもダメだ、というものです。そうして天木氏が結局ゆき着くところは「既存の政治の全否定」(注3参照)ということになります。こうした天木氏の政治展望の示し方では、国民は結局依拠すべき政治展望を持つことはできず、政治不信の徒(ニヒリスト)になるか、なんとなく「世論」上で賑わしいみんなの党にでも今度は投票してみようか、ということにしかならないのだ、と私は思うのです。
「自民党の別働隊」でしかないみんなの党へ「新自由主義者でない人たちが同党に投票してしまうのを」防ぐためにも、私たち自身がいま2大政党制の論理のくびきから明確に脱却し、真の政治革新の方向性を有権者たる国民に指し示すことが求められているのだ、と私は思います。
注1:マス・メディアのダブル・スタンダード報道(「草の根通信」の志を継いで 2006年5月21日)
http://blogs.yahoo.co.jp/higashimototakashi/885670.html
注2:民主的な政治闘争の課題をどこに収斂させるべきか、という問題について(「草の根通信」の志を継いで 2010年3月12日)
http://blogs.yahoo.co.jp/higashimototakashi/folder/124839.html
注3:鳩山首相への決別宣言(天木直人のブログ 2010年3月21日)
http://www.amakiblog.com/archives/2010/03/21/#001601
注4:福島社民党党首に助言する(天木直人のブログ 2010年3月2日)
http://www.amakiblog.com/archives/2010/03/02/#001593
by 東本高志
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