2009年01月24日

オバマ大統領ともうひとつのアメリカ

                                      
       櫻井 智志

 私は、オバマの出現をアメリカのもうひとつの民主主義の伝統の継承者ととらえる。オバマは、日本にアメリカ帝国主義にもとづいて法外な要求を経済的軍事的にふっかけることも予測しうる。しかし、そんな法外なアメリカの要求があったら、それに毅然と批判して日本の未来の伝統を展望する政治家の登場を、私たちが押したてるべきであろう。

 私の考えるところでは、戦後の政治指導者でそのようなリーダーは、自民党の石橋湛山首相くらいである。三木武夫のリベラルさも本物であることは夫人の三木睦子さんの政治的言動からもおしはかれる。日本の左翼には、アメリカにおけるオバマのような存在はいたか。

 私は、日本共産党の野坂参三氏に注目していた。共産党は野坂氏をソ連において山本懸蔵を秘密警察に売り渡したスパイと断罪した。しかし、それはソ連共産党が戦時中に日本人共産主義者すべてをスパイとみなしていた非情な事実を見逃している。しかも、日本人同士で、誰かをスパイとして摘発しなければ、自らがスパイとして摘発されるような情勢。それこそが、ついにソ連共産党を崩壊させ、ソ連邦の瓦解へと連なる要因だった。宮本顕治氏の政治的マキャベリズムの前に一言も発せず無言のままにスパイを認めたかたちで日本共産党を除名され百歳を超えたにもかかわらず、失意のうちにすぐに他界した高潔さを評価する。野坂参三、宮本顕治、浅沼稲次\x8F\xF4譟∪\xAE田知巳、これらの政治家とともに、これを超えるリーダーは上田耕一郎をおいてない。それらの政治的リーダーは、いまの日本が用意できるだろうか。

 オパマは、日本の国益よりももっと別の視点に立って行動するに決まっている。彼はアメリカの大統領である。にもかかわらず、私はオバマを評価する。彼の理想主義は生半可のものではない。その証拠は、アフリカ大陸の民衆の反応を見ればわかる。

 彼はアフリカ大陸の奴隷解放を目論んだリンカーンの継承者といえよう。 現実政治は複雑な力動関係のもとに動いていますから、オバマが実際に打ち出す政策にはアメリカの階級闘争を反映していくことだろう。オバマを偶像化してなならない。けれどオバマが大統領になったことの意義は画期的でもある。日本の階級闘争は、日本の指導者がリードしていく。有効な手だてを打ち出さないで、オバマを全面的否定する意見にはくみしない。リンカーンが本物の奴隷解放者ではない、という意見もある。アメリカにおける民主主義を、プロレタリア民主主義とブルジョア民主主義に二分化する見方を私は否定する。キング牧師の思想は、ジェファーソン、リンカーン、アリスハーズ、ジョンサマヴィルの伝統の山脈に位置するという人権思想史の見方が、私のかんがえである。戦後、核兵器を正義の核兵器と悪の核兵器にわけ、ソ連や中国の核兵器は正義だと擁護するコミュニストが多かったとき、上記の伝統に位置するジョンサマヴィルは、『試練にたつ現代文明」』や『平和の革命』をあらわした。私は芝田進午氏の研究著作によってそのことを学んだ。東ドイツで家族ぐるみで留学した芝田教授は、現実のドイツ民主共和国のありようをみて、決定的になにがそこに欠損しているかを実感的に直感した。そこから、フランス革命を用意した人権宣言の思想が、アメリカ独立革命に継承されたことを明記した(大月文庫『人間の権利』)。東ドイツは解体した。ソ連は解体した。残ったアメリカは生き延びたが、未曾有の世界的危機をもたらした。核兵器の恫喝によって世界中の民衆を搾取している。

 オバマが継承したものは、人権宣言を継承する思想的水脈にある。しかし、あくまで思想的位置づけであり、国際社会のパワーポリテクスによって、アメリカ政治がどうなるかは、オバマの本来の意義を実現する国際的な平和と軍縮、軍国主義否定の運動である。日本の民主主義運動が、オバマの政治的危険を打破するだけの運動の力量を示すとともに、オバマ大統領誕生がなにを意味しているかを見極めたい。オバマ大統領出現の背景に第三世界の国際的発展を観ることはできないだろうか。

 私はオバマ政治を「いま」評価絶賛しているのではない。オバマ当選の「意義」を絶賛しているのだ。

すでに、ブッシュ末期の金融と軍事の悪政によってかなりの負債をオバマがおわされるだろうと指摘されてきた。ここ一年間はむしろオバマに幻滅させられるようなアメリカ政治が執行されるだろう。それでも、人権と民主主義運動の発展を拡大する方向でのみオバマと連帯ができよう。アメリカお膝元の中南米であいついで社会主義政権が誕生した。かれらのうちのベネズエラの大統領がオバマを評した賛辞こそ、オバマの意義を語っている。せっかちにオバマを肯定否定するまえに、ふまえたいことがある。建国以来のアメリカのいっぽうの顔、西部開拓侵略覇権主義の血塗られた歴史は、同時に対立物の統一として人権と民主主義の伝統を築き上げてきた。そのことを事実として見つめたい。

 オバマを大統領の座につけたものは、喪われ続けた黒人差別と人種差別主義の崩壊につらなる第三世界の被抑圧民族の人権回復の運動の高まりである。さらに、いままで世界中の資本主義が後退してもアメリカ資本主義は最後まで強靱な生命力を保つと言われつづけてきた。そのアメリカ金融経済が壊滅的な打撃をうけ、旧来のアメリカ帝国主義の代弁政治家では、もはや回復ができないところまで、アメリカ経済は落ち込んでいる。オバマ大統領には、アメリカ帝国主義におけるルーズベルト大統領のニューデイール政策のような、経済の民主的再建が求められている。

 オバマを大統領にまで押し上げたものは、日本の憲法第九条の世界人権宣言などの国際的な水源地のひとつであろう。
posted by 風の人 at 09:00 | Comment(0) | TrackBack(2) | 一般
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