櫻井 智志
私の小論に対する東本高志氏の論考に対する感想をまとめたので、以下に掲げ
る。
「天皇家賛美論者」ということに対する東本高志氏の解釈は、抽象的であり、一般
的
に把握する問題をもつ。私は、抽象論としての天皇家に対しててでなく、いまある平
成
の天皇一家についての叙述をおこなったわけであるが、そのことを正確に把握してい
な
い。
私は、まず美智子皇后が、国際児童読書年に対するここ数年来のコメントに共感を
も
っている。彼女は自分の少女期をふりかえり、山本有三、吉野源三郎が編集した新潮
社
の小国民文庫「世界児童文学名作選」を愛読し、あの戦争の時代にあのような編集を
お
こなったひとびとに敬意を表すると明言している。
尊敬する作家であり編集者である小宮山量平さんから教えてもらい大変驚いた。そ
の
インドか周辺の東南アジアの都市で開催された大会では、メッセージを送ったそうだ
が、
その後にも継続的に参加しているそうである。
また天皇は、園遊会で東京都の教育委員だった将棋界の米長邦雄氏が、「国歌を国
民に
必ず歌わせていきたい」というとんでもない発言を進言したときに、厳しくたしなめ
ら
れたのをテレビでリアルタイムで見た。
ある式典で、当時の森総理がおこなった軍国主義的発言に天皇皇后ご夫婦が大変厳
し
い目で凝視しているのを、当時の雑誌『月刊噂の真相』の特集グラビアで見た。
皇太子妃雅子さんは、外交官時代の生き生きとした様子が嘘のように、くるしい現
状
と格闘してる。
これらの一連の天皇ご一家のリベラルな行動がなぜ生じたか。私は、かつて読んだ
大
江健三郎さんの評論を思い出す。大江さんは、戦後民主主義教育を受けたことを誇り
に
思うと書く一方、同じ時代に戦後民主教育をうけた当時の皇太子に、期待を表明して
い
た。私も戦後教育の時代に皇族としての教育を受けた現在の天皇が、一定の時代の影
響
を受けていると考える。一連の天皇一家の行動の基盤に、天皇制や抽象的天皇家概念
で
は把握できない特質があると考える。
以上、私は一般的な天皇家ではなく、平成のいまの天皇家に、しかも人物を限定し
具
体的な言動に即してのみ、期待をもっている。だから、秋篠宮やその家族の言動に
は、
親近感は感じていないし、彼らの伝統的天皇観にもとづく数々の発言は支持しがた
い。
住井すゑさんは、生涯を天皇制と部落差別との闘いに取り組んできた。戦時中に
は、
天皇制を支持する発言があったことも研究者によって暴露されているが、弾圧の吹き
荒
れた時代の言動を住井さんの本質とは思わない。住井さんは、「天皇制と部落差別は
一
対のもの」と発言している。東本高志氏は、住井すゑさんを通俗作家とみなしてい
る。
文学観は個人の主観であろう。私は、戦後一貫して差別を批判し続けて、天皇制の問
題
が日本にとり、不幸な課題であることを、大衆的にわかりやすい表現で小説化して、
さ
らに雑誌やラジオなどで部落差別の非民主的性を弾劾し続けた。
住井すゑさんは、天皇制は戦前に天皇家に膨大な権力を集中させ、それは「特権」
の
権化と述べた。確かに軍隊の統帥権さえもっていた天皇制のもとでの「特権」は、戦
後
もかたちを変えて、受け継がれた。住井さんは、「特権」に対比させて「人権」を強
調
した。
天皇制の廃止こそ、特権を廃止して、すべての国民に基本的人権を保障する重大な
措
置である。現在、天皇家の成員自体が、「基本的人権」の保障をされていない。「特
権」
を保障されているかのようにも思えるが、人権も自由権も認められているのだろか?
天皇制の保持は、国家権力の膨大なコントロールを手中に収めたいと考える黒幕の
代
役としての宮内庁官僚や民族主義イデオローグらの支配のもとにある。
戦後改革を不完全なまま終えた日本は、平和主義と基本的人権の画期的保障のある
憲
法を、国民的運動によって支えてきた。そのようななかで、天皇制廃止と天皇家賞賛
を
主張する私の本意は、現在の日本国憲法を擁護するとともに、将来的な天皇制廃止
は、
天皇家に特権ではなく基本的人権を保障することがなければ、成立しがたいという考
え
である。現在のように、天皇家の人々が過剰なストレスによってあいついで健康を害
し
ている事実をどのようにとらえるか。特権ある天皇家だからよいか?皇太子ご夫妻
が、
夫婦としてのごく当然の要求さえマスコミにさらされ続けていることに、それは当然
の
報いと応えるのがふさわしいだろうか?
私はそうは思わない。天皇制の廃止は、そこにいたるまでに、天皇家の人々が基本
的
な人権が保障され、国民と等しく幸福に生きる権利のもとで、生活することが続くな
か
でなければ、天皇制廃止など認めるわけにはいかないと考えるだろう。現在の象徴天
皇
制のなかで、天皇制が再び危険な軍国主義イデオロギーのシンボルとしてあがめたて
ま
つられる前に、軍国主義国家の統合的シンボルとしてではなく、戦後改革の完成とし
て
の位置づけを保障されるためには、まず宮内庁などの不当な天皇家コントロールを批
判
し、天皇家の成員の民主的言動を支持しつつ、危険な方向にあがめたてる一部の軍国
主
義者を批判し続ける必要がある。端的に言えば、天皇家の基本的人権擁護の方向で、
天
皇家の問題に対応しつつ、現在の憲法を遵守し、その民主的要素を根底的に擁護し続
け
ることが大切である。この国に巣くう厖大な官僚的ピラミッド体系は、天皇制システ
ム
と連動すれば、手に負えない支配体系となって国民を徹底的に抑圧する。その頂点に
位
置づけられようとしている天皇家そのものを、「特権」から「人権」のもとへと解放
する
ことが、今後の厳しい政治的激動においても重要な要素となろう。
部落差別をはじめ厳しい差別は、天皇制の存続があるかぎり、たやすく国民的融和
が
完成するとは思えない。二十歳前後に、私はフォークシンガーの岡林信康が、「ヘラ
イ
デ」や「クソクラエ節」で天皇家を批判するうたを受容的に受け止めていた。日本人
の
精神構造に、天皇制の問題はそうとうな困難な課題とも思っている。大逆事件、関東
大
震災後の朝鮮人虐殺、第二次世界大戦の戦争責任のこと、たやすく天皇家を賛美すれ
ば、
容易に搦め手から足下からすくわれる。そのような難しさを承知の上で、どのように
天皇家のプライバシーと天皇制の問題を考えていけばよいのか、歴史的課題に立脚し
て
考えていきたい。
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