2022年05月02日

ウクライナ情勢分析:学者の論考と元軍事情報将校の解説

宇山智彦さんの論考はバイアスの危険性が一般にあることについての警鐘としては理解できますが、ウクライナの危険性についての認識が不十分であると感じます。

なぜプーチン政権の危険性は軽視されてきたのか
−国際情勢分析と認知バイアス−
宇山 智彦(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
https://src-h.slav.hokudai.ac.jp/center/essay/PDF/20220413.pdf

宇山さんの意見で気になったところを3つだけ指摘しておきたいと思います。

宇山さんの意見その1「確かに、米欧諸国がロシアの縄張り意識・帝国意識の根深さ・扱いにくさを十分認識していたのか、それを考慮したうえでロシアに対する最適な政策をとれていたのかは、検討する余地があろう。」

ウクライナの平和主義者ユーリー・シェリアジェンコ氏の言葉*1を借りれば、「大国は暴力文化によって競争し、覇権的支配権/統治権の間で合意を行わないという残酷な非人間的合意により、核を発射しないかもしれない程度の損害で互いに対する限定的な殴り合いで利益を得ている」のであって、宇山さんがロシアの誤りを正すという米欧諸国の方針を是認しているのだとすれば、かなりの的外れです。日本記者クラブの「ウクライナ」シリーズレクチャーの講師陣に見られる傲慢さ*2と同じでしょうか。この際必要なのは、米国を含む全当事者が反省をしての包括的な和平交渉*3です。今現在の米欧諸国のままでは解決できません。

*1 平和主義者ユーリー・シェリアジェンコ氏の目を通したウクライナ(ネオナチ、プロパガンダ、ロシア人憎悪全体主義、戦争犯罪調査など)
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/487462119.html
*2 日本記者クラブの「ウクライナ」シリーズレクチャーの危うさ
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/486245987.html
*3 ウクライナのユーリー・シェリアジェンコ氏:すべての側が戦争を煽ってきた。包括的な和平交渉だけが戦争を終わらせることができる(2022年3月22日付デモクラシー・ナウ!)
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/486314475.html

宇山さんの意見その2「しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、特定の政権やその行為に向けられた米欧の軍事介入と異なり、実質的な領土拡張や相手国の恒久的な属国化を狙っているという意味でより悪質である。」

軍事介入の悪質さを比較(相対化)してどうするのでしょうか。イラク全体をめちゃくちゃにしたのが米国で、確率論的に米国は今後もどこかで永続的に戦争を仕掛けます。

宇山さんの意見その3「他方で心配なのは、ロシアによる侵略に米欧日が団結して対抗するのは当然だとしても、それによって米欧中心主義が再び強まってしまわないかということである。ロシアの米欧に対する不満は、ロシアが世界において特別な権利を持つべきなのに持たせてくれないという身勝手なものであるが、世界には米欧から軍事介入や差別を受けてきたことに不満を持つ国々や人々が少なからず存在し、そのことが国際秩序の不安定要因ともなってきた。米欧や日本は常に正しく善であるというのもまた確証バイアスである。米欧への批判的な目を、ロシアの正当化のためではなく、中小国の権利と安全がよりよく保障される国際秩序の構築のために使っていきたいものである。」

米欧日は平和実現のために動いているのではありません。火に油を注いでいるだけです。おそらく単純な「敵の敵は味方」という純軍事的な皮算用的期待があるのでしょう。

「ロシアの正当化」というありもしない目的を持ち出しています。これがこの間、多くの方にとっての神話となっています。なぜこうした神話を創り出すのか、不思議に思ってきました。

現段階での私の仮説は、人が正邪を判別するのが自然であると思われる対象(ロシア、ウクライナ、米国)が関与する事象(ロシアによる侵攻、ドンバス内戦におけるウクライナ側による攻撃、米国による挑発)について何らかの主張をする場合、同時に憎悪や怒りを伴うことが人間として自然であるから、自分(宇山さん)が感じている憎悪や怒りを自分が邪と思う対象に向けないような主張をする他人は、当該の邪対象を正当化する論を行っているのだろう、ということです。だとすると単純というほかありません。

ウクライナ反戦運動で掲げるべき目標は少なくとも3つ、すなわちロシア軍の撤退(ロシアも不当)、ドンバス内戦の終結(ウクライナも不当)、ウクライナ戦争を利用した東アジアへの戦争拡大の予防(米国も不当)、があります。ウクライナ反戦運動は正邪を判別する評論ではなく、ウクライナ危機を「解決」するための運動であって、米欧への批判はこれら3目標を達成する形での停戦交渉を実現させ、ウクライナ危機を「解決」するために欠かせないものです。

次に、ジャック・ボー氏によるウクライナ情勢の解説をご紹介します。全文を読まれることをお勧めします。

スイスの元軍事情報将校「ウクライナで何が行われ、何が起こっているのかを実際に知ることは可能なのか?」|Kfirfas|note
https://note.com/14550/n/ne8ba598e93c0

<この民兵はMirotvoretsというウェブサイトに関連しており、「ウクライナの敵」を個人情報、住所、電話番号とともにリストアップし、嫌がらせや抹殺ができるようにしている。この行為は多くの国で罰せられるが、ウクライナではそうではない。国連といくつかのヨーロッパ諸国はこのサイトの閉鎖を要求したが、Rada(ウクライナ議会)はこの要求を拒否した。>

常識的な人間が十分な情報に基づいてウクライナを評価すれば、ウクライナという国も既に相当異常です。そう思えないなら、それこそバイアスがかかっています。

ウクライナ危機はまさに「どっちもどっち」で見なければ解決できないでしょう。


太田光征
posted by 風の人 at 23:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | ウクライナ危機

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