2022年04月01日

日本記者クラブの「ウクライナ」シリーズレクチャーの危うさ

停戦を追求する気ゼロで、ウクライナ人に武力抵抗を続けさせるためのレクチャー。誰も記者が突っ込まない。恐ろしい。


「ウクライナ」(1) 廣瀬陽子・慶応義塾大学教授 2022.3.2
https://www.youtube.com/watch?v=4dvxbRZRdgc

廣瀬陽子さんは、「異常ともいえる西側への恨み」が今回のプーチン戦争の大きな背景とみています。21年に米国がアフガニスタンから撤退した後、ロシアがウクライナはアフガンのように見捨てられるとの「プロパンガンダ」を行ったとの見立てを示しまた。ウクライナも欧米とロシアの代理戦争であるとの位置付けをした上で、「専制国家と民主国家」の二局分化なのだといいます。そして結論として「世界が一丸となってロシアと闘う必要」を説きます。

ロシアを力で押さえ付けようという思想で貫かれていることが分かります。これは大変危険な考え方であり、今回の悲劇を生んだ背景でしょう。ウクライナを民主国家と呼ぶことには無理があります。マイダン革命による親露派ヤヌコーヴィチ大統領の放逐とその後に続く親ロシア派住民の虐殺(オデッサの悲劇)だけではありません。これら事件を公正に捜査しない法執行機関の問題などが、国連文書*1に記録されています。ロシア憎しゆえと思われる共産党非合法化*2やロシア語圧殺の2019年言語法*3なども問題です。


*1 ウクライナ危機:国連文書に記録されたドンバス内戦での人権侵害
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/486112824.html
*2 ウクライナ:共産党非合法化 言論の自由に大打撃 : アムネスティ日本 AMNESTY
https://www.amnesty.or.jp/news/2015/1225_5778.html
*3 直言(2022年3月21日)「大本営発表」はロシアだけではない──メディアが伝えないウクライナの「不都合な真実」
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2022/0321.html

質疑応答で民間軍事会社の質問が出ても、表情ひとつ変えずに分からないとの回答でした。長期泥沼化の悲惨なイメージが浮かばないのでしょうか。


「ウクライナ」(2) 小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師 2022.3.9
https://www.youtube.com/watch?v=r0a3s5Y50yo

小泉悠さんは質疑応答で記者から「日本市民としてこの事態を変えるためにできることは」と問われ、「米国でさえできないのに我々が何か簡単にできると思わない方がいいと思いますが」と回答しているように、国家主体でしか安全保障や平和を考えられないようです。国民の名で世界の全人民の平和的生存権などの理念を全力で達成すると誓った日本国憲法の精神には関心がないのでしょう。

ウクライナによる応戦を引き延ばすべきであると言っており、即時停戦を実現する立場には立っていません。米国の関与についての質問には、「ゲリラ戦トレーニングはやっているかもしれない。やるとすれば国外のNATO加盟国内。現地に入っているかもしれない。情報収集目的か」と回答しており、この方も長期泥沼化の懸念と要因について無頓着です。


「ウクライナ」(3) 角茂樹・元駐ウクライナ大使 2022.3.10
https://www.youtube.com/watch?v=e-rcYZPFM1c
https://youtu.be/e-rcYZPFM1c?t=4372

角茂樹さんはスクリーンに映し出された資料の冒頭で「欧州と米国は、ロシアに民主主義と市場経済を根付かせることに失敗。」と記していますが、こうした傲慢な姿勢はロシアの反発を招き、世界を危険に陥れるだけです。

角さんは2014年10月から2019年1月まで駐ウクライナ大使を務めたということなので、マイダン革命の最初期にはウクライナにいなかったのかもしれませんが、ドンバス内戦は目撃していたはずです。平和憲法を持つ日本の外交官としてドンバス内戦を終結させるためにどのような努力をしたのでしょうか。

努力どころか、アゾフ大隊(現連隊)を創設したアンドリー・ビレツキーと並んだ写真を示しながら、アゾフの兄ちゃんと酒を呑んだとあっけらかんに語っています。大丈夫でしょうか。

2022年3月25日付インディペンデント紙は、2014年8月11付テレグラフ紙から引用する形で、ビレツキーについて、<支持者から「ベリ・ヴォズド(Bely Vozd、白の支配者)」と呼ばれるビレツキー氏は、次のように書いている。「この危機的状況におけるわが国の歴史的使命は、世界の白色人種をその生存のための最後の聖戦に導くことである。セム系主導の劣等人種に対する十字軍である。」>と書いています。

Who are Ukraine’s neo-Nazi Azov Battalion? | The Independent
https://www.independent.co.uk/news/world/europe/ukraine-azov-battalion-mariupol-neo-nazis-b2043022.html

日本はウクライナに多額の援助をしています。援助の条件として極右民族主義の抑止を要求してしかるべきだったでしょう。


「ウクライナ」(4) 小谷哲男・明海大学教授 2022.3.14
https://www.youtube.com/watch?v=GhNRM31uwJU

小谷哲男さんは米軍のインド太平洋戦略予算の増額を期待していますが、これは日本の隣国を米軍に軍事威嚇してほしいという考え方であり、大変危険です。また米国の核の傘にいる日本は安心とも言っています。こうした期待は幻想に過ぎません。

質疑で民間軍事会社について聞かれると、情報は持っていないと答えています。国家何とか戦略の文書やバイデンの論文など、国家や権力者のサイドの情報だけで安全保障を語ることはできません。今後の停戦に向けては、ゼレンスキーが制御できない武装勢力を考慮に入れる必要があるはずですが、そうした視点を持っているのか心許ないものがあります。

ドンバス内戦でロシア側が主張しているジェノサイドについては、証拠がないとの見解です。米国はイラク戦争で情報開示の努力をしていたと評価する一方で、ロシアは努力していないと批判。ドンバス内戦における双方の人権侵害については、国連人権高等弁務官事務所、アムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチの文書に記録されています。記者が突っ込まないことも問題です。

小谷さんは、ゼレンスキー政権を維持させて抵抗させるのが米国の狙いだとみています。これを是認しているのでしょうか。即時の停戦を考えているふうではありません。


太田光征
posted by 風の人 at 01:34 | Comment(0) | ウクライナ危機