ロシア語話者が多いウクライナ東部のドンバス地域で2014年から内戦が行われています。そこでの人権侵害に関する国連報告書があると聞いていて調べなければと思っていたところ、水島朝穂さんが一部、調べてくれました。調べるといってもGoogleで検索するだけなので、すぐに調べられるのですが。
直言(2022年3月21日)「大本営発表」はロシアだけではない──メディアが伝えないウクライナの「不都合な真実」
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2022/0321.html幾つかの年度にわたって複数の報告書があるのですが、既に仮邦訳のある版もあります。下記の(1)について、日本の公安調査庁もウクライナのネオナチと認定しているアゾフ連隊(大隊から昇格したらしい)に言及のある段落の機械翻訳を、(2)についてざっと見て人権侵害に言及された段落(親ロシアのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領を放逐した14年のユーロマイダン革命とオデッサの悲劇などのカ所)を抜粋してご紹介します。
ウクライナ政府および極右民兵組織と(親)ロシア側の双方が攻撃し合っているので、双方に被害があるのは当然です。双方における人権侵害を止めさせる必要があるので、ウクライナ側だけでなく、ロシア側の主張も考慮しなければなりません。今回のロシアによる大規模侵攻の有無に関係なく、ドンバス内戦は続くと思われるので、安全保障の枠組みの立て直しが必ず必要となります。
今回の22年戦争でも報道でクラスター爆弾の使用が取りざたされていますが、報告書(1)では両陣営が「クラスター爆弾や地雷など本質的に無差別な武器」を使用したとの記述があります。
(1)国連人権高等弁務官事務所の「ウクライナの人権状況に関する報告(2015年11月16日〜2016年2月15日)」
Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights Report on the human rights situation in Ukraine 16 November 2015 to 15 February 2016
https://www.ohchr.org/sites/default/files/Documents/Countries/UA/Ukraine_13th_HRMMU_Report_3March2016.pdf(2)ウクライナ人権報告書 2016 年版
https://www.moj.go.jp/isa/content/930003983.pdf2017 年 9 月国別政策及び情報ノート(ウクライナ:クリミア、ドネツク、ルハンスク)
https://www.moj.go.jp/isa/content/930006247.pdf2015年9月ウクライナ情勢に関連する国際保護の必要性について−更新 III
https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/International_Protection_Considerations_related_to_developments_in_Ukraine_UpdateIII_JPN.pdf2016年8月国別情報及び指針(ウクライナ保護主体及び国内移住を含む基礎情報)
https://www.moj.go.jp/isa/content/930006246.pdf*
(1)国連人権高等弁務官事務所の「ウクライナの人権状況に関する報告(2015年11月16日〜2016年2月15日)」
Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights Report on the human rights situation in Ukraine 16 November 2015 to 15 February 2016
https://www.ohchr.org/sites/default/files/Documents/Countries/UA/Ukraine_13th_HRMMU_Report_3March2016.pdf25. Ukrainian armed forces and armed groups maintained their positions and furtherembedded their weapons and forces in populated areas, in violation of their obligationsunder international humanitarian law14. In Shyrokyne, a key location in the ‘grey zone’between the Government-controlled city of Mariupol and the town of Novoazovskcontrolled by the armed groups, OHCHR documented extensive use of civilian buildingsand locations by the Ukrainian military and the Azov regiment, and looting of civilianproperty, leading to displacement15. Prima facie civilian buildings in Donetsk city, such asresidential buildings, a shelter for homeless people16, and a former art gallery17, continuedto be used by armed groups, thereby endangering civilians. In the village of Kominternove,Donetsk region, residents reported that members of the armed groups of the ‘Donetskpeople’s republic’ took over abandoned houses18. In January and February 2016, hostilitiesbetween the armed groups stationed in Kominternove and Ukrainian armed forces stationedin the nearby village of Vodiane19 have endangered the local population20
25. ウクライナ軍と武装集団は、国際人道法の義務に反して、人口密集地に陣地を維持し、さらに武器と部隊を埋め込んだ14。政府支配のマリウポリ市と武装集団が支配するノボアゾフスク市の間の「グレーゾーン」の重要な場所であるシロキンで、OHCHRはウクライナ軍とアゾフ連隊による民間建物と場所の広範囲な使用と民間財産の略奪を記録し、移転につなげた15。ドネツク市では、住宅、ホームレスのためのシェルター16、元アートギャラリー17など、一見したところ民間の建物が武装集団に使用され続け、それによって市民が危険にさらされている。ドネツク州コミンテルノベ村では、「ドネツク人民共和国」の武装集団のメンバーが廃屋を占拠したと住民が報告している18。2016年1月と2月には、Kominternoveに駐留する武装集団と、近くのVodiane村に駐留するウクライナ軍との間の敵対行為19が、地元住民を危険にさらしました20。
61. Ukrainian servicemen captured by the ‘Donetsk people’s republic’ continued to bedetained in poor conditions and subjected to ill-treatment. One soldier, who was visited bya relative, had dark spots on his skin, possibly due to beatings and burning. Another soldier,a member of the Azov regiment who was captured in Shyrokyne in February 2015 wassubjected to electric shock and his teeth were pulled out57. OHCHR is concerned about allegations that captured soldiers have been detained in crowded cells with up to 22 peopleand subjected to physical violence in the former SBU building on Shchorsa Street, as wellas in the building currently used by the ‘ministry of state security’ at 26 ShevchenkoBoulevard in Donetsk city58. During the reporting period OHCHR has been denied accessto detention facilities in Donetsk.
61. ドネツク人民共和国」に捕らえられたウクライナの軍人は、劣悪な環境で寝かされ、不当な扱いを受け続けていた。親族の訪問を受けたある兵士の皮膚には、殴打や火傷によるものと思われる黒い斑点があった。また、2015年2月にシロキンで捕らえられたアゾフ連隊の兵士は、電気ショックを受け、歯を抜かれた57。OHCHRは、捕虜となった兵士が、シチョルサ通りの旧SBUの建物や、ドネツク市のシェフチェンコ大通り26番地の「国家安全保障省」が現在使用している建物で、最大22人の混雑した独房に収容され、身体的暴力を受けているという疑いに懸念している58。報告期間中、OHCHRはドネツクの拘置所への立ち入りを拒否された。
103. On 23 December, OHCHR met with four detainees held in Mariupol SIZO for theiralleged involvement in the 9 May events. They complained that they had been ill-treated bySBU officials and members of the Azov regiment in Mariupol, detained incommunicado forsome time in September 2014, and that evidence extracted through torture was being usedin their trial. They added that they had been denied medical assistance for the injuries sustained through torture, and had ineffective legal representation. Of grave concern is theallegation that the accused suffered reprisals in the form of threats, intimidation and ill-treatment by the SBU after they challenged the admissibility of evidence in court.
103. 12月23日、OHCHRは5月9日の事件への関与の疑いでマリウポリSIZOに拘束された4人の被拘束者と面会した。彼らは、マリウポルのSBU職員とアゾフ連隊の隊員から虐待を受け、2014年9月にしばらく隔離され、拷問によって引き出された証拠が彼らの裁判に使用されていると訴えた。さらに、彼らは拷問によって負った傷のために医療支援を拒否され、効果的でない法的代理人を持っていた。深刻な懸念は、被告人が法廷で証拠の許容性に異議を唱えた後、SBUによって脅迫、威嚇、虐待の形で報復を受けたという報告である。
161. Another major concern is the ongoing presence of military forces in civilian areasand indiscriminate shelling continue to be the main factors endangering civilians, andaffects their ability to access housing, land and property. During the reporting period,OHCHR collected detailed information about the conduct of hostilities by Ukrainian armedforces and the Azov regiment in and around Shyrokyne (31km east of Mariupol), from thesummer of 2014 to date. Mass looting of civilian homes was documented, as well astargeting of civilian areas between September 2014 and February 2015. Residents displacedto Mariupol have received little assistance and information about the status of their homes.Unable to return but for short periods of time to examine the damage, IDPs from Shyrokyneexchange video footage and photographs to try to track the condition of their homes.
161. もう一つの大きな懸念は、民間地域に軍が駐留し続け、無差別砲撃が民間人を危険にさらし、住宅、土地、財産へのアクセス能力に影響を与える主な要因となっていることである。報告期間中、OHCHRは2014年夏から今日まで、シロキーン(マリウポルの東31km)周辺におけるウクライナ武装勢力とアゾフ連隊による敵対行為の実施について詳細な情報を収集した。2014年9月から2015年2月にかけて、民間人の家屋に対する大量の略奪や、民間人地域に対する非標的化が記録された。マリウポリに避難した住民は、ほとんど支援や自宅の状況に関する情報を受け取っていない。被害を調べるために短期間しか戻ることができないため、シロキネのIDPはビデオ映像や写真を交換し、自宅の状況を把握しようと試みている。
(2)ウクライナ人権報告書 2016 年版
https://www.moj.go.jp/isa/content/930003983.pdf政府は人権侵害行為を犯した政府職員を起訴又は処罰するために必要な措置をほとんど講じなかったため、刑事免責の風潮がまん延する結果となった。人権団体と国連は、政府の治安部隊が犯した人権侵害、特に、ウクライナ保安庁(SBU:Security Service of Ukraine)が行ったと伝えられている拷問、強制失踪、恣意的勾留その他の虐待行為の訴えに関する捜査において重大な欠陥があると語った。2014 年に首都キエフ(Kyiv)で起きたユーロマイダン(Euromaidan:欧州広場の意)発砲事件やオデッサ(Odesa)での暴動事件における加害者は未だに責任を問われていない。
法執行機関は、2013~14 年にキエフでユーロマイダン抗議行動が展開されている間に行われた殺人その他の犯罪に関する捜査を継続した。人権団体は相当な量の証拠が挙がっているにもかかわらず、有罪判決の数が低く抑えられている状況を批判した。また、人権団体は、これらの犯罪に関与していると考えられる政府指導者を捜査するための措置をほとんど講じない一方で、下級役人のみに焦点を当てている検察官を非難した。検事総長室によると、[2016 年]11 月中旬現在、ユーロマイダン関連犯罪で 45 人が裁判所により有罪判決を下され、152 人が公判中であり、190 人が取り調べを受けている。
また、法執行機関は 2014 年にオデッサで発生し、48 人(政府支持者 6 人と地域の自治権拡大支持者 42 人)が死亡した事件の捜査を継続している。自治権拡大を支持した 42 人は労働組合ビル(Trade Union Building)の火災で死亡した。しかし、当局は自治権拡大を求めた人々の犯罪容疑に捜査の重点を置いたため、この火災による死亡事故をほとんど調査しなかった。2015 年に公表された欧州理事会(Council of Europe)報告書により、政府の捜査は独立性を欠いており、検事総長室と内務省(Ministry of Internal Affairs)は組織間でよく調整し合った徹底的な捜査を行わなかったことが明らかになった。
HRMMU は、ドネツク州とルハンスク州の政府支配地域で行われている大量検挙について懸念を表明した。両州には「テロリズムとの闘いに関する法律(Law on CombattingTerrorism)」が適用されている。この法律により、当局は刑事訴訟法の下で認められる証拠よりも低い水準の証拠に基づき逮捕することができるため、これが恣意的な逮捕につながる場合がある。たとえば、HRMMU は[2016 年]3 月付報告書の中で、 2015 年 12 月にドネツク州のクラスノホリフカ(Krasnohorivka)とアブディイフカ(Avdiivka)で行われた SBU の急襲事件を取り上げている。 この急襲で当局は数百人に上る人々を数時間勾留し、武装集団への関与疑惑について尋問した。その後、当局は大半の被勾留者を釈放した。
[2016 年]9 月 15 日現在、HRMMU は戦闘により少なくとも市民、政府軍兵士、武装集団メンバーを含む 9,578 人が死亡したと報告した。 この人数には、2014 年にドンバス地域上空を飛行中に撃墜されたマレーシア航空 MH-17 便に搭乗していた乗客・乗員 298 人が含まれている。この他、紛争勃発以来、300 万人以上の住民がロシアの支援を受けた分離主義勢力が支配するドネツク州及びルハンスク州内の地域を去っていった。[2016 年]11 月 15 日現在、社会政策省(Ministry of Social Policy)は 170 万人の IDP を登録しているが、実際の人数はこれより少ないと市民社会団体は考えている。UNHCR によると、他国にはおよそ 140 万人のウクライナ難民がいた(ロシア連邦に在留するおよそ 100 万人の難民を含む)。
殺害:HRMMU は、ウクライナ東部における紛争を背景として行われている「超法規的、略式的又は恣意的な処刑」に関する[2016 年]5 月 4 日付特別報告書の中で、両陣営が「クラスター爆弾や地雷など本質的に無差別な武器」を用いていることについて強い懸念を表明した。HRMMU は[2016 年]9 月付報告書の中で、両陣営が「居住地域から攻撃を仕掛ける戦いに広く従事しているため、市民は相手陣営からの反撃により被害を受けている」と伝えた。たとえば、[2016 年]8 月 24 日、ドネツク州内の政府支配地域で、ロシアの支援を受けた分離主義勢力が Zolote-4 の村落をめがけて砲撃した際、同村落に住む女性がベッドに入った状態のまま死亡した。
太田光征