分析手法として、野党(立民、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党、国民民主党、希望の党)候補の組み合わせに基づいて、簡易分類(立憲野党から立民のみ、立民とその他の立憲野党、立民以外の立憲野党)と詳細分類の2分類でパターン分けし、パターン間で比例区得票率を比較します。
2つの比較を行います。1つ目として、立民の立候補の有無の違いが同党と立憲野党全体の比例区得票率に及ぼす影響をみます。立民は選挙区によって「基礎力」の差が大きいので、各パターンの比例区得票率のデータを立憲野党全体の得票率が高い順に並べ、立民の立候補の有無が上下で連続しているパターン同士を比較します。2つ目として、立憲野党全体について、各都府県別・パターン別に比例区得票率の平均得票率からの乖離度を求め、乖離度を4都府県全体で単独候補・複数候補別に集計・平均化して比較します。
【結果の要旨】
・立民は、小選挙区が「立民以外の立憲野党」のパターンより「立民とその他の立憲野党」のパターンで、共産・れいわ・社民の比例区得票率の減少分を差し引いて比例区得票率を最大3.3ポイント程度増やしているが(神奈川は例外)、同党の「基礎力」の変動範囲(2.1〜5.2ポイント)に収まる程度であり、比例区票の積み増し効果はありそうにない。
・立憲野党(17年:立民・共産・社民、21年:立民・共産・れいわ・社民)全体の比例区得票率の平均得票率からの乖離度がプラスとなる例は、17年が単独候補の場合で平均1.9ポイント、複数候補の場合で平均2.4ポイント、21年が単独候補の場合で平均1.8ポイント、複数候補の場合で平均2.0ポイントとなった。積み増し効果はあったとしても最大で0.5ポイント程度しかない。
・共産は比例区得票率のパターン間でのばらつきが最も少ない。
・共産と社民は、一方の比例区票が増えれば他方が減るトレードオフ関係にある。
【目次】
1.千葉
17年の簡易分類の場合、「立民・希望」(3選挙区)、「立民・共産・希望」(3選挙区)、「共産・社民・希望/共産・無所属/共産・希望」(7選挙区)の3パターンのラインはかなり重なります。立民はパターン「共産・社民・希望/共産・無所属/共産・希望」よりパターン「立民・共産・希望」で比例区得票率を3ポイント増やしていますが、この増加分は希望の2.4ポイント減、社民の0.2ポイント減の総和に匹敵します。
17年の詳細分類の場合、5パターンの得票率の開きがかなり大きくなります。これは、パターン「共産・無所属」(1選挙区)の4区(野田佳彦議員)という民主党系の極めて強い選挙区、パターン「共産・社民・希望」(1選挙区)の12区(14年は民主から立候補がない。17年は立民から立候補がなく希望が立候補)という民主党系の基盤が弱い選挙区、8区(14年は民主から立候補がなく維新が立候補)および11区(14年は民主から立候補がなく生活の党が立候補。17年は立民から立候補がなく希望が立候補)という民主党系の基盤が弱い選挙区を含むパターン「共産・希望」(5選挙区)を独立したパターンとして立てたことによるものです。パターン「立民・希望」はパターン「共産・希望」と比べて、立民が比例区得票率を3.3ポイント、立憲3野党が3.5ポイント増やしていますが、自公維は0.1ポイントしか減らしておらず、立憲野党の増加分はほぼ希望の3.3ポイント減によるものです。
21年の簡易分類の場合、「立民」(8選挙区)、「立民・共産/立民・国民」(3選挙区)、「共産・無所属/共産・れいわ」(2選挙区)の3パターンのラインはかなり重なります。パターン「立民・共産/立民・国民」はパターン「共産・無所属/共産・れいわ」と比べて、立民が比例区得票率を3.4ポイント増やしていますが、同時に共産が0.9ポイント、れいわが1.2ポイント減らしているので、立民の増加分は共産とれいわから移動したと思われる分を除けば1.3ポイント程度にすぎません。実際、立憲4野党全体では0.9ポイント増でした。
21年の詳細分類の場合、5パターンの開きがやや見られます。立民の比例区得票率が低いパターンは、明らかに民主党系の基盤が弱いところです。これらは、パターン「立民・共産」(2選挙区)の2区(14年は民主から立候補がなく維新が立候補。17年は立民から立候補があった)と12区(前述)の2例、パターン「共産・れいわ」(1選挙区)の11区(前述)などです。立民はパターン「立民」とパターン「立民・共産」の間でも比例区得票率に4ポイント以上の差があるため、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。立民はパターン「共産・れいわ」よりパターン「立民・国民」で比例区得票率を3.3ポイント増やしていますが、同時に共産が0.6ポイント、れいわが2.3ポイント減らしているので、立民の増加分はほとんど共産・れいわの減少分に等しくなっています。実際、立憲4野党全体の増加分は0.2ポイントでした。ただ、パターン「立民・国民」は5区の1選挙区だけであり、統計的な信頼性が低いかもしれません。
2.東京
17年の簡易分類の場合、「立民・希望」(7選挙区)、「立民・共産/立民・共産・希望」(9選挙区)、「共産/共産・希望/社民・希望」(9選挙区)の3パターンのラインはかなり重なります。パターン「立民・共産/立民・共産・希望」はパターン「共産/共産・希望/社民・希望」と比べ、立民も立憲3野党も比例区得票率を2.5ポイント増やしていますが、自公維は1.1ポイントしか減らしておらず、立民の増加分は希望の1.2ポイント減と社民の0.1ポイント減を除けば1.2ポイント程度となります。
17年の詳細分類の場合も、6パターンのラインはかなり重なります。パターン「立民・希望」はパターン「社民・希望」と比べて、立民が比例区得票率を2.2ポイント増やしていますが、同時に共産が0.8ポイント、社民が1ポイント減らしているので、立民の増加分は共産・社民から移動したと思われる分を除けば0.4ポイント程度にすぎません。実際、立憲3野党全体では0.5ポイントしか増えていません。ただ、パターン「社民・希望」は1選挙区しかないので、統計的な信頼性が低いかもしれません。立民はパターン「立民・共産・希望」とパターン「立民・共産」の間で比例区得票率に5.2ポイントの差があるため、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。
立民の比例区得票率が低いパターンは民主党系の基盤が弱いところです。これらには、パターン「希望・共産」(7選挙区)のうちの9区・15区・17区(いずれも14年は民主から立候補がなく維新が立候補)、パターン「共産」(1選挙区)の12区(14年は民主から立候補がなく生活の党が立候補)が含まれます。
21年の簡易分類の場合、「立民」(14選挙区)、「立民・共産/立民・れいわ」(6選挙区)、「共産/共産・国民/共産・社民・国民」(5選挙区)の3パターンのラインはほぼ重なります。
21年の詳細分類の場合、6パターンのラインはやや開きが見られます。ただ、21年も立民の比例区得票率が低いパターンは民主党系の基盤が弱いところです。これらには、パターン「共産・国民」(1選挙区)の17区(14年は民主から立候補がなく維新が立候補。17年は立民から立候補がなく希望・共産が立候補)、パターン「共産」(3選挙区)のうちの12区(14年は民主から立候補がなく共産・生活が立候補。17年は民主から立候補がなく共産が立候補)および20区(17年は立民から立候補がなく希望・共産が立候補)が含まれます。立民はパターン「立民・れいわ」とパターン「立民・共産」の間で比例区得票率に2.1ポイントの開きがあるので、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。
隣り合うパターンを比較してみます。パターン「立民・共産」は1つ下のパターン「共産・社民・国民」と比べて、立民が0.6ポイントのみ、立憲4野党全体が0.5ポイントしか比例区得票率を増やしていません。ただ、パターン「共産・社民・国民」は1選挙区しかないので、統計的な信頼性が低いかもしれません。そこでパターン「立民・共産」を2つ下のパターン「共産」と比較すると、立民は比例区得票率を2.9ポイント増やしていますが、同時に共産が1.8ポイント、社民が0.2ポイント減らしているので、立民の増加分は共産・社民から移動したと思われる分を除けば、1ポイント程度にすぎません。実際、立憲4野党全体では1.3ポイント増でした。
3.神奈川
17年の簡易分類の場合、「立民・希望/立民・維新」(5選挙区)、「立民・共産・希望」(1選挙区、2区)、「共産・希望/社民・希望」(12選挙区、3、9、17、10、11、15区など)の3パターンのラインはやや開きが見られます。パターン「立民・共産・希望」はパターン「共産・希望/共産・無所属/社民・希望」と比べ、立民が1.4ポイント、立憲3野党が1.8ポイントしか比例区得票率を増やしていません。立民はパターン「立民・希望/立民・維新」とパターン「立民・共産・希望」の間で比例区得票率に4ポイントの差があるため、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。なお、横浜市都筑区は2つの小選挙区とパターンにまたがっていますが、比例区票が小選挙区別に公表されていないため、同区のデータは集計に使用していません。
17年の詳細分類の場合、6パターンのラインはやや開きが見られます。立民の比例区得票率が低いパターンは明らかに民主党系の基盤が弱いところです。これらには、パターン「立民・希望・共産」の2区(菅義偉議員の選挙区。14年は民主から立候補がなく生活の党が立候補)、パターン「社民・希望」の15区(河野太郎議員の選挙区。14年は民主から立候補がなく共産が立候補)、10選挙区あるパターン「希望・共産」のうちの5区(14年は民主から立候補がなく維新が立候補)、11区(小泉進次郎議員の選挙区。14年は民主から立候補がなく共産が立候補)、13区(甘利明氏の選挙区。14年は民主から立候補がなく維新が立候補)、18区(14年は民主から立候補がなく維新が立候補)が含まれます。立民はパターン「立民・希望」とパターン「立民・希望・共産」の間で比例区得票率に4ポイント以上の差があるため、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。パターン「立民・希望・共産」はパターン「社民・希望」と比べて、立民が0.8ポイント、立憲3野党が0.3ポイントしか比例区得票率を増やしていません。またパターン「立民・希望」はパターン「共産・無所属と比べて、立民が0.3ポイント、立憲3野党が1.2ポイントしか比例区得票率を増やしていません。
21年の簡易分類の場合、「立民」(12選挙区)、「立民・共産」(3選挙区)(3、9、17区)、「共産/社民/共産・国民」(3選挙区)(10、11、15区)の3パターンのラインはやや開きが見られます。パターン「立民・共産」はパターン「共産/社民/共産・国民」と比べ、立民が5.6ポイント、立憲3野党が5.5ポイント比例区得票率を増やしていますが、パターン「共産/社民/共産・国民」は詳細分類のパターン「共産・国民」の10区(民主は14年に立てたが17年には立てず希望が立候補)を含め、詳細分類のパターン「共産」の11区(前述)、詳細分類のパターン「社民」の15区(前述)という、民主党系の基盤が弱い3選挙区で構成されているためです。
21年の詳細分類の場合、6パターンのラインはやや開きが見られます。立民はパターン「社民」よりパターン「立民」で比例区得票率を4ポイント増やしていますが、同時に社民が1.7ポイント減らしているので、立民の増加分は社民から移動したと思われる分を除けば2.3ポイント程度となります。実際、立憲4野党全体では2.4ポイント増でした。
4.大阪
17年と21年のいずれも、立民の比例区得票率が高い上位3パターンは、「社民」(17年、21年とも9区。17年は服部良一氏、21年は大椿裕子氏)、「無所属」(17年の11区平野博文氏)、「立民」(両年の10区辻元清美氏など)であり、元々強い選挙区であるか、立民が立てていない選挙区であり、比例区得票率の相対的な高さは立民の小選挙区への立候補が原因であるとはいえません。
17年の簡易分類の場合、「立民/無所属」(5選挙区)、「共産/社民」(10選挙区)、「立民・共産」(4選挙区)の3パターンのラインはほぼ重なります。
17年の詳細分類の場合も、5パターンのラインはかなり重なります。パターン「立民・共産」はパターン「共産」と比べ、立民が0.8ポイント、立憲3野党が0.5ポイントしか比例区得票率を増やしていません。立民はパターン「立民」とパターン「立民・共産」の間で比例区得票率に2.5ポイントの差があるため、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。
21年の簡易分類の場合、「立民」(6選挙区)、「立民・共産/立民・共産・れいわ」(7選挙区)、「共産/社民/共産・れいわ」(6選挙区)の3パターンのラインはほぼ重なります。
21年の詳細分類の場合も、6パターンのラインはほぼ重なります。立民がパターン「共産・れいわ」よりパターン「立民・共産・れいわ」で比例区得票率を2.2ポイント増やしていますが、同時に共産が0.6ポイント、れいわが1.4ポイント減らしているので、立民の増加分はほとんど共産・れいわの減少分に等しくなっています。実際、立憲4野党全体では0.1ポイント増でした。立民はパターン「立民」とパターン「立民・共産」の間で比例区得票率に2.1ポイントの差があるため、同党の基礎力には選挙区によってこの程度のばらつきがあるのかもしれません。
5.立憲野党全体の小選挙区への複数立候補による比例区票の積み増し効果
確かに、立民・共産・れいわ・社民・国民・維新のいずれについても、各党が小選挙区で立候補しているパターンで比例区得票率が一番大きくなる傾向にあります。
では、立憲4野党(立民・共産・れいわ・社民)の小選挙区への立候補による比例区票の積み増し効果、つまり小選挙区に複数政党が立候補することで単独よりも比例区得票率を増やすことができるのでしょうか。4都府県ごとに、グラフの項目「立憲3野党」(17年、立民・共産・社民)と「立憲4野党」(21年、立民・共産・れいわ・社民)について、全パターンの比例区得票率の算術平均を割り出し、各パターンの比例区得票率から平均得票率を引いた結果としての「乖離度」を求めました。
17年の場合、4都府県全体で、乖離度がプラスとなる例は単独候補の場合で10例、複数候補の場合で2例あり、それぞれの算術平均は1.9ポイント、2.4ポイントでした。21年の場合、4都府県全体で、乖離度がプラスとなる例は単独候補の場合で6例、複数候補の場合で5例あり、それぞれの算術平均は1.8ポイント、2.0ポイントでした。確かに両年とも複数候補の場合に平均得票率からの乖離度が高くなっており、積み増し効果はあるともいえそうですが、あったとしても最大で0.5ポイント程度ということになります。
共産の比例区得票率は野党の中でパターン別のばらつきが最も少なく、各パターンのラインは共産の所で結び目のように収束して見えます。同党の場合、普段から全国の選挙区で活動しているため、小選挙区への立候補による比例区票の積み増し効果には限界があるものとみられます。
れいわ・社民・国民・維新(大阪以外)については、小選挙区に立候補しているパターンは立候補していないパターンと比べ、比例区得票率が2倍前後に増える場合があります。これらの政党は、共産とは逆に注力している選挙区が少なく、注力している立候補区で成績が高くなっているのでしょう。
6.立民の小選挙区への立候補による比例区票の積み増し効果
「立民とその他の立憲野党」のパターンは「立民以外の立憲野党」のパターンと比べ、立民が最大4ポイント、立憲野党全体が最大3.5ポイント比例区得票率を増やしています。立民の増加分は共産・れいわ・社民の減少分にほぼ等しいか、これらの減少分を差し引けば最大でも3.3ポイント程度しかありません(この3.3ポイント増は17年千葉県の例で、希望の3.3ポイント減によるもの。自公維は0.1ポイントしか減少していない)。
例外は21年の神奈川です。立民はパターン「共産/社民/共産・国民」よりパターン「立民・共産」で比例区得票率を5.6ポイント増やしています。これは、3選挙区しかないパターン「共産/社民/共産・国民」が、河野太郎と小泉進次郎の選挙区を含め、旧民主党系の基盤が特に弱い選挙区で構成されているためと考えられます。
一方、立民は立民が立つパターンの間でも比例区得票率に2.1〜5.2ポイントの差がみられる場合がほとんどで、同党の「基礎力」には選挙区によってこの程度の開きがあるとみるべきでしょう。
立民は明らかに弱い選挙区で立候補しない傾向にありますが、「立民以外の立憲野党」のパターンがそうした選挙区に相当します。このパターンと比較して最大でも3.3ポイント程度の比例区得票率の増加分は、同党の基礎力の変動範囲に収まる程度です。立民の小選挙区への立候補による比例区票の積み増し効果はありそうにありません。
7.共産と社民の比例区票のトレードオフ関係
共産と社民の間では、一方の比例区得票率が最大、他方が最低となるパターンが多くあります。千葉では17年に共産最低・社民最大のパターン1例(ただし21年に共産・社民がいずれも最大ないし最低となるパターンが2例あり)、神奈川では17年に共産最大・社民最低のパターン1例、21年に共産最大・社民最低のパターン1例と共産最低・社民最大のパターン1例(社民が野党統一候補)、大阪では17年に共産最大・社民最低のパターン1例と共産最低・社民最大のパターン1例、21年に共産最低・社民最大のパターン1例(社民が野党統一候補)があります。
17年と21年のいずれでも、社民の比例区得票率が最低のパターンは、千葉を除いて、共産が立候補している小選挙区が含まれるパターンです。
共産と社民は、野党支持の有権者同士で票が移動して、一方の票が増えれば他方が減るトレードオフ関係にあるようです。
太田光征